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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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人の口

 王都には書状を出したのち、テオドール一行は王都を目指したが、村の復興や防衛のためにどうしても多人数を割くことができず、10人程の少数での行軍となった。

 王都で処理しなければならない諸々の案件に対し、最も頼りになりそうなユリアーヌスの助言がもう得られない事も大きな不安材料となっていた。

 

 王都に到着すると、まずは旅装を解くべくマレーヌの宿へと向かい、宿をとった。

 マレーヌは村の襲撃の件やユリアーヌス死去の情報も知っており、テオドールを見る目には同情の色が浮かんでいた。言葉数こそ少なったが、慰めるような思いが感じ取れた。

 

 一休みした後、奥の部屋へと通されると、そこは前回よりも大きな部屋で、5人で入ってもだいぶ余裕のある造りになっていた、全員が席に着くとマレーヌが話始めた、


「カイからの手紙でだいたいの事情は知ってるけど、私に手配できるとしてら移住希望者くらいなんだけど、開拓村への移住者となると厳しいねぇ」


 町で仕事にあぶれているからと言って、開拓村での過酷な環境に順応できる者はそうそういないだろう事は想像に難くなかった、


「嫁候補ならそれなりに確保できるんだけど、開拓村の環境に耐えられるのかは微妙だねぇ」


「それは苦界の女達ですか?」


 イゾルデがあまり好ましくない、と言わんばかりの調子で言うが、マレーヌは一向に動じる気配もなく、「それがなにか?」と返す、その返しがあまりにも堂々としたものだったので、イゾルデは返答に窮してしまっているところにマレーヌは続ける、


「不作で税金が払えず売られた娘や、戦争で家や家族を失い他に生きる場所が無くなった娘がどうやって生きて行くんだい?お嬢ちゃんにはそんな事も分からないのかい?」


 お嬢ちゃんなんて呼ばれるのは何十年ぶりだろうか?そんな事を考えながらも、確かに生きる方法なんてそれくらいしかないであろう事は想像に難くなかった、


「まぁ、微妙なのも確かなんだよね、この世界に長くいると、次第に身を持ち崩していって、普通の社会に順応できなくなっちまうからねぇ」


「救える範囲では救えないんですか?」


 それまで黙って聞いていたゲルトラウデが口を挟む、マレーヌは彼女の品定めをするようにジっと見つめると、少し寂しそうに言った、


きりがないんだよ、だからこそまだ見込みのありそうなのが居たら紹介はするよ、受け入れる方の問題もあるんだから、そういう時はフォローしておやり」

 

 少し嬉しそうに返事をするゲルトラウデをマジマジと見た後で、テオドールに向かって少し苦笑いを浮かべながら語り始めた、


「あんたの事は王都でもかなり噂になってるけどねぇ・・・極端なのが多いんだよねぇ・・・」


「極端?」


 彼としては、自分の噂に少なからず興味はあったが、吟遊詩人の語る物語の脚色具合を見ると、どのように語られているのかを聞くのは非常に怖く感じられた。

 そんなテオドールを見ながら、クックッと笑いを嚙み殺しながら言う、


「一言で言うと色狂いだね」


 一同唖然としてしまった、現実を知るが故に噂話とのギャップに呆然として二の句が継げないでいた、そんな一同を尻目に、少し真面目な顔に戻りマレーヌは顎でゲルトラウデを示しながら続ける、


「そっちのお嬢ちゃんは散々慰み者にされた挙句、足の健を斬られて領主屋敷で飼われているらしいよ」


 『じゃあ、ここにいるのは誰なんだ?』そんな一同の疑問を余所に彼女はさらに続ける、


「王姉、伯爵令嬢、村娘、捕虜、王姉付きの侍女、女と見れば見境なしに手を出す女狂い、ってのが専らの噂だね」


「半分はでっち上げですね・・・半分は心当たりが有りますが・・・」


「まぁ事情はカイからの手紙でだいたい知ってるよ、ただ人は真実よりもおもしろい噂を信じるからねぇ」


 それがプラスに働くかマイナスに働くかといえば明らかにマイナスだという予想も立った、好き好んでそんな所に移住したがる若い娘など滅多にいないだろうから、伯爵領の住人になるとさすがにそれが噂である事を知っており、なんとかなったが、王都まで行くと面白いゴシップ話の方が先行してしまい、どうしても悪評が先に立ってしまう節があった。

 皆が微妙に不快な顔をしているのが見て取れると、フォローのつもりなのか、付け加えるように話を始めた、


「ユリアーヌス様との結婚に関しては、美談の方が人気があってそっちが主流だよ」


「詳しく!」


 その話に最も興味を惹かれ喰いついたのはやはりイゾルデであった、その剣幕に少し押されながら、内容を話し始めた、


「領地継承の承認のため訪れた王城で王姉に一目惚れする。『彼女が欲しい』と熱烈に求婚するが、意地の悪い宰相が無理難題を押し付ける。しかし知恵と勇気で12の試練を乗り越え、ついに結婚を認められるって話だったはずだよ」


 『盛り過ぎだろ!』テオドールは思ったが、イゾルデは泣き笑いするような表情でポツリと言った、


「姫様が聞いたらさぞ面白がったことだろうに」


 慰めなのか、人生に対する諦観なのか、マレーヌの呟きは違った色を帯びていた、


「人の口に語り継がれ、その人を悲しむ者がいるだけ幸せさ、ゴミのように捨てられた名無しの死体見てると心底そう思うよ」


「そうですね、だからこそ、その名を永遠のものとすべく努力していただかなければと思っています」


 テオドールに目を向けながら語るイゾルデの言葉に思わず反論する、


「いや、自分は謙虚、堅実をモットーに生きていこうと思っているん・・・」


「最低でも、宰相か元帥になってもらう事で姫様の名は永遠のものとなることでしょう」


 『こいつ話聞いてねえ!』テオドールがそんな事を考えている中で、冗談とも本気ともつかないイゾルデによるキャリアアッププランは語られていった。

 






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