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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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急報

 緊張気味の中年女性がいた、何度も会った事のあるの人なのに、領主屋敷で会うとかなりかしこまった対応となる、しかも今回は事情が事情故になおさら緊張感を増している。


「まぁ、気楽にお願いします、アルマが回復するまで屋敷内の事をよろしくお願いします。アルマ共々貴賓室に移っていただくので、側にいてあげれば彼女も安心するでしょうから」


 彼の隣に控えるヒルデガルドは傍目にも面白くなさそうな顔をしている、テオドールにしてみれば腫物に触るようなものなので、なるべく目を合わさないように心掛けている。

 

「もういいわよ、早く顔を見せに行って御上げなさい」


 彼女は「はい」というと下がりゲルトラウデに案内されてアルマの下へと向かって行った。

 残された二人には微妙な空気が漂うが、口火を切ったのはヒルデガルドだった、


「私だけ手を抜いてるなんて事はないわよね?」


「手を抜いてるとしたらそれはコウノトリなんじゃないかなぁ・・・・・なんちゃって・・・・・」


 半笑いしながらなんとか切り抜けようとしたが、彼女の視線は氷を思わせる物だった。

 彼女としても、自分の言っている事が八つ当たりである事は十分頭では理解できていた、ただただ気に食わないのだった、特になんであのババァが先に妊娠するんだ?という思いが強かった、しかもダブルでショックを受けたのはほぼ同時期にアルマの妊娠も発覚した事だった、丁度生理期間中であり、自分の妊娠は現状ない事も確実であった、しかも彼女はかなり重い方でその事も相まって余計イライラしていたのだった。

 言われる方のテオドールにしても言い分はあった、バランス取るのにどれほど苦労している事を愚痴りたい気持ちでいっぱいだった、伝え聞く話では10人以上の愛人を抱える貴族や王族がいるとの話だが、よくそんなに体力も精神力も持つものだと感心する。もっとも彼らは体力はともかくそこまで愛人に気を使っておらず、むしろ愛人達が寵愛を得るために、どこまでも気を使っているのだという事実を彼は知らなかった。


「まあいいわ、ただ意地悪で言うわけじゃないけど、子供の身の振り方はよく考えておいた方がいいわよ、あのババアは暗殺くらい平気でやってのけるだろうからね。」


「そういう話はせめて夜の寝室でしない?聞かれたら余計な不和を招くよ」


「半分冗談よ」


 口ではそう言っているが、かなり平常心を失っている気はした、いつもは悪口にもどことなく愛嬌が混じっている気がするが、辛辣なだけで笑える雰囲気は欠片もなかった。

 彼女もそれを分かっているからこそ、少し自己嫌悪に陥りそうな所を大きく息を吐くと切り替えるかのように話始めた、


「まぁいいわ、生まれるまで毎晩、限界まで搾り取ってやるから覚悟しなさいね」


 『あ、俺死んだ』彼は一瞬目眩に似たものを感じた、彼女は美人でスタイルもよく、世の人が聞いたら『モゲロ』とか『死ね』と言ったかもしれない、しかし、いくらご馳走だからと言って毎晩毎晩吐くまで食べさせられたら拷問と変わらなくなるんだと、彼は強く主張したかった。ただ、言われっぱなしも癪だったので、一応言い返してはおいた、


「まぁ、返り討ちにしてやるから、その時になって泣き言を言わない事だね」


 その言葉を聞き彼女は鼻で笑う、今まで彼は彼女に勝利した事が一度もなかったのだ、もっとも言い訳もある、男にはどうしても限界というものがあり、越えることは不可能な領域というものがあるのだと。

 しかし冗談はさておくとして、真剣に考えないといけない問題である事も事実である、跡取りの男子を皆が望んでいるのだが、子供の未来に関しては悪いケースばかりが浮かぶ、アルマと話しても子供の行く末について心配ばかりを口にしており、なだめてもなかなか不安を解消できないでいた。ユリアーヌスは善処するし、危害を加えるつもりはないと明言しており、現状それを信じたいところではあるが、もし両者が男子を産んで成長するにつれ、アルマの子の方があきらかに優秀であったとしても平静でいられるだろうか?それ以前にユリアーヌスの年齢で初産に耐えて母子共に無事でいられるのだろうか?子供は無事だったとして、ユリアーヌスが亡くなり、その後ヒルデガルドが子供を産んだらどうなるだろうか?

 考えれば考えるほど、頭と胃が痛くなってきそうな問題であり、中立的な立場で相談できる人間が限られている事も悩ましい問題であった。エレーナやカイは中立的ではあるが、細かな継承問題にはそこまで的確なアドバイスも出せず、むしろ的確なアドバイスを出せそうな、ユリアーヌス、ヒルデガルド、イゾルデ、あたりはどうしても偏りが出てしまう。結局は成り行き任せになってしまうが、経過を見るしかないというのが結論になってしまい、不安感はまるで解消されないままの停滞が続く事となりそうであったが、その不安は別の、より大きな問題によって上書きされることとなった。


「急報です、これを!」


 カイが慌てた顔で蝋封で厳重に封印された手紙を持ってやってきた、


「詳しくは手紙に書いてありますが、使者から口頭で聞いた概要によれば、フリートヘルム様が戦闘で行方不明となられたとの事です!」


 ヒルデガルドの顔から血の気が引き青ざめるのがハッキリと見て取れた。

 後に『鴉戦役』と呼ばれる戦いの幕開けであった。


 

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