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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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 葬儀はしめやかに行われた、二年前のレギナントの葬儀の際は病を患い、そう長くないという覚悟が村全体に行き渡っていた、しかし今回は出産という慶事から最悪の展開となった事による落差は激しく、村の沈痛なムードは前回よりひどいものであった。

 葬儀に参列した村人達も一様に悲しんでいたが、移住組との温度差ははっきりと感じ取れた、移住組にとってユリアーヌスは領主夫人でしかなく、会った事がないどころか、顔を見た事すらない人物であり、悲しみの実感がわかないというのが本音であった。

 例外的にほんの少し前の戦役で妻子を失ったクラウスのみは自分の身に起きた悲劇とオーバーラップし、誰の目にも悲しみに沈んでいる様子が見て取れた。

 そんな悲しみの実感のわかない移住組の中でも特にとんでもない事を考えていたのがアラベラであった、彼女は元いた村でも指折りの器量良しと言われ結婚の申し出も多数あったのだが、どの相手もお眼鏡に適わず今度の移民の話に乗る事となった。

 彼女の理想は高く、村長や名主の家の息子でも物足りず、領主夫人や王の御妃などを夢見ていた、両親も現実を見ろと何度も諭したが彼女の意思はなかなか変わらず、今回の移住もほとほと手を焼いた両親による厄介払いの傾向が強かった。

 しかし、そんな多少の問題を抱えた彼女であったが、たしかに見た目はよく、テオドールもマルティンもその見た目は褒め称えていた。

 葬儀の最中でありながら、領主夫人が死去した今だからこそ、領主に取り入るチャンスなのではないだろうか?田舎村の領主であるが、もう一つ村を開拓する話や、歴戦の兵であるという話を聞くと、妥協点としてはマアマアではなかろうか?見た目は貧相で冴えないがこの際、妥協しておこうか、等と口に出したら間違いなく処刑対象になるような事を考えながら式に参列していた。



 テオドールはその喪失感を埋められないままでいたが、後に残る自分達のために最大限の手配をしてくれていた彼女の思いを無にする事だけはしてはいけない、そんな思いから今後について考えるようにしていたが、やはり思い出されるのはユリアーヌスの事が大半であった、


「イゾルデさん、もし子が無事生まれていたら、ユリアーヌスはどうするつもりだったんですか?」


 ふと気になる質問をぶつけたが、彼女は2枚の似たような羊皮紙を取り出すと、隠す事無く提示した。

 内容はそれぞれ、男子が生まれた場合の実子証明、女子が生まれた場合はアルマの子と双子としての実子証明という内容であった。


「アルマにも言っておくが、ユリアーヌス様は決して君や君の子を害しようとは思っていなかった」


 分っていました、そう答えるアルマにもそれが真実である事は分かっていた、もしユリアーヌスの後押しやフォローがなかったなら今の自分はいなかっただろう事は分かっていたのだから。

 今後自分の息子と親子の名乗りはできないけれど、テオドールのために最後まで尽力した彼女の意思を思えば苦になるようなものではなかった。


「現実的な話をしましょうか」


 割って入るように、ヒルデガルドが話を開始した、


「報告や移民依頼の調整に王都に上らないとまずいでしょうね、ユリアーヌスが手紙で依頼はしておいてくれただけに、それを完遂させないとすべてが無駄になるわ」


 ヒルデガルドにしても悲しかったが、感情と理論とを分け、ここでは理論を極力優先させた、最も彼女の残した仕事を無に帰したくないという感情的な部分も強く働いていたのだが。

 テオドールにしても、もう王都に行きたくない、などと言っていられない事は理解していたし、絶対に完遂しなければならないと言う使命感を持っていた。


「ちなみに、足りないものが何かわかってる?何もかもが足りないって事じゃなく、優先的に確保しておかないと困るものって意味でね」


 彼女の問いかけに、足りないものが多すぎて、何を優先しなくてはいけないのか即答できなかった、その様子を見ながら、今度はカイに問う、


「カイ、あなたは分る?」


「私の代わりでしょうな、まだ大丈夫なつもりですが、さすがにあと何年現役でいられるか保証しかねますからな」


 カウの回答に軽く頷くが、この問題はかなり深刻でもあった、従士長として騎士に準じる立ち居振る舞いを要求され、しかも信用できる人材、軍務経験も豊富、そんな人材は村にはいなかった、今から人材育成では間に合いそうもなく、外部から招く場合この家には口外できない秘密が多すぎる、どうしていいのか名案は浮かばなかった。


