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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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会議は踊る

 村の防衛であるなら限界まで動員できるが、遠征となると若干勝手が違ってくる、村をがら空きにして野盗の襲撃でも受けようものなら目も当てられない事となるからである。

 それでも、友好近隣領主に大問題が発生したとなると体裁を整える程度の動員だと信頼関係を損ないかねない、カイとも相談して50名での動員が決定すると、準備を早急に整え出立する運びとなった。

 伯爵の本拠地である、フェルゼンの街までの間、同行するヒルデガルドを慮って馬車へと同乗しての移動となったが、車中は重い空気に包まれていた、あきらかにイライラしているヒルデガルドを宥めるようにテオドールは話しかける、


「まぁ、生きてるんだからいくらでも挽回のチャンスはあるし、なんとかなるよ」


「なんでそう言い切れるのよ!」


 あきらかにイライラしている相手に対して、若干の配慮にかける発言ではあったが、吐き出させた方がいいという判断と、元々頭の切れは抜群にいいのだから、理詰めで思考誘導した方が、納得し落ち着くと考えた故であった。


「一緒に行った従騎士、従士の死体は晒されるようにしてあったのに、義兄上の死体はなく、兜だけがこれ見よがしにおかれていた。『生け捕りにしてあるぞ!』って脅しをかけてるんじゃないかな?」


 しかし彼女はイライラしていても冷静だった、理論的な反論を開始する、


「可能性の問題ね、もし私が敵の指揮官だったら、殺してしまっていても生きているように見せかける、理由は攻撃の手を緩めさせるためね」


 テオドールもその場に同乗していたゲルトラウデもこれには沈黙してしまった、戦術等はまるで分からなくても人間の心理に関しては相当深く読み込めるだけあって、ヒルデガルドの読みはかなり鋭かった。しかし、そこにゲルトラウデが考え込むようにした後で言葉を発した、


「意見を言ってよろしいでしょうか?」


「いいわ」


「今回の事件の顛末について、あくまで手紙からの情報だけなので精度に欠けるとは思いますが、非常にレギナント様の戦術に似ているように感じられたのです」


「うん?どういうこと?」


「おびき寄せて殲滅し、大将を生け捕りにして有利な交渉を行う、この戦術を研究した者がそれにアレンジを加えたような印象を得たのです、ですから殺してしまっていては意味がないとしか思えないのです」


「その予想が正しいとすると、敵は単なる盗賊団や傭兵崩れじゃないってことになるわよね?」


「はい、盗賊団なら交渉などせず、殺して逃亡の可能性が極めて高いと思われます」


 そこまで聞くと彼女は黙り込んで何やら考え出した、やはり重苦しい空気は払拭されなかったが、幾分マシになったように感じられ、ゲルトラウデを連れてきて良かったと安堵したものだった。



 オルトヴィーン伯爵の居城に着くと挨拶もそこそこに会議室へと通された、テオドールがカイ、ゲルトラウデ、ヒルデガルドを引き連れて会議室に現れると、軍議の席に女連れというのがよほど気にいらなかったのか非難めいた目で見てくる者も数名いた、一人の従騎士ははっきりと非難を口にしてきた、


「失礼いたします!ヒルデガルド様はともかく軍議の席に女連れとは少々場違いではございませんでようか、レイヴン卿」


「ごもっともな意見かもしれませんが、彼女は我が軍師ですのでどうかご容赦ください、姫もそれを了承しておられます」


「ええ、彼女の戦術眼はたしかよ」


 女子供に何が分る、とでも言いたげな目をしていたが、主人の姫にそこまで言われると何も言えず黙らざるを得なかった。

 会議の席では手紙の内容以上に細かな内容が報告された。後詰の要請を受けて援軍がブラゼ村へ向かうが途中森林を横切る街道が丸太等により封鎖されており、その封鎖前にフリートヘルムに従った従騎士、従士の死体が積み重ねており、その死体の上にフリートヘルムの兜が鎮座した状態であったとの事で、回収しようと近寄ると封鎖されたバリケードの向こうから矢が降り注ぎ回収さえままならぬ状況であったとの事だった。

