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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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ラブレター

 いつ果てるともなく続く愁嘆場だったが、意を決したようなイゾルデの一喝で場には緊張が走った、


「泣くな、アルマ、子供の事は残念だったが、お前にはユリアーヌス様が命と引き換えに残した子を育てる義務があろう」


 いきなり語られた整合性のない話に一同は涙を忘れ戸惑いを隠せずいたが、いち早く気づいたのかヒルデガルドが呟いた、


「そこまで考えて・・・」


 彼女の決意の重さを痛感して、さらに嗚咽するように泣き出した、


「その子はアルマの子だよな」


 生きて産まれる事叶わなかった赤子の亡骸を抱く産婆に対し、詰め寄るように詰問する、そこでやっと意図を理解した一同だったが、勝手にそんな話にして故人の遺志はどうなるのか?そのような思いから、テオドールはすまなそうにイゾルデに話しかける、


「言いたい事は分かるけど、勝手に・・・」


「姫様の意思です」


 テオドールの言葉を遮るようにイゾルデはキッパリと宣言し、署名入りで書かれた羊皮紙を取り出した、


「アルマの出産のすぐ後で、このような事態を想定し、その子の出自を証明する宣誓文を書いておられました、これがあれば正式な証明として受理されます」


 一同はここにきてユリアーヌスの覚悟を改めて感じ涙していた、


「重ねて問う、その子は誰の子だ?」


 今度はアルマに問いかけた、彼女は涙と嗚咽でかなり不明瞭ながら宣言した、


「ユリアーヌス様の残された子、乳母として命にかえてお育ていたします」


「それでいい、姫様も喜ばれる」


 イゾルデは最初から涙を止めるつもりもないかのように泣き続けていたが、気丈にもユリアーヌスの意思を最後まで伝えきった、そして最後に蝋封された一通の手紙を取り出すと、テオドールに渡した、


「宣誓文を書かれた時に一緒に書かれたようです、内容は私も知りません、このような事態になったら渡すようにと、以上が私がユリアーヌス様から預かった全てです」

 

 みな静まり返る中でエレーナがイゾルデの言い回しに違和感を感じ、声を挙げる、


「イゾルデ!早まった真似は許しませんよ!」


 彼女はエレーナの言っている意図を理解したうえで、努めて冷静に返答する、


「御心配には及びません、ユリアーヌス様からは最後の命令を戴いております、その命令を完遂するまでは死んでも死に切れませんから」

 

 イゾルデの様子から自分の早とちりであった事は気付いたが、その命令内容について尋ねると意外な回答が返って来た、


「ヘボ詩人はテオドールの戦いを記録し、いつか私に報告なさい、あなたの語る『レイヴン戦記』楽しみにしていますよ。私には行く末を見届け報告する任務ができました」


 それだけ言うと、疲れたので少し休ませてくださいと言い退出して行った、30年以上にわたって苦楽を共にしてきた、妹であり友人であり主君でもあったユリアーヌスの死を一人悲しむため、どうしても一人になりたかった、そうでなければ受け入れられなかった。

 廊下に出たイゾルデは一人呟く、


「これでよかったんですよね・・・」


 イゾルデの退出後エレーナも少し持ち直したように指示を出し始めた、


「あなた達もお下がりなさい、特にあなたはこれから産むんでしょ?しっかり休みなさい」


 エレーナが、ヒルデガルド、アルマ、テオドールの三人に下がって休養するように言うと、次いで残った村の女達に秘密の厳守を誓わせた。そしてユリアーヌスに最後の化粧に取り掛かった、化粧する手は震え、涙がまたあふれ出してきたが、美しく送り出してやりたいと震えを抑え化粧を施していった。



 自室に戻ったテオドールは、喪失感から呆然としていたが、イゾルデから受け取った手紙の存在を思い出し、ほぼ機械的に彼女の手紙を開封し読み始めた。


              ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

拝啓テオドール様、


あなたがこの手紙を読んでいるという事は私かもう亡くなっているという事でしょうね。


私は最後にあなたの子を産めましたか?


もし産めていたら男の子でも女の子でもどちらでもいいです、健やかに育って欲しい、ただそれだけです。


もし産めていなかったら、ごめんなさい。


どうなったとしてもあなたに貧乏籤を引かせないように最大限の努力はしておきますね、約束でしたから。


強制された結婚にもかかわらず、あなたは私を十分愛してくれました、幸せでした。


この村での生活は窮屈な宮廷と違い本当に楽しかったです。


ヒルデガルドとは色々ありましたが、本音でぶつかり合える相手は初めてで非常に楽しかったです。


アルマの事は大切にしてあげてくださいね、私に突き付けた最初の要求だったのですから。


たったの二年間でしたが大変充実した二年間でした。


願わくばもっとこの楽しい時間を過ごしたかった。


子供をこの手で抱きたかった。


子供の成長する姿を見たかった。


あなたともっと一緒にいたかった。


どうしても未練がましい話になってしまいますね。


たぶん、すごい未練を残して死んだと思います、ですが後悔はありません。


年増の行かず後家と陰で言われ、修道院行き確定だった私に、母になる喜びまで与えてくれたのですから。


そう考えるとあなたは不運でしたね、そんな外れ籤を押し付けられてしまったのですから。


男の子だったらあなたにはない好運が授かるように、グリュック。


女の子だったら私が戴いた幸せが同じように得られるように、フロー。


そんな名前はいかがでしょうか?ズボラなあなたはそういう事考えてなさそうですしね。


いつかあなたの武勇伝を、あなたから直接聞くかヘボ詩人から聞くか、その時を楽しみにしておきます。


これまでも、これからも、永遠に愛しています、永遠に見守り続けるでしょう。


いつか遠い未来また会える時を信じて。


             ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 涙で読めなくなり何度も中断しながら読み終えると、静かに、そして深く泣き崩れた。






 


 

 



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