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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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陰湿なる報復

 テオドール達が村への帰還を果たした数日後に、約束を守る形で捕虜の解放は行われた、ブラゼ村に居残っていた者達もここまで連行され、ここでまとめて解放という運びとなっていた。

 しかし解放する前に強烈な意匠返しとでもいうべきイベントを用意してからの解放となった。


「これはどういうことですかな?レイヴン卿」


 中央広場に廃材等と共に並べられた味方の遺体を見て、ブラゼ村で交渉を行った老人が問いかける、しかしテオドールは余裕の態度で返答する、


「ん?火葬するだけですよ、野ざらしにすると獣が寄って来て困りますからね」


 老人は声を荒げ、詰め寄らんばかりの態度に出る、


「ふざけるな!約束が違うだろう!」


 さらにどうでもいいと言わんばかりに返す、


「ん?火葬して骨にしてしまえば身許は絶対に分からなくなりますよね?そのうえで埋葬するんですよ、完璧じゃないですか」


 顔に怒気を浮かべ吐き捨てる、


「背教者め!神罰が下るがいい!」


「う~ん、中止して遺体を引き渡してもいいですよ、一体につき銀貨100枚に負けときますけど、どうしますか?相場的に破格のお値段ですよね?」


 彼の提案に対し、馬鹿にするのもいい加減にしろと言わんばかりにフンっと言ってそっぽを向いてしまった、武装解除の際に持ち物を尽く没収された彼らは、まさしく一文無しであり、そんな金を払う余裕などあるはずもなかったのだ、分かり切っている事を言い相手の苛立ちを引き出すのは、アルマの両親をはじめとする顔見知りの村人達を殺された彼なりの敵兵に対する意匠返しの一部であった。

 遺体を焼く事はいつか来る終末での復活を信じる者にとっては許しがたいタブーであるが、彼に言わせれば生者を死者へと変えた者達の方がよっぽどの背教者に思えた。

 しかも戦の理由が己が安住の地を求めてというのであればなおさらそう思う、奪われた方はたまったものではない、実現の可能性の乏しい話ではあるが、原野でも森林でも開拓して自分たちの安住の地を奪うのではなく作り出せと、ヒルデガルドの提案を聞き、村の開拓という困難を伴う事は分っていても希望ある新たな道を示唆された後では余計にそう思われ。


「異論はないようなので灰にせよ!」


 彼の号令の元、遺体は炎に包まれ、生き残った兵士達はそれを憎しみや怒りの籠った目で見つめる他なかった。


 解放する村人側としては、本来なら身内を殺された恨みを晴らすべく相手を、痛めつける事無く解放することに慙愧の念を感じてもよさそうなところであったが、仇の死体を焼き払い、生き残りの悔しそうな顔を見たせいか、どことなく余裕のようなものが感じられた。


「もうここまで来れば大丈夫だろう」


 解放され村からかなり離れた所で、老人が皆に声を掛ける、


「これからどうする?」


 尋ねられた老人は、沈んではいるが使命感に満ちた声で答える、


「まずは国許に帰り、事の顛末を報告しよう、いつかこの報告が何かの役に立つかもしれん、仲間達の生き様や最後を伝える義務もあると思っているしな」


 皆無言で頷く中で一人が薄笑いを浮かべながら話す、


「やつら俺達に食料も路銀も武器も与えず、どうせ道中でくたばると思って余裕かましてるんだろうよ」


 他の者も薄笑いを浮かべながら応じる、


「だろうな、だからこそ奴ら最初は殺気立っていたのに、解放の折はかなり余裕すら感じられたからな」


 皆、詰めが甘い、次の機会があれば、焼かれた恨みを晴らす、等と口々に言い合っていた。敗戦の傷を少しでも癒そうという精神的自己防衛だったのかもしれないが、その思いは一気に打ち砕かれた、


「なんだこれは!」


 皆、叫びたくなる気持ちを共有した。もし敗れた場合、生き残った者達が国許へ帰れるように、保存食と路銀を道から少し外れたところに隠しておいたのだが、数か所に分けて隠しておいた金品が全てなくなっており、近くの木や岩にこれ見よがしに鴉の紋章が刻まれていた。

 

「あいつ、ここまで読み切っていたというのか・・・」


 唖然とする老人に、何人かが困ったような顔で問う、


「どうすりゃいいんだよ?」


 誰も何も言わないが、選択肢は限りなく少ない事は分かり切っていた、再度降伏して捕虜となる、なにもない状態で草でも食べながら国許まで帰る、ここで死ぬ、その三つくらいしか道は残されていない事は明白であった。


「あの鴉になど絶対に降伏できるか!岩にかじりついてでも国許に帰りついてやる!」


 老人はさらに大声で叫ぶと歩き出した


「聞こえているか、鴉の偵察よ!帰ったら主に伝えよ!絶対に復讐するとな!」


 他の者はその言葉を受けキョロキョロと辺りを見回したが、誰も発見できなかった、本当にいるのかいないのかわからなかったが、留まる事に不気味さを感じ皆で老人の後を追って歩き出した。

 実際に偵察はその様子をきっちりと見届けており、帰った後皆に報告した、


「国許に帰りつけますかな?」


 フリートヘルムの問いかけに、「奇跡でも起きない限り無理でしょうね」と、あっさりと回答した。

 陰湿な報復ではあったが、家族や仲間を殺された村人の心情からすれば、この真綿で締め殺すかのような報復は僅かばかりでも溜飲を下げるものであった。

 フリートヘルムとしても自分や配下の者達が使っていた武器や防具を村攻略の際に再利用して使っていた事実を知らされ、その返還を受けたが、配下を殺された恨みを思い出すと、この若干の陰湿さを含んだ報復も至極妥当な事に思われた。




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