まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(考えよう、探してみよう、作ってみよう㊷)
「バカスって、確かリリス夫人に不貞を働こうとしてアドルフ卿に返り討ちに合った子爵の嫡男だった男ですね。」
ヴォルの言葉にアドルフは頷く。
「その男で間違いはない。あの時をきっかけに嫡男であったが後継者を次男の彼に継承することを決め、バカスは家から勘当を言い渡されたと聞いている。」
「ということは怨恨、の犯行だと思って間違いないでしょうね。」
「・・・そうなるな。」
ただ、あれが切っ掛けだっただけであの男は昔から手あたり次第の女性に暴力を振るい、子爵家の領地の管理財産を横領していたのが芋づる式に発覚したのが原因で、次期領主の白紙に更に貴族にとってある意味死刑にも近い爵位のはく奪を言い渡された。
己の身勝手な行動で招いた結果だというに、そんな事に俺の娘が巻き込まれたのかっ!!
その男の事を想った瞬間自分の内に怒りが膨れ上がり、それと一緒に抑えていた魔力が溢れる。
その魔力の多さに周りにいた騎士達に一気に緊張が走り、誰もが彼を焦った表情で見つめる。それは、実力があるヴォルやグリップも例外ではなかった。
彼がこんなに感情を露わにして魔力を放出するのは随分久しぶりの事だ。
味方であれば心強い魔力量ではあるが、こんな自分以上にある魔力をあてられでもすれば一時ではあるが魔力に酔ってしまい普通にしていられる人間は限られてくる。
彼ら騎士達にその魔力の層が当たるか当たらないかのところでフッと膨れ上がった魔力を霧散させ、中心に居るアドルフは深く息を吐いた。
「すまない・・・どうやら私も冷静になれていなかったらしい・・・。」
「いえ・・・、ご息女の事を想えばアドルフ卿の怒りは至極当然です。」
ヴォルは魔力が霧散されたことにほっとしつつも、彼の心情を察して口を開く。
そんな彼の言葉を耳だけで捉え、小さく息を吐くと周りの騎士達を見渡す。
皆、誰もが次の命令を待ち静かに彼の言葉を待っていた。
「すぐに出立する。だが、大人数は目立つ為少数で向かう。駿馬系統の霊獣を持つ者で数人編成、他の者は我が領の警護兵と共に警備と明朝応援にやって来る騎士隊と合流後、目的地へ迅速に案内を。屋敷にはヴォル、グリップは私と来い。」
「了解!」
「了解!」
彼の最後の言葉を聞き取った彼らは早速迅速に動いていく。
騎士達が物々しい雰囲気で部屋から出ていった後、アドルフ自身も支度をしようとした時入れ違いに誰かが入ってきた。
入ってきたのは自分の妻リリスだった。
リリスの手には見慣れた膏薬を手にしていた、恐らく眠っている彼女の為に用意したものだろう。
「貴方・・・。」
「大丈夫だ、必ず一緒に戻ってくる。」
短くそれだけを伝える、それだけ時間が惜しいという事は彼女も理解し、何も言わず泣きそうな顔で力強く何度も頷いた。
そんな彼女の不安ごと抱きしめるようにアドルフは強く抱き締めると、彼女はポロリと涙をこぼした。
「大丈夫だリリス。リリス、君は私達を信じて、置いていく騎士達と一緒に屋敷を護ってくれ。妖精から譲り受けた【幸の対の腕輪】、これは君を何度も護り救ってくれた。だから必ず身につけて私達の帰りを待っていてくれ、いいね。」
「・・・はい。」
もう一度彼女の為に大丈夫と口にしながら、彼女に言い聞かせる。
彼女は右手の腕輪の感触を感じながら、くぐもった声で言う。
そして、彼の顔を見るため顔を上げた。
「必ず帰って来てください、怪我をしても何としてでも屋敷に帰って来てください。私が、絶対どんな怪我をしていても治します!だから、だから行ってらっしゃい!」
彼女のその力強い声に、アドルフは何度この女性に惚れさせられるのだろうかと片隅に思いながら小さく微笑んだ。
と、何やら足音が聞こえ2人は咄嗟に離れると当時に1人の騎士が入ってきた。
ドアのすぐ近くに2人が居たことに一瞬驚いたものの、そこはすぐに落ち着きを取り戻し騎士はアドルフに敬礼をする。
「どうした?」
「はっ!あの玄関前に怪しい男が・・・。」
怪しい男といわれ、2人は表情を硬くする。
相手の行動が思った以上に行動が早いだと?・・・いやあの男の性格、頭から考えてもすぐに次の一手が出来る度量も器量もないはずだ、ならその男は一体何者だ?
アドルフは瞬時にそう結論付けたが、その男の正体は誰なのか分からず眉を顰める。
「その男は?武器を持っているのか?」
「いえ・・・その、妙なんです。」
「妙とは?」
「その、その男罠を確かに潜り抜けてやって来た痕跡が見れるのに、・・・えっと、服装と所持物がその――――――。」
騎士が見たその男の服装。
黒の上等な紳士服に赤い花束をもった銀髪の長身の男。
こんな夜更けに似つかわしくない男が玄関ホールに佇んでいるという報告に思わず2人は目を見合わせた。
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