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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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三者三様

 考えはすぐにはまとまらなかったが、時間のある時になるべく読むように言われているレギナントの書き残した戦術や日記などを思い出しながら、どうするのが最善手であるのかを必死に考えてみる事とした。


 まず客観的事実を並べると、敵は攻略困難な地を奇襲によって制圧、拠点とした、そこに援軍としてやって来た伯爵家の跡取りであるフリートヘルムを生け捕りにして、手出ししにくくした。


 フリートヘルムが援軍に来た理由は近場の村に巡回で来ており、しかも治安維持のための精鋭部隊を率いていた、偶々ではなく、おびき寄せるためだったのではないか?そうでなければ悪い偶然が重なりすぎている。


 精鋭部隊を全滅させ、しかも後詰めの部隊を寄せ付けないように街道封鎖を行う手際の良さから見ても、巡回で隣村へ来るタイミングを見計らって村の襲撃を行い、わざと伝令を見逃しておびき寄せたところで一網打尽にした。


 そこまで計算して、今の膠着状態に持って行った理由はなんだろうか?リンブルクの参戦を期待している?だとすると計算できない国を戦略に組み込んでいる事になる、ここまで計算する人間がそんな不確かな事を行うだろうか? 


 自分達の勢力のみを計算に入れて戦略を練るとしたら、このまま膠着状態が続いて、仮に安全の保障と引き換えに人質の解放が行われたとして、そんな約束にどこまでの拘束力が生じるだろうか?


 陥落させた、ブラゼ村はたしかに森林の中を横切る街道を封鎖してしまえば、陥落困難な地ではあるが、難攻不落とまではいかない、ここに立て籠もっても先細って消えゆくのが分るはず。立て籠もらず、打って出た場合さすがに戦力差によってすり潰されるのは目に見えている。


 自らの絶対的な城とするにはブラゼ村はあまりに心許ない、では少数で落とし支配する事が可能で、占拠することで難攻不落の要塞と化す、そんな都合のいい場所は・・・あった・・・


 そこまで考えると、地図を見ながら報告にあったブラゼ村の襲撃があった日、自分たちの所に報告が来るまでの日数等を頭の中で必死に計算した。

 敵がもしフリートヘルムを生け捕りにした後でほんの少数を残し、分散するようにしながら、アルメ村を目指したとするなら自分達の援軍出発と入れ違いになるようにアルメ村に奇襲攻撃をしかけていたとしたら?最初の第一手からすべては村の精鋭を村から引きはがし、村の防衛能力を大幅に下げる策であったとしたら?


 そこまで考えて少し気分を落ち着ける事にした、さすがに自分たちの村を大事に思うあまりに飛躍しすぎた考えであろう、しかし鴉の旗など明らかに挑発ととれる行動からも、どうしても不安を拭えずにいた。

 そんなテオドールな不安を余所にゲルトラウデが、意気揚々と意見を口にし始めた、


「狙いはリンブルクの認可を受けた領主となる事だと思われます、そのために村と人質の解放を条件に国境付近にある、マヨーア村あたりと交換を持ちかけてくるのでは?と考えました」


 地図を眺めて見ると、たしかに国境付近の村を手土産に領主騎士として迎え入れてもらえるならかなり都合のいい話ではある、リンブルクとしては侵略の橋頭保を無条件に近い形で得ることができ、しかもそこには手練れ領主が最前線で盾となる。理に適っている、そう思わせる戦略ではあったが、やはりリンブルグの決断如何にかかるという点で他力本願的な印象も受けてしまった。

 続けて、カイが意見を述べた、


「途中まではほぼ同じですが、村と人質の解放の代償を金銭で求めるものかと、それを元手に出身国で爵位を買う等できるのでは?と考えました、これだけの部隊を率いる者ですから元は騎士家の出身と見て間違いないと思いますので」


 一理あるが参加者で分配するといくらくらいになるのであろうか?発起人たちがほとんど取ってしまえば参加した者達が反発し、場合によっては造反が起きかねない、参加者達の統制の取れ方から考えて果たして身代金で事足りる問題なのだろうか?

