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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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爆弾発言

 テオドール達がアルメ村に到着したのは、ブラゼ村を出て丁度20日目となった、伯爵領からの補給物資等や今回の件に纏わる、謝礼金、慰問金、を携えての帰還となったが、村全体の沈んだ雰囲気は拭い去れるものではなかった。

 捕虜にされ憔悴していたが、補給物資の調達等で、汚名返上とばかりに見事な調整能力を発揮したフリートヘルムも同行していたが、村の沈んだ空気を目の当たりにすると、二年前の完全勝利に浮かれた状態が嘘のように思われた、そして、その沈鬱な状況を招いた責任の一端が自分にあると思うと、居たたまれない気分にもなった。

 共同での葬儀、埋葬を終え、一応の落ち着きを取り戻しつつあったが、やはり身内を亡くした者はその悲しみから完全には脱却できずにいた。


「ようこそおいでくださいました、戦の後ゆえ簡素な歓迎となりますがご容赦ください」


 エレーナに迎えられて、屋敷へ入って行った伯爵一行であったが、出迎えの一同を見たフリートヘルムは言葉を選ぶように、話しかけた、


「あ、すまないが、二年前の来訪の際、給仕していた娘で名は失念したのだが、今日は見かけないようだが、かわりないのかな?」


 一同は誰の事を言っているのか、すぐには分かりかねた、二年前の給仕に出ていた娘で今いないのはアルマしかいなかったが、フリートヘルムが彼女になんら興味を示すとは思えなかったからだ、


「あー、だから、何と言うか・・・」


 非常に言いずらそうにしている事から、テオドールは一応尋ねてみた、


「もしかして、片腕のない娘のことですか?」


「そうだ、失礼かと思ってな・・・」


 二年前は見苦しい者を給仕に使うな、と言っていただけに皆少し驚きを感じたが、悪意はまったく感じられなかった、


「現在あの娘は身重で休ませています、今回の戦で両親を亡くしていますので、しばらくは静養させるつもりです」


 エレーナの回答に少しすまなそうな顔をすると「そうか」と呟き続けた、


「あれから従軍経験を積み、現場歴の長い兵士達と接するうちに、彼女にすまない事を言ったと思い、会う機会があったなら一言詫びようと思っていたのだ」


 その発言を聞き、ヒルデガルドなどは「へぇー、ちょっとは成長したってことね」と少しからかうように言ったが、フリートヘルムはあえて無視して続けた、


「子が無事生まれた時の為に、何か贈っておこう」


 もっとも父親が誰なのかはこの時まだ知らず、知ったら後で、微妙に複雑な顔をする事となった。


 翌日は朝から、復興に関しての打ち合わせとなったが、昨晩のうちに被害状況を聞かされテオドールは投げ出したくなっていた、それほどにひどい状況であった。

 死者73人、その数字だけ見ても村人の25%近くが亡くなった事になる、遺族への見舞金をはじめとした諸手当て、生産者を失った家への補填、考えるだけで頭が痛くなってきた。


「申し訳ないが、伯爵領の町村で移民希望者を募ってはいただけないだろうか?」


 エレーナの発言に、オルトヴィーンも一応募ってみると約束はしたが、男女比率の最終調整は各々の村長・名主衆による調整となる、初期手当の援助なども必要となり『まったく余計な戦おこしやがって』と今更ながら匿名希望の指揮官に対して怒りがこみ上げてきた。


「捕虜も早急に釈放してしまうのがいいだろう、長引くと暴発する村人が出そうだからな」


 エレーナは言ったが、それにはテオドールが待ったをかけた、


「今朝、村長のマルティンさんにちょっとお願いをしておいたんですよ、2~3日くらい待っていただけますか?」


「何を頼んだのだ?」


 テオドールの口から飛び出した内容に一同は驚きを隠しきれなかったが、言われてみれば考えられない事もなく、同意の意向を示した、


「まぁ約束したとはいえ、感情的にはねぇ、奴隷か死かの二択くらいが丁度いいでしょう」


 一同に反論はなかったが、フリートヘルムは敵の指揮官について語り始めた、


「敗れた私が言うのもなんだが、ここまで戦略を練り、自分の死後も計算に入れているとしたら、味方であったら頼もしい存在であったのではないかな?」


「でしょうねえ、敵としては最悪でしたけど」


 その時オズオズとゲルトラウデが尋ねてきた、


「老兵を入れてとはいえ、400名集めるのもすごいですが、裏切り者を出す事無く行動に移せたのはどうしてなのでしょうか?」


 みな考え込むようにしていたが、エレーナが回答を語りだした、


「私の実家は喰うや食わずの末端宮廷騎士家だったのだが、そんな家の次男三男はまったく身の振り方もないぞ、大きな家でも家を継げない者にはあまりいい未来が用意されてはいまい、時間をかけ同様の境遇の者と夢を分かち合うように同志を集めたのではないだろうかな?」


「埋もれざるを得ない人材か・・・もったいないな・・・」


 フリートテルムの呟きにヒルデガルドがからかうように言う、


「私が男だったら、長男を抹殺して乗っ取るのにねぇ」


 『こいつならやりかねない!』みなそう思ったが、引き笑いをして場をごまかすくらいしか対処する術はなかった、しかし彼女の口撃は止まらなかった、


「だいたい、捕まったりするから援軍出す事になってこの村に被害が出たの理解してるの?」


 何も言えず、沈黙してしまうフリートヘルムに代わってテオドールが弁護する、


「あれはしかたないと思うよ、あの状況では野盗の襲撃だと思ったろうし、すぐに駆け付ければ村人の被害を減らせるって僕も考えたと思うよ」


 本心であった、罠を仕掛ける方は自分の罠を極力臭わせないようにするために、あの場面で完全に見切れる人物などはたしているかどうか甚だ疑問であった、


「甘いわね、だからこそ私が男だったら乗っ取りをかけてるでしょうね」


「お前が女で本当によかったよ」


 フリートヘルムとしてはそのくらいしか言い返す術はなかったが、オルトヴィーンとしても骨肉の争いが起きなくてよかったと思うと同時に、男であったならヒルデガルドを本気で後継者にしたかもしれない、そんな事を考えていた。

