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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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兄妹

「やっと着いたか」


 アルメ村へ到着したオルトヴィーンは、そう呟いた、8日程に日程ではあるのだが、最後に立ち寄った村からアルメ村まで3日間、野営をしながらの旅程となり、疲労感は日数以上にかかるものであった、初めて来たわけでもなく、何度か訪れた事もあるが、来るたびに本当にこんな辺鄙なところに娘をやっていいんだろうか?という疑問が頭をよぎっていたものだ。レギナントとラファエルが健在ならたいして不安もないが、碌に面識もない男の元へ行く事になり破談にするかどうか、迷いに迷ったものである。結局は本人の悲壮感に満ちた決意に押し負けた形になったが、今もどうなっているのか不安でしょうがなかった。もし、まだ暗く沈んだ様子であるなら、無理にでも連れ帰るべきではないのか?だいたい村への襲撃があるとの事だが、被害はどのくらいでたのであろうか?娘に怪我などないだろうな?などなど、心配の種はいくつもあり、気がせいている事もあって、『やっと辿り着いた』という感想になったのであるが、結果は驚愕をもって迎えられたが、当初の悩みは別の形で継続されることとなった。



「はるばる、ようこそいらっしゃいました」


 村の入り口には出迎えのテオドールとヒルデガルドが2名の侍女を引き連れ、待機していた。返礼のため馬車を降りようとすると、ヒルデガルドが声を発した、


「あれ?お兄様もいらしたの?」


 その声を受け、テオドールは彼女の視線の先にいる人物を見ると、立派な馬に跨った、美丈夫という言葉がふさわしい人物がそこにはいた、正直な感想としてテオドールは、ヒルデガルドの事を美しいと感じていた、オルトヴィーンもいかにも洗練された貴族としての佇まいを持つ美丈夫と思っていた、そしてこの兄も涼やかな風貌を持つ美男子であった『こういうのをずっと見てれば、自分を見て拒否したくもなるよなあ・・・・ってかラファエロだって、こいつに比べりゃ普通レベルでしかないよなぁ』、そんな事を考えていると、その人物は優雅な身のこなしで馬を降り、礼をもって話し始めた、


「お初にお目にかかります、オルトヴィーン・フォン・メルボルトが一子、フリートヘルム・フォン・メルボルトと申します、どうぞお見知りおきを。」


 優雅な動作、涼やかな声、劣等感をはっきりと感じさせる相手に、少し嚙みながら返礼を行う、


「ようこそいらしてくださいました、この領を治める、テオドール・フォン・キルヒマイヤーと申します、どうぞお見知りおきを。」


「では、続きは館でしよう、ヒルデガルドともゆっくり話がしたいしな。」


 オルトヴィーンの言葉で屋敷へと向かう事となったが、この時テオドールは微妙な不快感を感じていた、それはフリートヘルムの目が最初に会った頃のヒルデガルドと非常によく似ていたからである、劣等感がそう思わせるのかもしれないが、どうしても不快な気分はぬぐえなかった。 



 家族水入らずで、との配慮からあてがわれた一室では険悪な空気が漂っていた、温度差が違いすぎていたのだ。特に兄妹の温度差は顕著であった。


「君は貴族令嬢としての嗜みをどう思っているんだ?」


「ここでは、それでいいって話なんだからいいじゃない!だいたい、ここの当主のテオドールがいいって言ってんだから!」


「そんな嗜みのない態度では愛想をつかされるのが関の山だ。」


「お生憎様、良好な関係を築けています。」


「今だけだろう。飽きられたらそれまでだ。」


「ふん!グレーティアさんもかわいそうよね、こんな、女を産む道具ぐらいにしか思わない男が相手で」


 反論しようとする、フルートヘルムを制するようにオルトヴィーンが割って入る、


「もう、よさんか!両者とも言葉が過ぎる!」


 二人が機嫌悪そうに黙ると、オルトヴィーンは両者に語り掛けるように話し始めた、


「しかし、上手く行っているようなら安心した、昔からこちらに来ては変な悪影響を受けて心配していたが、幸せにやっていられるならそれに越したことはない。」


「しかし、父上」


「お前は知らんのだ、先代レギナントもかなり自由な男だったぞ、ラファエルに関しては一応貴族的な教養も必要であろうと、幼い頃から我が家に長く滞在していた影響もあったのかもしれんな」


「ラファエルの方がはるかにマシ・・・」


「その話はやめて!」


 ヒルデガルドの激しい剣幕に黙ってしまった、フリートヘルムも、この話題は不謹慎であったと反省して素直に謝意をしめした、


「いや、すまなかった、軽率であった。」


 その話題によって娘の古傷を抉りたくないオルトヴィーンとしては、話題変更を試みてみた、


「そういえば、完全勝利としか聞いていないが、どんな感じだったのかな?」


「ん?討ち取ったのが180くらい、捕虜が20くらい、味方死傷者0、だったはず、詳しくは後で聞いたら?」


「ふん、冗談ならもう少しマシな物を言え、いくらなんでも現実味のない数字を出すな。」


 笑いながらフリートヘルムが横から口を出す、しかしオルトヴィーンの顔に笑顔はない、満面の笑顔でヒルデガルドは答える、


「でしょ!冗談みたいな数字よね!事実なのよね、これが!」


「くどいぞ」


「いや、事実なのだろう・・・」


「父上?」


「お前をここに連れて来た理由は正にそれなのだよ、せっかく生きた戦場がほんの少し前に発生したのだ、戦術、実戦について、実地に近いところで感じ取って欲しかったのだ。そして実感してほしかったんだ、キルマイヤーの家とは事を構える事なく、良好な関係維持がいかに重要課題であるかをな。」 


 彼がこの時点でどこまで理解していたかは定かではない、本当の意味で理解するのはまだまだ先になるのだが、少なくともこの時点におけるフリートヘルムのテオドールへの評価は田舎領主以外の何者でもなかった。



 



 

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