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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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チョロイン

 数日の日を置き国王フェルディナントとの面会は行われた、大勢の前での面会ではお互い言いたいことも言えず、第一テオドールが慣れていないであろう事を考慮したヴァレンティンの調整により、面会は城の一室で行われた。

 二年ぶりに見るフェルディナントは以前より背も伸び幾分少年から青年へと成長していた。ユリアーヌスを亡くした事を詫びるテオドールに対し、姉からの手紙に綴られた幸せそうな様子を語り、幸せだったのだろうと慰めの言葉までかけていた。


「いつか墓参りを兼ねて卿の村に行ってみたいですね」


 フェルディナントとの会見はその言葉を受けたテオドールの「その際は歓迎いたします」という会話で終了したが、結局村を訪問するのはそれから15年後となり、しかも両名ともまったく望まない形で実現することとなるが、それはまた別のお話である。



 城での面会を終え宿に帰ると、宿には多くの人が詰めかけており、テオドールを辟易とさせた。

 アストリッドの一件が広まると仕官を希望する者達が大挙して押し寄せてきたのである、最初はボチボチといった様子であったが、次第に増えて行き、今では行列ができるまでになっていた、たった数日で何故ここまで広がるのだろうか?アストリッドの一件など身内以外の誰も知らないはずではないだろうか?そんな疑問には悪びれる事無くマレーヌが自白した「宣伝しなきゃ仕官希望なんて来やしないだろ?」なにも言い返せなかったが、ここまで混雑すると八つ当たりの一つもしたくなる、しかも待機中に食事などを宿や近隣でするため、近所からも中間マージンをもらいかなり儲けを出している様子であった、鼻歌まじりで右往左往するテオドール達を眺めるマレーヌを見ると、微妙な殺意さえ芽生えてきた。

 しかも、仕官希望で来た者達はほとんど役に立ちそうもない者達ばかりであった、傭兵崩れの中にはテオドールの噂を真に受け、仕官すれば好き放題できると思い込んで来た者もかなりおり、辟易とさせた。

 それでも、イゾルデの実家の推薦状や侯爵家の推薦状持参でやって来る者など十分に有用な人材もおり、それなりの人材は確保できそうだと安心させた、イゾルデに言わせるとその程度の手順も踏めない者は論外であるとのことであった。



 問題であるどうにもならないような希望者の一掃について一計を案じたテオドールは面接に同席していたアストリッドに面接終了後に尋ねた、

 

「アストリッドさん、いくつか質問いいですか?」


「はい、なんなりと」


 あの後よほど叱られ言い含められたのか、宿に移動してきたアストリッドは消沈したような状態で反抗や敵意の色はほとんどなくなっていた。


「侯爵様の配下の中であなたはどのくらい強かったんですか?」


 彼女は少し考えた後、少し誇らしげに言った、


「武装しての実戦、木剣を用いての模擬戦、どちらでも一対一であれば私より強いのはおじい様だけです」


 テオドールは少し考えてしまったが、アストリッドはバカではあるが嘘吐きではないように思われた、若干の過信はあるかもしれないが、騎士3人を倒した腕前からしても相当な実力がある事がうかがえるのではないだろうか?そんな事を考え、彼女に最初の命令を発した。

 その命令を受け彼女は隠す事無く嬉しそうな表情を見せ、テオドールを少し引き気味にさせていた。



 さらに約一週間後、王都の広場は異様な盛り上がりを見せていた、見物客は今か今かと開始を待ちわび、会場の興奮はヒートアップする一方であった。

 所定の時間になり登場したテオドールを見ると、開始を待ちわびた観客から歓声が上がった、


「お集りの皆さん、テオドール・フォン・キルマイヤーと申す、本日は当家に仕官希望者と、当家のつわものによる公開採用試験を行いたいと思い許可を戴いた、皆さんがこの場における証人となっていただきたい!」


 テオドールの宣誓により会場の興奮は最高潮に達した、娯楽に餓えた民衆にとって血なまぐさい決闘も過激な娯楽でしかなく、普段階級に胡坐をかいている連中が血みどろになるかと思うと、それもまた愉快な要素でしかなかった。

