13ページめ
本を読んで過ごして、3日目。アークが言っていた日だ。法魔さんを呼んで、アークの元に送ってもらう。一体、話ってなんだろう。
いつも通り、気の抜ける挨拶をして室内に入る。
ゴン………ゴン………ゴン………。
ナンダコノ『しゅーる』ナコウケイハ。
ゴン………ゴン………ゴン………。
そこでは、アークが壁に頭をぶつけながら、何かをブツブツとつぶやく、という光景が広がっていた。『シュール』って、こういう事なんだな。少し現実逃避しつつ、アークに声をかける。
「アーク?どしたの?」
すると、死んだ目でアークが答える。すっごく怖い。
『済まん。少し、自分が嫌になってな』
ほんとに、大丈夫か?この人。
「え、えーと、用事は?3日待ってくれって言ってたじゃん」
少し戸惑いながら、アークに本題を切り出す。なんだか、いつものアークじゃない。僕の知っているアークは、こんな死んだ目をしていない。
『カイト。済まない―――』
僕の知っているアークは、こんな覇気のない声を出さない。
アークは、そこで言葉を切り、何かをこらえるようにうつむく。
『ここから、でていってくれ』
そして、そう言った。
「―――は?」
ひゅっ、と喉が鳴った。怖かった。家族だと思っていた人から、こんな事を言われるなんて、思っていなかったから。〈なんで〉。そんな自分の疑問に答えるため、脳が高速で回転する。アークがまた謝る。少し遅れて、僕もそれに反応する。
「魔神様の指示?なら、しょうがないよ。法魔さん、魔力、貸してくれない?」
その言葉にアークが目を丸くし、法魔さんが目を輝かせる。
『なんで、解ったんだ?』『はい!喜んで!!』
これから特に必要になるであろうスキル指南書を、法魔さんの魔力を借りて取り寄せながらアークの質問に答える。もちろん情報輸入先生に選んでもらった。こうした方が確実だ。
「魔神様に言われない限り、家族同然の人を捨てない人だって、信じてるから」
まぁ、結局の所、それだけの事だ。その理由だったらいいなと思った。それ以外の理由だったら、嫌だと思った。それ以外、信じたく無かった。
『ありがとう』
アークがそんな事を言う。僕は、それに「当たり前の事じゃん」と返そうとする。
「がぽっ」
でも、口から出たのは、そんな音と血液混じりの唾液だった。うへ。魔力の過剰出力だ。手元に出現した本を見て、アークも気付いたらしい。頭に手を当ててから、僕の顔を拭き始める。ちょ、荒い。痛い痛い痛い。
「ちょ、ア、やめ、痛いって!」
必死で抵抗して、顔の皮が剥がれないうちに止めてもらう。本当に、剥がれるかと思った。
『殺していいですか?』
その声に振り向くと、臨戦態勢の法魔さん。それを全力で止めて、改めてアークに言う。
「では、用意を済ませたら、出て行かせていただきます」
声が震えていなかったか、自分では解らなかった。
家に帰って、マジックポーチの材料を法魔さんにもってきてもらう。その間に、錬金術のスキル指南書を読んでおく。さっき取り寄せた物だ。
「ふぅ」
息をついて本を閉じる。辺りを見回すと、隣に法魔さんが立っていて、少しびっくりした。読み終わるのを、待っててくれたのだろうか。本を読んでいると周りが見えなくなる癖、直したほうがいいかな?
『こちらが、《イーターフロッグの胃袋》です』
「ありがとう、法魔さん」
いったい、どれぐらいの時間で10枚も取ってきたんだろう。イーターフロッグって、胃袋を破壊しないように仕留めるの、かなり難しいはずだよな。異次元胃袋でなんでも喰っちゃうし。ん?よく見ると手形っぽいのが………。胃袋を掴んでひきず―――。うん。これ以上考えないようにしよう。
事前に調べておいたマジックポーチの作り方の手順通りに、胃袋5枚に錬金術と空間魔法、そして時間操作を込める。すると、光と共に胃袋がポーチ型に変化した。『なろう系ファンタジー』作品のお約束、[内部時間の止まる物入れ]の完成だ。けっこう『チート』のお約束だよなー。
「これで僕も『チート』の仲間入り。ふふふ」
『? 何を言っているのですか?』
「なんでもないデス」
恥ずかしい。あとは、出発の準備だ。




