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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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密室軍議

 彼らに与えられた部屋で、地図を前にして軍議が開かれようとしていた、従士であるカイや侍女であるゲルトラウデが口を開く事を嫌う者も多いだろうとの配慮から、黙っていたが、身内のみになれば自由に議論がなされる、だいたい戦歴で見た時にカイを凌ぐ者などもはやほとんどいないであろうに、身分に縛られバカバカしい限りだと言える。


「人質の解放は急務としても、そちらは交渉だから出番はないんじゃないかなぁ?」


 テオドールの発言にヒルデガルドは素っ気なく合意する、元々そういった交渉事に向いているとも思っていないし、あきらかに経験もない、問題はどのような条件で折り合いが付き、そこからどう展開させていくかだろう、ヒルデガルドにすれば戦術等は皆無に等しい。


「ふむ、人質の事を考えずとも、この村は攻略が困難ですな・・・・・」


 カイの言葉を受けヒルデガルドは地図を見て見たが、何故困難なのか今一つ理解できず聞いてみた、


「力押しとか数で押すみたいにはできないの?兵数なら父の軍勢を使えば相当数集まると思うけど」


「ご覧ください」


 言うと指揮棒を街道の上をなぞるように動かしながら、村へ続く一点で止めた、


「森林地帯が続く中を街道が横切る形となっております、ここを封鎖した場合力押しでは10倍の軍を持ってしても困難かと」


 狭い道にバリケードを組まれたらそれは攻城戦の様相を呈してくる前回の戦で村の中から見ていただけだったが、塀や門を突破しての攻略は困難そうであることは想像に難くなかった、


「街道を迂回して後方に出て一気に村を落とすとかはできないの?」


「可能かとは思いますが、移動中に奇襲を受ければ身動きが取り難い森林部や山岳部では、甚大な被害を生みかねません」


 もっとも面子にかけて落とすと言うならば、敵の兵力を最大で千と見積もってもギリギリ落とす事は可能であると考えられた、もちろん損害はその後の領地経営に暗い影を投げかけるほどに甚大なものとなる事は想像に難くなかったが。

 ヒルデガルドも言われて地形を見ると、確かに困難であることが理解できる、被害予想がひどいことになりそうなのは想像に難くなかった、いい方法が思い浮かばないイライラもあり、テオドールの方を向くと少し強めの口調で詰問を始めた、


「あなたはなにかいい方法はないわけ?」

 

 その言葉を受けて、考えるように地図を眺めていたテオドールはポツリと言った、


「何もしないんじゃダメなのかな?」


「はぁ?」


 攻略方について話し合っているのに、なんだそれは?と思うのも無理からぬ話であったが、その呆れたような言葉を受けて続ける、


「うちの村もそうなんだけど、一番怖いのは経済封鎖をかけられてる事なんだよね、長期戦の構えを見せてジックリ行った方がいいんじゃないのかな?もちろんなんらかの交渉で義兄上を取り戻した後でって条件付きだけどね」


「すいません、それはあまりよろしくないかと・・・・」


 オズオズとゲルトラウデが意見を発する、


「うん?どうしてかな?」


「街道を押えればたしかに軍の移動、流通をストップさせ干上がらせる事も可能かと思います、ただその場合敵は少数に小分けした部隊を用いて森林を突破、合流した後別の村を襲うといった方法をとる可能性もあり、領内を内側から攪乱させ、足元から揺さぶりをかけるような戦略に出る事も考えられます」


 彼女が言いながら動かす指揮棒の先に候補となる村が数か所あり、どこが襲われるかまでは分からない事や、彼女の語る戦略が決して無理のあるものではないと思われると、テオドールの口から思わず声が洩れる


「えげつねぇ・・・利口な盗賊集団で本拠地を持たないが故に神出鬼没な戦いができるって事か・・・」


「はい、非常にレギナント様の戦い方に似ておられるかと・・・対応方法まではまだ思い付きませんが」


 防衛のために動員令を出し続ければ当然のように費用がかさむ、人質の件と合わせて足元を見るかのような交渉を行うつもりなのだろうか?そんな事を考えるも、とりあえず外様である自分達には主導的には動けず様子見を行い相手の出方を見るしかないとの結論に至った。


「しかしさ、この村一つとっても維持できないし、どういうところに落としどころをもってくつもりなのかな?」


 それまであまり口を挟まなかった、ヒルデガルドがスっと全く違う場所を示すと、一言つぶやいた、


「リンブルク」


 一同の目が地図に集まる、先代の頃三度にわたる侵攻に失敗し、以後攻勢に出る事のなかったリンブルク王国が動く可能性がいかほどあるだろうか?皆その事を考え出していた、


「西方面を遊撃部隊によっておびやかし、注目を集めた所で北から一気に伯爵領を落とそうって作戦かな?だとしたら早めに手を打って他領、王家にも援軍要請しないとまずいんじゃないかな?」

 

 テオドールの言葉にヒルデガルドは思案するようなそぶりの後で、沈痛な表情で言う、


「厳しいかもしれない、当たっていればそうなるけど、外れていたらたかが盗賊団に大規模な援軍を頼んだってことで物笑いの種になる」


 その言葉を受けてテオドールも思案するが、伯爵の軍は北への備えとして、軽々に動かすことなく、少数の自軍だけで人質の奪還、賊の殲滅をやってのける、しかも敵は統率のとれた少数精鋭の部隊である可能性すらある。

 『どうすりゃいいんだよ!』彼は心の中で叫んだが名案が出るわけでもなく、暗澹たる気持ちになったがそんな考えもカイの発言で少し変化が出てきた、


「リンブルグが動く可能性は低いかと、理由としましては大規模に軍を動かすとなると事前に準備が必要となってきます、そうなりますとどうしても諜報網に情報が上がるはずですが、現状そのような情報がないとなると、可能性は薄いかと」


 皆が敵の意図や目的を読めず沈黙が支配していると、ヒルデガルドがまたも微妙な提案を行ってきた、


「敵の行動がレギナント様に似ていて、鴉を紋章にしている点からも相当意識しているんでしょうね、だったらこっちも同じことをしてみたらいいんじゃないの?」


 彼女の言っている意味を完全には皆理解できず、彼女に注目し次の言葉を待っていると、一人一人を指さしながら、自信ありげに彼女は策を披露した、


「元側近、後継者、信者、それぞれ自分がもし指揮官ならどうするか、相談抜きで作戦を立ててみれば、相手の意図も読めて来るんじゃないの?」


 カイとゲルトラウデは「ふむ」「たしかに」等と乗り気になっていたが、後継者と指名されたテオドールにしてみれば、どういう作戦を立てればいいのかまるで見当がつかない状態であった。










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