 テオドールにも考えはあった、一縷の希望を持ってやって来た者達に対してはすまないという思いもあったが、傭兵崩れや明らかに身を持ち崩した者達の中にはテオドールの配下になれば好き放題できると、野盗の親玉くらいに考えている者達も多数おり、それを野放しにする事は碌な事にならないという判断もあった、さらに血なまぐさい公開決闘を行う事によってより悪名が高まれば、自分に余計なちょっかいを出す輩も減るのではないか?そんな思いもあった。

 アストリッドが進み出ると一際女性陣から歓声が上がった『絵画のような騎士』そんな言葉がピタリと来るような立ち居振る舞いであった、テオドールはその歓声を聞きながら、男だと思っているのか女だと分かっているのかどっちなのかが非常に気になったが、進行があるので、あえて考えないようにした。

 反対側の待機場所から仕官希望の男が進み出る、顔を見て思い出したが、面接の席で自らの武勇伝を語り少しおだてると、捕虜にした娘をどのように扱ったか聞かれてもいない事までしゃべり出し、辟易とした記憶が甦って来た。 

 その際同席したアストリッドは怒りで今にも剣を抜かんばかりの様子を見せ、周りをヒヤヒヤさせたが、男が退出した後に誰ともなしに言ったテオドールの一言はかなり効いたようであった、


「誤解したバカが来て困るんですよねぇ」


 テオドールの言う言葉が半分は自分に向けられている事を理解し、小声で「すいません」と呟き小さくなっていた。



「両者、この勝負に際し一切の遺恨を残さぬ事を誓うか?」


「誓います!」「おお!誓おう!」


「両者の合意は成された、いざ勝負はじめ!」


 剣を立て、誓いの言葉を発した後、互いに向き合ったが、剣を構える男に対してアストリッドは剣を構える事無く片手に持ち、ゆっくりと散歩するかのように近寄って行った、男は一瞬呆気にとられたが、チャンスとばかりに剣を彼女の肩口から袈裟懸けに切り裂かんと振り下ろした、彼女は防具らしい防具は着けておらず、その一撃で勝負は決すると思われたが、振り下ろされるより早く一瞬で間合いを詰め無造作に片手で持っていた剣を男の喉元に突き立てた、振り下ろされる過程であった剣は男の手を離れ派手な音を立て石畳の上を跳ねた、彼女が剣を引き抜くと鮮血が噴水のように吹き出し彼女を染めたが、それがより一層の観衆の興奮に火を着けていた。

 次に登場した男は内心では最初に倒された男の敗因を油断したことによるものであると考え慎重に剣を繰り出したが、やはり開始数秒、一撃で葬り去られた、結局5人を葬った後でそれ以後は全員棄権してしまい終了となったが、鎖帷子で武装した相手をまるで意に会する事なく葬り去る彼女を面と向かってバカと呼び、数日前も嫌味を言った事を思い出し、寒気がした。



 公開決闘の夜は小規模な祝宴となった、主役であるアストリッドはかなり上機嫌であった、人を殺す事に抵抗がまるでないわけではないが、面接の際に彼らが語った戦歴は非道を賛美するかのようなものであった、彼女の矜持からすればそれは外道の所業であり、そういった輩を斬り捨てる事になんら躊躇ためらいはなかった。


「強いとは聞いていましたが、あそこまで圧倒的とは予想以上でしたね」


 テオドールの誉め言葉に謙遜しつつも満更でもない様子がありありと見て取れた。

 祖父の影響力もあり、そこまで露骨ではなかったが、周りは自分の剣技を碌に認めてはくれなかった『女だてらに』『女のくせに』数えきれないほど言われてきた、元々同僚と決闘騒ぎを起こした原因も、木剣の試合ならポイントを取って勝利できても、武装した上での真剣勝負では、非力な女では防具にはばまれ有効なダメージを与えることなどできないだろう、と言う挑発を受けてのものであった。

 それに対し、テオドール達は一剣士としての自分の腕前を評価し、称賛してくれている、そう考えるとより上機嫌になり杯を重ねて行った。

 称賛すれば称賛するだけ上機嫌になり、得々と剣技について語る彼女を見て、一同はみな思った『こいつチョロイ』と。





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