浴光育芽
「うん、しっかり大きい芽に育ったな。そろそろ頃合いだろう」
『浴光育芽』所謂芽だしと言われる工程をしていた”じゃがいも”だが無事に
しっかり大きい目が種芋から発芽していた。
ここまで太くなればいよいよ土に埋める事が出来るようになる。
とは言っても数百個も用意した種芋を土に埋めるのは勿論すべて手作業だ。
前世だとトラクターを使って一気にやれるところだが、この世界には
勿論そんな便利な物はない。
「じゃあマーガレット、リーシア。悪いけど種芋を埋めるのを手伝って貰えるか?」
「はい、もちろんです。ところでこの作物?は何て言う名前なんですか?
私の住んでいたところで見た事ないものなんですけど・・・・」
「あ・・ああ。これは『じゃがいも』っていう野菜の一種だよ。行商人から仕入れた
異国の珍しい作物なんだ」
うっかりしていた。じゃがいもって言ってもこの世界には無い作物だ。
余りにも自分にとってポピュラーな作物だから説明を考えていなかった。
取り敢えず適当に誤魔化してみたけどまあ大丈夫だろう。
「へーじゃがいもって言うんですか・・・」
「じゃがいもは瘦せた土地でも比較的しっかり育つし、食物繊維が豊富で
でんぷんが含まれているから栄養価も高い。何より色々な調理法があって
とても美味しいんだ」
「そうなんですね!良くわからないですけどとっても楽しみです」
うーん、やっぱり食物繊維とか言ってもこの世界では通じないか。
学問が発展してないのか、彼女に知識がないだけか。
まあ少しずつ教えていってやればいいか。
「じゃあ畝の真ん中に溝を作ってあるから、そこに沿って芽のある方を上に
して埋めていってくれ。埋めたら土を掛けるだけでいい」
「わかりました!じゃあリーシア、お姉ちゃんと一緒にやろう」
「うん!やるーー!」
前の世界だと今3月くらいの気温だろうか?
真冬の時と比べればまだマシだが、それでも素手での作業は結構きつい。
朝の内は手を擦りながら芋を埋めていた。
それでもお昼を回る頃には寒さが和らいで何なら体を動かしているせいか
汗までかくようになっていた。
三人で日暮れまでこの作業をして、陽が落ちたら飯を食べて寝る生活。
まるで江戸時代より前の生活だ。
でも灯りの確保が難しいこの世界では仕方のない事だ。
マーヴィンから蝋燭を何本か貰っていたが、この世界では高級品だ。
あまり無闇に使う事はできない。
蝋燭も作れればいいんだが、流石に作り方を知らないからな。
確か原料はハチの巣とか櫨の木の実から抽出するような
事は聞いた事はあるが・・・・。
もし機会があったらそういった書物を手に入れて自作したいものだ。
二人の頑張りもあって何百個もあるジャガイモも三日ほどかけて滞りなく
全て埋め終わった。あとは無事に芽が出るまで待つだけだ。
まだ種芋を埋め終わっただけだが、手作業でやった分何とも言えない
達成感がある。まぁそれ以上に腰が痛いが・・・。
二人も大変な作業だったが満足そうな顔をしている。
「二人ともお疲れさん。本当に助かったよ。ありがとうな」
「いえいえ、大変でしたけど楽しかったです」
「リーシアも頑張ったよ!」
「おーありがとうなリーシア」
本当なら頑張った二人に何か美味しいものでもご馳走したいところだが
残念ながらまだ毎日食べるのもギリギリなので頭を撫でて上げるくらいしか
今の俺には出来ない。
それにやらなくてはいけない事はまだ山ほどある。
まだまだ耕作面積は残っている。今のうちに色々な作物を植えておきたい
ところ。あとは肥溜めも作らないとな。
「おい、オスカー。芋だけじゃないんだろ?これから何を植えるんだ?」
今後の事に頭を悩ませているとトトノエがトコトコと歩いて来た。
こいつ最近は陽だまりで昼寝ばかりしていて完全にただの猫だ。
本当に精霊なのか怪しくなってきている。
「ああ、それを今考えていた。本当なら米農家だった俺としては稲作を
早く始めたいところだが、土が痩せている今準備に時間がかかるからな。
来年か・・・下手をすれば再来年だ」
「ふむ、じゃあどうする?」
「稗や粟ならこの痩せた土には適当なんだが、時期的にまだ早いからな。
今の時期で植えれる作物は・・・大根、ほうれん草人参あたりか」
「一度に創れる種子は一種類までだぞ」
「そうなのか?」
「まあもう少しお前自身が力を付ければ、種類は増やせるが今はまだな」
一種類か・・・・であれば根菜よりは葉野菜もあったほうがいいだろう。
となればほうれん草か。
ほうれん草は鉄分が豊富だから女性が増えたし適当かもな。
確かほうれん草は酸性土壌に弱い。
普通は苦土石灰なんかで中和したりするんだが、焼き畑は草木灰によって
アルカリ性もしくは弱酸性に傾くから相性が良い。
「じゃあ、ほうれん草の種を頼めるか?」
「承った。じゃあそこに座るがいい」
種を手に入れるためとはいえこの『儀式』は覚悟がいるな。
そんな俺の緊張を知ってか知らずかトトノエは遠慮なく頭に飛び乗り
グンっと生気を吸収し目の前には大量のほうれん草の丸い種が
パラパラと降り注がれる。
俺は膝からガックリと崩れ落ち、またマーガレットのお世話になるのだった