 思うところはあったが、黙って聞いていると、オルトヴィーンが意見を求めてきた、


「卿はどう思う?」


「盗賊の類ではないでしょうね、手際が鮮やかすぎます。こちらからも質問よろしいでしょうか?」


「ああ、なんでも聞いてくれ」


「ヒルデガルドに聞いてもよく分からないとの事だったのですが、ブラゼ村の産業、収益など教えていただけませんか?」


 一同は怪訝な顔をした、それがどう関係するのかまったく関連性が見いだせなかったからである。たまらず会議に参加している一人が腹立たしそうに尋ねた、


「いまそんな事にどんな関連性があると言うのだ!」


 つとめて冷静にテオドールは答える、


「盗賊の類ではないとすれば、いったいどんな連中なのであろうか?と考えたのです、もし国規模の話であれば、村の割譲をフリートヘルム様の身柄の交換のような戦略を描いた者がいる可能性を考えたからです」


 難しそうな顔をしながら聞いていたオルトヴィーンであったが、意を決したようにテオドール主従に質問を投げかける、


「時にレギナント殿には親類縁者のような者はいないのかな?」


 質問の意味がまったく理解できず、思わずカイの方を向き助けを求めると、カイも困惑したような顔をしながら回答してきた、


「僭越ながら、初代様から仕えておりますが、そのような話はないかと・・・・・」


 ふむっと小さくうなずき、また考え込むようなそぶりを見せながら言う、


「卿らを疑う気など微塵もないが、配下の死体のすぐそばに鴉の旗が掲げられていたのだそうだ、見た者の目には本物と寸分違わぬ物であったという、卿らではないとするとなんら縁者ではあるまいか?と考えてしまったのだよ、これだけ鮮やかな手並みを見ると余計にな・・・・・」


 テオドールとしてはこの問題をそこまで深くとらえていなかった、へぇ~真似したのかな?目的はなんだろう?意図は濡れ衣じゃないとしたら、挑戦状かな?などと考えていたら参加者の一人が言う、


「だからこそ、卿の見解は根本から間違っているのだ!」


「え?何故です?」

 

 その間の抜けた返答に、そんな事も分からんのかと言いたげな顔をしており、助けを求めるように、カイやゲルトラウデを見るも、それは確かにまずいですね、と言わんばかりの困ったような困惑顔を浮かべていた。とぼけているのではなく、知らないのであろう事を察したオルトヴィーンが助け舟を出す、


「もし国家として動いているのであれば、紋章の偽造は極めて重大な詐称として、それを行った騎士や縁者は永遠に不名誉な烙印を押されることとなり、とてもじゃないが交渉のテーブルへなど着けなくなる。」


 初耳であり全く知らない事実であった、騎士家の紋章など適当に気に入った意匠でかまわないと思っていただけに、意外な事実であった。しかしそうなると疑問もわいてきたために、率直に質問してみた、


「当家は祖父が興したと聞いていますが、そういう新興の家は勝手に紋を決めてよろしいのでしょうか?」


「そういったケースの場合はあまりにも格式の高い家の紋と似ていたり、同じ題材を避けるようにする傾向がるかな?鴉を紋に使う家など聞いた事があまりないしな」


 テオドールとしては自分が騎士の家では当然知っているべき知識が所々欠如している自覚があるだけにかえって疑問点は率直に質問できた、さらに質問は続く、


「では、新興の家が鴉を紋に選んだという可能性はないのでしょうか?他国に興った新興の家などでしたら、紋が認識されていないのケースも想定できるかと思ったのですが」


 その言葉に参加者一同は無言で微妙に嫌な顔をしていた、その可能性は0ではないものの、鴉を紋に選ぶ者などいるわけがない、というのが率直な感想であった。実際、鷹や鷲は人気のある意匠として多く使われていたが、鴉を選ぶ変わり者などまずいなかったからである。撒いた種をほじくる、死肉を漁る、不吉、等ろくなイメージがないからであろう。

 口にこそ出さなかったが、個人紋として、道化師や死神を選ぶあたり、感性を疑われるような部分がかなりあった、あんな変な感性の奴がそうそういるわけないだろう、という思いが場を支配していたのだ。

 ただ、この反応を見て敵の意図が朧気だが読めた気がした、『挑戦状』であろうと。


 

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