 そんな事を考えていると、ヒルデガルドから意見を述べるように促された、しかし意見以前に気にかかる点が出てきたので、その質問を優先させた、


「ちょっといいかな?農民の次男、三男なんかはけっこう身の振り方が大変だけど、貴族ってどうなのかな?」


 その質問にヒルデガルドは少し考えるようにしながら回答する、


「どっちがきついってわけじゃないけど、身の振り方は色々難しいわね、子供のない家、もしくは女子しかいない家に養子、婿入り、できれば最高だろうけど、めったにないみたいだし、競争は激しくなるしね」


「そうなれなかったらどうなるの?」


「庶民落ちだけど、都市部でもなかなか仕事に就けなくて、どうなる事やらって感じみたいね」


 世知辛いのはどの階層も一緒なんだな、と考えながらほぼまとまった考えをテオドールは述べ出した、


「たぶんそういったあぶれ者の中でわりといい家の連中が中心になってこの計画を立てたんじゃないかと思ったんだよね、さっきカイも騎士家の出身者が中心って言ってたしね」


「いい家って何故分るの?」


「いい家ほど家名を大事にするんじゃないかな?しかも、若干余裕があれば手切れ金みたいな金が出た可能性もある、それを元手にして諜報活動、組織作りをしながら機会を待ったんじゃないかな?」


 その発言を聞き、ヒルデガルドとしても頷く部分があった名門と言われる貴族家ほど体裁を気にする、そうなると、身内に問題を起こされる前に、手切れ金で縁を切ってしまった方がマシであり、もしこのような計画を他国で推進し、上手く行けば縁者をアピールし家名を高めたとして分家扱いする、そんな可能性すら考えられた。

 ただそれは裏についての考察であり、戦略についての考察となっており、目下の戦術考察ではない、との思いもあったので重ねて問いかけた、


「裏はそんなところかもしれないけど、敵はどう動くと思うの?」


「もう動いてるのかもしれない」


 テオドールは言うと、指揮棒で地図上をなぞりながら、先ほどの考察を述べ出した、


「敵の狙いが自分達の安住の地であるなら難攻不落の地を自分達の国とする、もちろん完全な独立は不可能でしょうが、アルメ村を落とし防備を固めれば当に難攻不落と化すでしょう、しかも自給自足でなんとかいけますしね」


 全員の目が説明とともに動く指揮棒に集まるが、もし事実なら今まさに攻略戦が行われている事になる、情報封鎖されている可能性もあり、もしこの予想が当たっているなら、今すぐにでも駆け付けなければ手遅れになる可能性どころかすでに手遅れの可能性さえある、どうすべきであろうか?

 皆の中にこの事件は伯爵領でおきた事件であり、自分達は当事者ではなくあくまで援軍という認識があり、それが若干気楽さに繋がっていた部分があった、だがもしこの予想が当たっているなら、伯爵家は陽動で真の狙い本当の当事者は自分達という事になる、全員に焦り、不安、焦燥、等の色が浮かぶがテオドールは先に思いついた分だけ冷静に捉える事ができていた、


「ゲルトラウデに連れてきた部隊全員を率いて帰ってもらいましょう、まだ落ちていなければ内と外で挟み撃ちにできるはずです」


 テオドールの提案に全員が疑問の色を浮かべる、その疑問を察して続けた、


「まず、ブラゼ村及び封鎖された街道にはそこまで兵は配置されていないはず、だから多少の犠牲を払ってでも奪還、もしくは村の包囲まではしてしまうのが良策だと思う、その場合数で正面から力押しになるから伯爵の軍を使うのが有効だと思う」

 

 そこで一息いれ、なんで私なの?という疑問からキョドキョドしてしまっているゲルトラウデにむかい、続けた、


「ゲルトラウデを指揮官に任命したのは、こちらが片が付くまえに僕が帰るわけにはいかないから、僕は残る、強行軍になるのは分かっているからカイでは年齢的にきつい、消去法でゲルトラウデしかいないんじゃない?」


 誰も口にはしなかったが2年前に降ったばかりの17の小娘を代理に据えていいものだろうか?という思いはあったが、ある程度以上に軍事に明るく策への対応が可能な人間となると、彼女しかいないのも事実であった、しかしそんな流れに反するようにヒルデガルドが質問する、


「ちょっと待って、その憶測が外れていたらどうするの?」


 テオドールは軽く笑うと、ちょっとおどけたように言う、


「いや~、子供が生まれる事もあって神経質になってました、すいません、根が臆病者なもので、って言えばいいんじゃないかな?正直うちの軍が抜けてもそこまでの影響ないはずだし、親と違って無能だって言われた方が却っていいくらいだからねぇ」


 たしかに伯爵の軍から小部隊が離脱したところでたいした影響はなかった、当たっていれば取り返しのつかなくなる事態を防げ、外れていてもそれほど大きく害があるわけでもないこの策に乗ってみよう、という空気になってきたところで、テオドールが〆のようにゲルトラウデに言う、


「総大将代理よろしくね、現場の判断は全部まかせるからさ」


 彼女は伝説として語られるレギナントと一緒に戦うかのような錯覚を感じ、戦慄を覚えた。

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