「言われてみればたしかに早期に解決しておかなければならないのは理解できた、なにかいい案はないのかな?」


「育成が時間的に無理でようから、外部一択になるわね、ただし信頼って点で問題なら一蓮托生で、うちが潰れたら色々と困るところから引っ張るのが妥当でしょうね」


「伯爵家からか・・・」


 それが理屈的には最も妥当な策であることは分かっていた、しかし危惧すべき点としてパワーバランスの問題があった、内部で伯爵派の人間が増えることにより主権が脅かされる可能性があり、最終的には乗っ取られるような危機感を感じさせるものがある。

 派閥均衡人事というのであれば、今まではユリアーヌスの存在もあり、その危険性はあまりなかったのだが、そのバランスが一気に崩壊しかねない状況が生まれていた、


「お待ちください、私にも案があります」


 イゾルデが発言を求め、それに応じると彼女は自案を披露しはじめた、


「先の戦役は家を継げない者達による村の襲撃でしたが、王都の宮廷騎士家も似たような状況の者はおります、実際私も三女で身の振り方には苦労した側面がありますからね、実家に伝手を頼れば確かな人材を確保することも可能かと思われます」


 ヒルデガルドはその案を聞き頭の中でかなり先々までのシュミレーションを行った、実家の発言権が強くなる事は自分の子供にとっては一見いい事のように見えるが最終的に伯爵家の傘下に組み込まれ独立的な地位を完全に失う事にはつながらないだろうか?まだ生まれてもいない我が子の事で未知数な部分は多いが、この地理的条件で独立性を保てている事自体が奇跡的であり、これ以上伯爵家の介入力を強くする要因はなるべく排除する方が長い目で見ればいいだろう、そんな結論に達していた。


「その方がいいかもね、ただ、その場合騎士階層から平民階層に墜ちる事を了承させられるの?」


「それを受け入れられない者など最初から役に立つと思えませんので、こちらからお断りでしょうね」


 少し思案するようにしていたヒルデガルドは笑いながら言った、


「あなたって、もっとポンコツな人かと思ってたら、ちゃんとしたも思考できるのね」


 ヒルデガルドの発言にユリアーヌスに挑発的な事を言う在りし日の姿がダブり微笑ましいような悲しいような複雑な気分にさせられたが、これもヒルデガルドなりの喪失感を埋めるための言動だったのかもしれない。


「あの方の乳姉妹からはじまり、30年以上御側仕えをしてまいりましたから」


「え?40年近くの間違いじゃないの?」


 その場にいる者達はみな逃げたくなった『それを言ったら戦争だろう!』みながそう思う中、イゾルデは勝ち誇るように言う、


「まだ、四捨五入すれば30です~、そこ!いちいち数えない!」


 彼女の発言を聞き、指を折って数え始めたアルマを強く糾弾する、真実の追及が正しい事ばかりではないので、ここは関わらないようにするのが最善の策であると思い、皆は静かにしていた、唯一人を除いて、


「まぁ、そんな事はどうでもいいとして、グリュックの乳兄弟も欲しいところよね」


 彼女の発言に、アルマが恐る恐ると質問する、


「乳兄弟とか必要なんですか?よく分からないんですが」


「ええ、未来の側近候補、相談役として、いた方がいいわね、なんでも言い合える相手が側にいるって貴重よ」


 これも悩ましい問題であった、農民の中で似た年齢の者を育てるのも手だが、これは相手の家との繋がりを作るという側面もあるため、やはり王都で人材を求める事になるのであろう、そんな話をしながら最後にさらに口撃をする事を忘れなかった、


「マリアさんが産んでくれると早いんだけどね」


 先ほどからの口撃に少なからず思う所のあったイゾルデは反撃を開始した、


「テオドール様、今場お伺いしてよろしいでしょうか?仕込みがないとさすがに産めませんので!」


 場は完全に凍り付いた、色々つっ込みどころがあり過ぎて、どう言っていいのか分からない、そんな空気が場を支配した。

 どことなく皆が予定調和のように芝居を行っているかのようであったが、そうすることによって残された者は喪失感を乗り越えて次に進もうとしていた。



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