まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(考えよう、探してみよう、作ってみよう②)
11/16:加筆修正しました。
中庭から玄関ホールへと向かえば、質素な服に黒いズボンを履いて髪を1つ括りにした自分の母リリスを見つける。
成程、今日は外行き用ではないようだからこのまま今日は薬草採取に時間を費やす予定らしい。
母親の服装でなんとなく今後の予定を把握する。
貴族の女性は基本ドレスで過ごすのがマナーと言われている為今の母のようにズボンを履くといった姿はよろしくない、なので普段は母も勿論ドレス姿だ。
けれど母の職業柄汚れてしまう仕事が多い。
人に会う用事がなければこのように動きやすい服装へ着替え作業を行うのがいつもの母のあるあるの為、今日の大体の予定が把握できたのである。
「ティリー今日は何時もの南にある庭園ではなく東の森の方までと思っているのだけれど、お母様は少し森の奥の方まで薬草の採取へ行くので1時間ほど、ティリーは東の森の入り口付近にあるルル村で護衛達とそこで待ってほしいのだけれどどうかしら?」
少し、伺うように私に言うリリスにちょっと考える素振りをしてにっこり笑って頷いた。
「はい、お母様。私そのぐらいなら護衛の皆様と待てますし私も行ったことのない所行ってみたいです。」
リリスは私の返事にほっとしつつ、そしてすまなそうな表情になる。
「いつもごめんねティリー、今日は一緒にのんびりしようって言ってたのに。貴重な解毒効果がある薬草の群生地があると聞いたものだから・・・。」
そんな母に私はブンブンと大きく首を横に振る。
「気にしないでお母様!私、そうやって人の為にお薬つくるお母様のこと誇りに思いますもの!」
だって本当に多種多様な薬を作り、ありとあらゆる薬草を知る母を尊敬している。
なのでもし母がしたいことがあれば出来る限り応援したいと常々思っているのだから、私にとってこんな些細な事問題ないのだ。
ふんふんと少し興奮気味に伝える娘の様子に少し驚いてリリスは目をぱちぱちさせたが、ほっとした表情を見せる。
「ありがとう・・・ティリー。」
そして私を一度抱きしめていつもの微笑む母に戻る。
そんな彼女の様子に私は心の中でほっとする。
やっぱりお母様が少し元気がないのはあのせいだろうなぁ・・・・。
準備に取り掛かったお母様の背を見つめながら一人思い当たるあることにふつふつと収めていた怒りが込み上げてくる。
実は少し前に父に自分専用の従者の話しがあり、お祖母様を介して優秀とされる従者を雇ったのだ。
その従者の女性は確かに所作も良く物腰柔らか、言葉遣いもきちんと叩き込まれた優秀な類だと分かる従者だった。
だが、お祖母様そしてお父様もその女性に対して見抜けなかった落とし穴があった。
その女性はひどくプライドが高く、身分の低い人間を見下す人間だったのだ。
お祖母様もお父様も公爵家、それに王家の血筋なので人柄良く接していたが私と特にお母様対してはころりと態度を変え酷く冷たい目を向けていた。初めて会った時でも正直ん?と思う節はあったがお父様は不在、対応したのは私とお母様とお祖母様だったのでそこまで深く思わなかったのだ。
だがやはりそういう勘は正しかったようで、仕え始めてからたった数日で私にそうひっそりと嫌味を言ってきた。曰くその従者は男爵程度の地位だった血筋の人間に仕えるのは癪に障るらしい、それは半分私の中に流れるので私の事も気にくわないのだとか。
ころりとまぁ、こんなにも上手く態度を変えられるものだとある意味感心していた。
まぁそんな態度にすぐ父に言っても良かったが、紹介してくれた祖母の顔もあるしとりあえず1ヶ月様子を見てみるか、1ヶ月経っても変わらなければそれまでだし、ここに順応し態度も変われば今までの事は水に流そうとそう思ったのだ。
まぁ私の経験上、この手の人間が変わるのはほんの一握りの人間だと思っているので正直無理だろうなとは思っていた。
その予測通りというか案の定、負の感情を主人である私に、大人には知られない場所で向けてきたのだった。
