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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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晩餐会での温度差

「娘から聞きましたぞ、完全勝利など、まさにレギナント殿の若き日を見るようですな!」


「いえ、父の残した作戦立案に従っただけのことです、自分の手柄ではありませんよ。」


「いやいや、作戦を実行に移すのも立派な手腕です、明日は是非ともどのような過程を経て軍を動かしたか是非ご教授いただきたいですな!」


 晩餐会の席でオルトヴィーンは盛んにテオドールの手腕を褒め称え明日、どのような戦術、戦略を執ったのか詳細を知りたいと申し出ていた、これは本人の好奇心というよりは、実戦経験のない息子に実際の戦いのい一旦を教え、そのための良質なテキストになると考えたからであった。しかし、当の本人であるフリートヘルムにしては、面白くないという感情がかなり根強くあった、まずこの完全勝利というのが胡散臭く感じていたのだ、討ち取った敵の数を多く見せ、味方の死傷者を少なく申告することで、大戦果を主張するなどあちこちでよく聞く話だからである、王都での戦果もコソ泥を数人倒し、あとは適当な死体を見繕って戦果を捏造したのではないかとさえ考えていた。彼の考え方が異常なわけではなかった、実際にイゾルデやユリアーヌスも、真実の武勇伝を盛っていると思っていたくらいなのだから、それくらい信じがたい戦果だったのである。面白くない感情を抱えた、フリートヘルムは努めて穏やかに、話しかけた、


「レイヴン卿の、此度の件もそうですが、先の王都での討伐戦といい比類なき武勇を感服している次第であります、もしよろしければ軽く模擬剣術試合などいかがでしょうか?是非ご教授いただければ幸いです。」


 彼はいささか剣の腕には自信があり、そこで優位性を示してやろうとの腹積もりがあったが、その期待はあっさりと裏切られた、


「あ~、すいません、剣は碌に持ったこともないんですよ。」


「え?」


「鍬とか斧などはよく振るったりしていたんですが」


 女性陣からは笑いが洩れるが、フリートヘルムにすればまるで小馬鹿にされたように感じ眉間に皺をよせるが、その感情を察したヒルデガルドが一応フォローを入れる、


「しかたないでしょ、継承する直前まで自分の血統を知らされてなかったんだから。ちなみに料理勝負ならテオドールの圧勝でしょうね、まあ一番はゲルトラウデ、次いでお義母様ってとこかしらね。」


 彼は思った、そんな勝負に勝ってなんの意味があるんだ?だいたい使用人と競おうという考え自体がおかしいだろう!と、彼の考えは貴族としては至極当然なものであり、聞いていたユリアーヌスやイゾルデも彼が今考えている事は手に取るように分かり、彼の心情も十二分に理解できた、貴族社会の常識に照らし合わせるなら彼の方が絶対的に正しいのだから。


「では、いかようにして、貴公は勝利を得られたのですか?」


「う~ん、寝てるとこを襲うとか、背後から皆で弓を射かけるとか、ですかねえ。」


 フリートヘルムは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ、『そんなの騎士の戦いではない!』と。飲み込んだ理由は簡単であった、『こんな奴、騎士ではない』と見限ったからである。そして割り切ることにした、伯爵家の後継者と準男爵家の家長にして妹の伴侶、それだけの非常にドライな関係でいい、個人として絶対に分かり合えない相手であろう、そう思ったからである。

 それ以後は、特に目立つ発言もなく適当に相槌を打ちやり過ごしていたが、最後にまた波風が立った、晩餐会も終盤にきて最後のデザートが運ばれてきた、侍女を行っていたのはイゾルデ、アルマ、ゲルトラウデだったが、それを見咎めフリートヘルムが忠告を開始した、


「妹の伴侶の家としてご忠告申し上げるが、来賓の給仕に出す侍女にはそれ相応の格というものが求められる、慈善的な観点で不具な者を雇い入れるのは結構でしょうが、お家の格が疑われるような事は避けた方がよろしいかとご忠告申し上げます。」


 オルトヴィーンは頭を抱えんばかりとなった、『何故お前は喧嘩を売るような事を言うんだ?』心底そう思い注意しようとしたが、彼には喧嘩を売る意思などまったくなかったのである、何故なら彼の言っている事は全て正論で、貴族社会としては、またも彼の言っている事は正論だったのであるから。妹の伴侶の家が余所の貴族から蔑みの目で見られてはいけないという、親切心からの忠告であったのだから。


「フリー・・・・」


 オルトヴィーンの怒声を軽く手で制し、かぶせるようにテオドールが話はじめた、


「我が家は祖父が傭兵から家を興し、父が戦果で爵位を賜った武門の家です、戦傷は誉であり隠すようなものではありません、それを蔑む者とは親しく付き合いたいとは思いませんので。」


 事実上の絶縁宣言ともとれる発言に、オルトヴィーンは青くなったが、ユリアーヌスもヒルデガルドも『よく言った!』と言わんばかりの笑みを浮かべていた。彼女達もフリートヘルムの言っている事が正論であるのは理解していた、しかし、ここでの生活で仲良くなったアルマを本人の目の前でバカにするような態度は心情的に腹が立ったのだ。


「ああ、いや、あくまで貴族社会ではそういったしがらみもあるので、注意した方がよいという、一般論を身内であるが故に言ったまでの事で・・・・・」


 そこまで、言ったところで、テオドールは笑みを浮かべながら、言葉をかぶせる、


「そうですよね、身内の集まりに『格』なんてものは必要ないですよね、義兄上。」


 その言葉で完全にフリートヘルムは沈黙した、これ以上は墓穴を掘るだけだと理解したからだ、ただ、やはりこの男とは相容れないと感じてしまった。

 しかし、そこでは終わらずテオドールはさらに追撃を開始した。ユリアーヌスと、ヒルデガルドを交互に見るようにしながら話し始めた、


「いい機会だし、あれ、今日やってしまう?」


 二人は、「ええ、そうね」「やっちゃいましょう」と、乗り気な発言をしたのを見たうえで、


「ああ、イゾルデさん連絡よろしくお願いします。」


「はい」


 なにやら、準備を開始した、オルトヴィーンとフリートヘルムは何が始まるのか、まったく理解できていなかったが、そんな二人に、笑顔でテオドールが話しかけた、


「面白い見世物があるのですよ、それに付随して是非ともお頼みしたいこともありましたので、楽しんでいただけたら、幸いです。」


「いったい、何が始まろうというのかな?」


「それは見てのお楽しみという事で」


 そう言って笑う彼や自分の娘、王女を見るオルトヴィーンだったが、後に『悪魔の館に迷い込んだようであった』と言いそれ以上多くを語ろうとしなかった。



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