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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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主従

「さて、理由を聞こうか?」


 宿に戻って緊急会議が開かれると、開口一番テオドールは質問を開始した、事情を聴いたマレーヌも面白そうにその様子を眺めていた、よほどカイが吊るし上げを喰らう所を見て見たかったのかもしれない。


「テオドール様と非常に相性がよろしいと思われたからです」


 シレっと答えるカイに一同は唖然としながらも、ゲルトラウデが反論を開始する、


「どこがですか?あんな失礼極まりない女!」


「たしかに、しかし裏を返せば、馬鹿正直な人物とお見受けしました」


「だが、あそこまで毛嫌いしていて修復できるのか?」


 次いでイゾルデの疑問にもほぼノータイムで返答する、


「可能かと思われます。元々が誤解から来ているだけに、村での様子をみていれば自ずと氷解することと思われます」


 まだ何か言いたげなテオドールに対し、続ける、


「ヴァレンティン様、エッケハルト様、両名に大きな貸しができたのも大きいですが、今後を考えると彼女をおそばに置くことの利は大きいかと」


 少し考え込むようにした後で、テオドールは質問を開始した、


「貸しができたってのは理解できる、実際移民の件でかなりサービスいい話をしてたしね、それだけでも十分だと思うけど、それ以外に何かあるの?」


「兇状持ちの女剣士さえ上手く扱い飼いこなす、このような事が評判になれば、埋もれた人材が活躍の場を求めてやって来る事も期待できます、最優先課題である人材問題解決の糸口になり得ると思われます」


 そのカイの理論は理解できたが、それによって生じる新たな問題の方が深刻な気がした、


「それって、余所からはみ出したようなのとか、微妙に問題あるのとかが来るんじゃないの?しかもまた変な噂になって広まりそうにも思うんだけど」


「そうなりますが、扱いずらそうな者は不採用とすればいいだけかと。噂に関しましては、噂の真偽も見抜けぬやからはその時点で問題外かと」


 なんら紹介状も持たずやって来ても採用される可能性など皆無であり、しかるべき筋からの紹介状でもなければ門前払いが当然である中で、一縷の希望を見出してやって来る者に対してかなり酷ではあるが、採用に関しての判断基準などどうしていいものやら分からず、余計な煩雑さを招くのではないだろうか?という疑問もわいてきたが、蓋を開けて見ない事にはなんとも言えず、結果がどう動くのかを静観する事とした。


「ちなみに、今回の一件はどんな噂になると思う?」


 イゾルデに向かって言うと、彼女は少し考えた様子の後で、


「最高の剣技を受け継ぐ女剣士が死神の後継者に戦いを挑むもあっさりと敗北、結果配下となる、みたいな内容ではないんですか?うまくいけばですが」


「うまくいかなかった場合は?」


「剣ではかなわないと見て卑怯な手で勝利し、好き放題もてあそび性奴隷として飼っている、みたいな感じですかね」


「どっちの噂が広まると思う?」


「後者でしょうね」


 『最悪だよ!』叫びたい気持ちを抑えていたが、皆は笑いを堪えるので必死であった。

 クックと笑いながらマレーヌが質問してくる、


「坊やはどうなんだい?ものにしちまえば案外素直になるかもしれないよ」


 言われてアストリッドを思い浮かべると最初は美青年と思えたが、女性としてみればかなりの美形であろう、ただ閨を共にしたいか?と問われればどうもその気になれないとしか思えなかった、一番の理由はユリアーヌスに対しての後ろめたさなのかもしれないが。


「美形だとは思いますが、どうもその気にはなれませんね」


 けっこう好みがうるさいんだねぇとケタケタと笑っていたが、ユリアーヌスを亡くしたばかりの彼を気遣っているのか、それとも無神経なのか判断に苦しむところであった。



 小さなテーブルを挟んでヴァレンティンとエッケハルトは二人だけの酒宴を開いていた、二人とも安堵と不安の入り混じったような表情であったが、エッケハルトのそれは特に顕著にその傾向が顕れていた。


「まずは、重畳と喜んでおこうか」


 ヴァレンティンの言葉に「はっ」と小さく頷くが、不安の種は尽きずにいた。


「惜しむらくは、女に生まれた事かな、男にさえ生まれていればよき後継者となれていたであろうがな」


 エッケハルトにしても彼女の剣の才能に関しては若くして死去した息子以上のものを感じていた、それ故に自分の持ちうる剣技の全てを徹底的に伝えていた。

 しかし、剣士としては申し分なく鍛え上げる事に成功したかもしれないが、それ以外の教育を疎かにしてしまったと悔やんでもいた。

 正面からの正々堂々とした戦いから最も遠い男と言われたレギナントの後継者の元に行き上手く必要なものを吸収してくれればいいが、水と油のように全く噛み合う事無くとんでもない事態を引き起こすのではないだろうか?そんなことを考えると、胃が痛い思いがした。


「そういえばテオドールという男、貴様はどう見た?」


 問われて、エッケハルトは貧相な小男としか言いようのないテオドールの事を思い浮かべてみた。

 王姉から絶対的な信頼を寄せられた事、捕虜だったという少女が『刺し違える』とまで言い切るほどの信頼を寄せた事、物語に語られるような美青年ならわからなくもないが、あの容姿であそこまでの信頼を勝ち得るのは人柄なのだろうか?三代に渡って仕える忠臣とはいえ、部下のスタンドプレーをあっさりと容認する懐の深さは感じられたが、それでさえ頼りない雰囲気もまた感じられた。そうかと思うと、侯爵様にむかって『こんなバカいりません』と啖呵を切る無謀と言うか小気味良さ等、どうにも計りかねた。


「正直、計りかねます」


 エッケハルトの正直な感想にヴァレンティンも愉快そうに笑う。


「だろうな、二代にわたって評価し難い者よ、ただ軍を動かす際、側に置いておきたいとは思わんか?」


「ですな、先代も厄介な男でしたが、あいつも相当な曲者くせものかと」


 すると思い出したようにヴァレンティンは笑い出し、エッケハルトが何事であろうかと怪訝な顔をしていると、笑いを堪えつつ話し出した、


「いや、先代は特にそういった話はなかったが、テオドールは女に纏わる話がかなり聞こえてきたものでな、もしかしたら曾孫の誕生も早いかもしれんぞ」


 可愛い孫があの風采の上がらない男の子を産むと考えると、かなり嫌な顔をし、ヴァレンティンのより一層の笑いを誘っていた。

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