ただ誤算だったのがただ護られる4歳児ではなく、大人の社会に一度揉まれた記憶を持つ4歳児だったこと。
弁も頭もなかなか回らない子供なら恐怖で従順にさせることもできただろうが、何せ私なので正論で論破してやった。
初めは、「こんなことも出来ないのですか?」ということを言いたかっただろうが、アンに教わった教養でなんなくこなすことが出来たので言えず。
稀にワザと失敗してみるとこれ幸いという風に嫌味を言うが、すべての小言を聞いた後涼しい顔で「貴女私の従者でしょう?フォローの1つも出来ないのですか?」と普段ならしない大げさなため息を漏らし、別の者に本来するはずの従者の仕事を頼みその従者は退室させた。
今まで扱った子供とは違う予想外の返しに従者は虚を突かれたようだったがそれも慣れてくるとやはり自分のプライドで我慢が出来なかったようで・・・。
最悪な事にその従者は我が家の虎の尾を踏んでしまったのだ。
私から母へ標的を変えたのだ。
母は貴族らしからぬ働く女性、しかもたまに泥にまみれるようなこともする場合もある。
丁度、私と母が廊下ですれ違いざま話していた時だった。
傍にいた従者がこう言ったのだ。
公爵夫人もあろうものが汚い仕事だの
貴族にあるまじき格好だの
血筋だの
だから、このような子供が育つのだと。
それこそ一々逆なでする言い方をされたのだ。
母は案の定目の前で言われたことに少なからずショックを受け身体を震わしていた。
母の震える様子に初めて母への侮辱の言葉に私は怒りを露わにした。こいつ、もう許さねぇ・・・とそう思った時だった。
ツカツカと今までその場で動かなかった母が突然動きだし、その従者の前まで歩んだと思った瞬間、次には素早い平手打ちをしたのだ。
パァンっとだだっ広い廊下なので平手打ちした音が大きく響いた。
初めて母が他人に手を上げた瞬間だった。
平手打ちした母の顔を見れば滅茶苦茶怒りを露わにしていた、それはもう私の怒りが引っ込むほどに。
『貴女!いい加減になさい!!』
母の怒声に気が付いたメイド達や父の耳にまで入る形となり、従者は自分は被害者と父に訴えていたのだが、他に働く者達の証言を耳にしており且つ今回の騒動に私の見聞きしたことをそのまま伝えた結果まぁ相手はそのままその日に懲戒解雇となったわけなのだ。
この時母は自分ではなく自分の娘の侮辱の言葉に我慢が出来なかったそうで一気に怒りが爆発したのだと私の頭を撫でながらしょんぼり後で話してくれた。
しょんぼりしている母に申し訳なく思う一方、私はその事を嬉しく思ってしまったことは内緒だ。
4歳を迎えてから早速そんな事が起こってしまったわけだが、母はそれ以降なんてことはない様子でいる・・・いや、違う。
あの従者に言われたことが少し心の中で引っ掛かるのだろうかふとしたことに微かに表情が曇るようになった。
私も少し相手を煽り過ぎたのも原因があるそこは反省すべき点・・・だがこんなことならすぐにでも言えば良かった・・・くそ、あの従者許さん。
あんな人間の言ったそんなことより、お母様には早く何時ものように楽しく薬草いじりしてもらいたい。
そうするためにはやはり・・・。
「・・・やっぱり砂糖になるものを早く見つけよう。」
より強くそう思うのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
裏設定:名前なしの女性従者がこのように大きく出たのは両親のイチャイチャがあまり見られなかった為、これは何をしても公爵に咎められないだろうと勝手に思ったためだったそう。
母娘は知りませんが、言い訳をしている際アドルフに形だけの結婚のようなことを言われたことでアドルフの地雷を踏み怒らせ(怖い通り越して恐ろしい様子だったと周りは後に語る)、部屋から出た後彼女は真っ青で慌てて出て行ってます。
この世界の法で今回の事は貴族の侮辱罪に該当するのでこの後彼女は逮捕されます。温情で罪は軽くなり釈放されその後仕事を転々とした先で出会った男性と恋に落ち家庭を築くことになります。