 しかし、さらに続く彼女の言葉に、一瞬場は止まった、


「まぁ乗っ取りは勘弁してあげるから、領土ちょっと頂戴、生前贈与ってことで」


「はぁ!」


 一同が唖然とするなかで、彼女は無視して続ける、


「カイ!地図持って来て!」


 あわててテーブルの上に広げられた地図を示しながらエレーナに確認をとるように尋ねる、


「第三次廃太子戦争の際にこの村が戦場になった、その時に緊急避難地になったのがこの山の麓のこのあたりだったはずですね?」


「ええ、そのあたりに老人や女、子供を中心とした避難地を設置した」


「麓以降は伯爵領になるから、緊急に御父様の領地を許可を得て間借りしたって事だったわよね?」


 今度はオルトヴィーンに確認をとるように言う、


「うむ、戦時中はそこに援軍として駐屯に行ったものだ」


「そこ頂戴、そこに村作るから」


 まるでおもちゃをねだるかのように無邪気に語る彼女に対し、一同が考えが追い付かず沈黙していたが、代表するかのようにテオドールが質問した、


「村の人口が減って移住者を募ろうって時に新しく村を開拓するのは無理があるんじゃないかな?お金もかかるし、移住者の募集をさらにしなくちゃならないし、どう考えても無理じゃない?」


 みな、もっともな意見であると、頷いているが、彼女だけは平然とした顔で続ける、


「今回の件で気付いたでしょ?リンブルク方面からの侵攻には極めて強固でも反対側からの攻撃には意外な脆さを露呈するって」


「伯爵領から攻めて来る可能性は低いわけだから、そこまでの強固にする必要はないんじゃないかな?」


「今回みたいに、少数ずつ移動されて、一気に奇襲をかける戦術をとられたらまた被害がでるわよ、二度三度やられたら耐えられる?今回もあと一押しされたら危なかったんじゃないの?」


 反論はできなかった、たしかにリンブルク側から攻めるのであれば、山を移動する間の奇襲で大きく削る事も可能であろうが、伯爵領からの侵攻の場合、山道とはいえ道が敷設され、そこまで大きくは削れない事も予想できた、もちろん備えはあり、村に遠征組がおり万全であれば、村に到着するまでにかなり疲弊させる事は出来たはずではあるが。


「しかし、先立つものが・・・」


「ないなら、あるところから調達すればいいのよ」


 ヒルデガルドの発言にオルトヴィーンとフリートヘルムがギクっとした顔でしきりに反論を開始する、


「たしかに今回、私の失態はあった!しかし、伯爵家の貯えとて無尽蔵にあるわけではないぞ!」


「そうだ!援助せんわけではないが、ブラゼ村の復興もあるし、村一つ作るのはかなりきついぞ!」


 彼女はこの発言を聞き内心で成功を祝った、援助額について文句を言っているが、領土の割譲についてはなし崩し的に了承してしまったようなものだったからである、


「まぁ、そこは応相談って事にして、ユリアーヌス様の後ろ盾であった、ヴァレンティン侯爵の領地からも移住者の募集をかけてもらって、他にも王家直轄地からも募集をかければかなり人員の目処はたつんじゃない?お金に関しては産まれる子供の安全って名目で王家にもちょっと出してもらえない?」


「まぁ確かに、何とかならないわけでもなさそうね、子供の安全って言われると弱いわね、私も」


「中央とあんまり関係持ちたくないんだけど、しかたないか・・・」


 どうも田舎育ちの彼にとって王都は行きたくない場所であり、厄介な場所という印象がぬぐい切れず、了承はしても歯切れの悪い回答となっていると、


「ったく、三児の父になるんだから、もう少しシャキっとしなさい!」


 言っている意味が分からず、皆が静まり返っている中で、一呼吸置き誇らしげに彼女が宣言する、


「どんなに遅くても、もう絶対に来るはずのお客さんが来ないのよね、たぶんできてると思うわ!」


 呆気にとられた後オルトヴィーンは娘にできた待望の外孫を手放しに喜んでいたが、皆内心では『もう少し上品な言い方はできないんだろうか?』などと考えていた。

 侍女という立場に甘んじてアルメ村で生活していた時に、子供ができた際の自分の地位確立のための策がやっと日の目を見た形だった。


「もう一つ村を作っておけば今回攻めてきたバカ達みたいにならないように、分割相続って手もありますしね」

 

 ユリアーヌスに対して微笑みながら言う『父親から分割させた領地なんだから最悪こっちは寄越せよ』そう言っているようにしか聞こえなかった、しかしユリアーヌスも微笑みながら返す、


「気の早い事ですよ、まだ男か女かも分かっていないというのにね、私の子は男の子の予感がするのよね」


「気のせいじゃないんですか?」


 二人の微笑みに不穏な空気を感じ「このあたりで」と言って会議の終了を宣言するテオドールの意見に誰も反論はなかった。

 会議の終了後もにこやかに火花を散らす二人を見ながら『下手したらヒルデガルドの子供に伯爵領を乗っ取られるのではなかろうか?』『あれ?三児って事はもう一人いるのか?』そんな事を考えてしまうフリートヘルムだった。





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