まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(考えよう、探してみよう、作ってみよう㊹)
いつも読んでいただきありがとうございます。今回アース・スターノベルに応募しました。これからもよろしくお願いします!
上等な服を身に纏い花束を携えてやって来たその男は今、自分の目の前で何と言った?
聞き間違いで無ければこの前のように寝室へ赴いて、寝顔を見に行こうとそう言ったのか?
独身女性の娘の部屋に?このような夜更けに?
・・・いや、それ以前にこいつは先ほど何と言った?
この前のように?そう言ったか?
なら、こいつは娘の寝室に一度は赴いたことがある・・・。
まだ恋のいろはも知らない、純真無垢な私の娘に一緒に部屋に過ごしたと・・・ああ、そうだ。
「殺そう・・・。」
ぽつりと漏らしたのは感情が全くといっていいほど感じられない言葉だった。
彼の様子に周りの騎士が慌てだす。
以前、彼、アドルフの怒りが頂点に達した時の光景を見た仲間の騎士達の話しを聞けば、彼はあの時だけは人間を捨てた冷酷非道の化け物だったと皆怯え口を揃えて言っていた。
この状態の彼を止めるのはほぼ皆無である。
実際にあのお調子者のグリップでさえ所在の知れない男よりアドルフの方に焦ったようにそちらを見つめている事が、この場にいるメンバーの緊張感をより高めた。
そんなアドルフから今度は、レイという男を見れば彼は彼でアドルフの豹変したそれを怖がるどころか彼の放つオーラに対して極悪人な顔で、ニタリと笑ってみていた。
その表情に誰もがゾクッと悪寒が走る。
「いいなぁ・・・あぁ、こいつと殺り合ってみたい。フ、フフフ・・・あぁ、でもこいつはティリエスの父親かぁ・・・あぁ残念だなぁ・・・でも正当防衛と言って片目を抉り取るぐらいなら、許してくれるかぁ?」
周りの視線など気にせずこちらはこちらであまりにも物騒な事を言っているので、騎士達は変な不審人物から即座に危険人物として認知する。
「貴方、どうかやめて下さい!」
その声にアドルフとレイそして騎士達は声が聞こえた方へと振り向く。
一触即発の状態の中、声を上げたのは彼女の母リリスだった。
その必死な声と彼女の表情にアドルフも一瞬で冷静になるのを感じる。
こんなことをしているわけにはいかない、一刻も早く娘の元へ行かないと。
「・・・おい、さっきから何をそんなに急いている。」
流石のレイも今の状況に疑問を持ったのか、近くにいたヴォルに声を掛ける。
声を掛けられるとは思ってもいなかったヴォルは、一瞬だけビクリと肩が上がったがすぐに平静になり言っても良いべきか逡巡する。
迷うヴォルに聞く気がなくなったのか、今度は女性の方リリスに顔を向ける。
彼女も一瞬だけ彼に対して迷いを見せたが、彼女は意を決して口を開いた。
「私達の娘、ティリエスが・・・攫われたの。」
「何?」
彼女の言葉にレイはすぐさま聞き返した。
彼にとっても予想外の返答だったのか、その瞳に微かにだが動揺で揺らめく。
だが、それも一瞬で何かを理解し周りの騎士達を見渡す。
そして鼻で笑った。
「これだけの人間が居て女一人攫われるのを阻止できないなんてな・・・無能だな。」
「なっ!」「おい、よせ!」
「だけどヴォル!「その男のいう事は事実だ、冷静になれ。」・・・くそっ!」
彼の冷たい声に数名の騎士が反応するがヴォルが制止を掛ける。
その制止に不満を言う人間が居たがヴォルは彼の言葉を肯定した。
自分達が防ぎきれなかった結果が今なのだ。それに対してヴォルは何も言えない、勿論周りも騎士も不満を言った騎士も解っているからこそ何も言えずに奥歯を噛み締めることで怒りに耐えた。
レイはそんな周りの人間に長いため息を1つ吐いた後、パッと手を放してその場に花束を落とす。
そして、少しイライラした様子で手をかざすと何かが魔法陣が浮かび上がる。
その魔方陣に誰もがぎょっとしてそれを見つめた。
「あれは、空間魔法・・・空間収納!?」
「えぇーあいつ上級系魔法も使えるのー・・・力も強くて魔法も一級持ちなんてもうチートじゃん、何あれ本当はあいつ魔王かなんかなの?」
グリップの脱力した声に誰もが彼の言葉に驚愕しつつもどこか納得して魔法を使いだした彼を見つめる。
そんな視線など気にも留めずレイは中からあるものを取り出し、蓋を開け何の迷いもなく1つ口の中にポイっと放り込む。
「なんだあれ?石か?おい、石食ってるぞあいつ。」
ガラスの入れ物の中に黒い石のようなものが見え、騎士の一人がぽつりと漏らすと同時にアドルフとリリスはそれがどういう代物か理解する。
「それはティリエスちゃんの・・・貴方一体どこでっ!」
「あぁこれか、これは本人から貰ったものだ。」
右頬に頬袋を作りながらレイは答える。
驚いている2人など気にもせずその入れ物を見つめそして大事そうにその入れ物を抱え直した。
そしてその瞳には大切な宝物を見る、そんな色を瞳に宿したままぽつりと言葉を漏らす。
「あいつから初めてを貰ったものだ、誰にも渡さない。」
「・・・・・・・・・・。」
その言葉にアドルフは目の前の男を見据えそして、黙り込んで沈黙する。
様々な事を考え時折眉間に大きな皺を寄せイライラした様子も見せたが、何かを決め決心すると大きく息を吐いた。その間数秒の沈黙。そして彼は睨みつけるようにレイを見つめた。
レイもその彼の表情で何かを読み取ったのかジッとアドルフの顔を見つめる。
「君に、提案がある――――――。」
そして、その目の前の男に口を開きアドルフはその考えた提案を述べた。
初めはつまらなさそうにしていたレイだったが、その内容に大きく目を見開きそして彼も何かを考える。
その間にティリエスの贈り物をまた大事そうにしまった後、レイは考えが纏まりどうするのか決まったのだろう、口の中にあった飴をかみ砕き一欠片も零すことなくごくりと飲み干すとアドルフに向かってニヤリと笑った。
「良いだろう、今日から俺は従者として雇われることにしよう。」
「提案の条件を忘れるな。」
「あぁ、フフフ・・・十分だ。では早速仕事をしようかぁ、今からご一緒にお嬢様を迎えに行きましょうか?“旦那様ぁ?”」
「・・・・・・・・・・。」
上機嫌に笑うレイとは対象に不機嫌さを露わにしながら出口へと向かったアドルフを騎士達は別の意味で緊張感を持ちながら2人の後をついていったのだった。
裏設定;空間収納→闇と光の属性を同時に使う事で発動できる魔法。その為条件に自分の魔力属性が闇と光を持っている事、同時に2属性操作ができることが条件となるためグリップはチートといいました。基本属性は1りにつき1属性といわれ2属性以上持っている人は凄いといわれている。加え他属性より威力が跳ね上がる、影響を受けやすい闇と光は1つ持っているだけで一目置かれる。2つとも属性を持ちそれを容易く使ったレイに驚いた様子。因みに空間収納は大体2人がかりで魔法を発動させるのがこの世界では主流。