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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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無礼講もほどほどに

 戦争終結を告げると、村人達から大歓声が沸き起こり、門の前に死体を門内の一か所に集めると、村の広場で宴会が始まった、村人に一人の死傷者も出なかったことから宴会は大いに盛り上がった。この宴会の主役は、脇道から村を襲う手はずだったのを裏切った別動隊の者達であった。元々内通者であり、今回の遠征計画の情報も逐一知らせていただけに、最後に巻き添えを喰らわぬ様に離脱する絶好の機会であったのだ。

 一応念のためと言われて、拘束され、手枷、足枷を着けられた状態で死体の運搬等をやらされ、微妙に不安感と不機嫌さにさいなまれていただけに、宴会で主賓のような扱いを受けると一気に上機嫌になった、村の若い娘達が満面の笑みで給仕を行い、酒やご馳走にありついていると、自然に口も軽くなり、色々な事を武勇伝のように語り始めていた、


「いや~、今回の勝利の立役者はまさに皆さんです、まさに真の英雄とでも言うべきですよ」


「まことに、皆様の武勇はレギナンント様の英雄譚の一節に載り永遠に語り継がれるでしょうなぁ」


 テオドールとカイが盛んに褒め称え、その横ではエレーナ、ユリアーヌス、ヒルデガルド、イゾルデが満面の笑みを浮かべて対応していた、その場に呼ばれていたルヨがテンション高く軽いノリで話しかける、


「最後の大奥様の一騎打ち!あれすごかったけど、なんか最後水差されちまったよなぁ、あの女なんなの?」


「ああ、あいつか」


 男達は下卑た笑いを浮かべながら話し始める、


「あいつはなぁ、エンゲルベルトが王位継承権を剥奪されて捨扶持もらって、みじめにやってる時に身の回りの世話係やってた女奴隷との間の子だよ」


「そうそう、誰からも相手してもらえず奴隷女に手え出したってんだからなぁ、もしかしたら王様になってたかもしれねぇのになぁ」


 かなりアルコールが入っているせいもあるが、上辺だけでもつい先日まで主君として仰いでいた人物を物笑いの種にしている光景を見ると、エンゲルベルトに幾分の同情を禁じえなった。周りのそんな感情もつゆ知らず、男達は続ける、


「王族としてのプライドは高けぇもんだからさ、そんな子は知らんって完全に無視だよ、それでも追い出さなかったのは、代わりの世話係なんて雇ってもらえるわけでもねえから、子供が成長すれば働き手が二倍になるくらいに思ってたんじゃないかって専らの噂さ」


「予想以上に役に立ったんじゃねぇか?」


 そこまで言うと皆ゲラゲラと笑い始めた、


「役に立ったというと?」


 テオドールの問いかけに自慢げに語り始める、


「エンゲンベルトはよぉ、ま~だ諦めてなかったんだよね復讐を、でも協力者はほとんどいない、で、あの娘を使ってかろうじて残ってた協力者を繋ぎ留めたり、新規獲得に散々使ってたんだよ。」


「そういう、おめぇなんか年中呼び出したりしてたじゃねぇか。」


「おめぇに人の事言えるのかよ」


「昔は貧相だったけど、最近やっとマシになって来たって感じだったんだよなぁ」


「てか、今回の遠征中は大変だったよなぁ、山道でなんもなく、娯楽はあいつとやるくらいだからなぁ」


「俺なんて、これで最後だと思ってたから、毎晩通ってたぜ!」


「好きだねぇ」


 ゲラゲラと馬鹿笑いをする彼らに周りがどんな目で自分達を見ているか全く気付いていなかった、お調子者のルヨでさえ不快な顔をし、給仕役の娘達も引きつったような顔をしていた、しかしテオドールが最も恐怖を覚えたのは、エレーナ、ユリアーヌス、ヒルデガルド、イゾルデの顔を見た時だった、彼女達は全員満面の笑みを浮かべて聞いていたが、その顔を見た時にテオドールははっきりと彼らの死を悟った、


「そういや、生け捕りにしてまだ生きてるんだって?」


「ええ、一応生きております」


「じゃあよぉ、せっかくなんで、殺す前にもう一回くらい使わせてくれよ?あんたも使ってみればどうだ?世が世のなら王女様だったんだ、王女様を抱いてる気分を味わえるかもしれねぇぜ。」


「おいおい、おめぇ知らねえのか?ここの奥さんも王女って話だぜ。」


「おい、マジかよ、どいつだよ?」


 テオドールの周りにいた女性達を品定めするかのような下卑た目で見まわすが、皆外での活動用の簡素な衣装のため、衣服などから判別はできなかった、そこで、その男の好みだったのか、ヒルデガルドを指さすと、


「そっちの年増じゃなさそうだし、あんただろ?」


 と、さも楽し気に発言した、全方位に喧嘩を売るようなその発言に誰がいつ切れるだろうか?、というテオドールの心配を余所に、満面の笑顔を浮かべたままで、ヒルデガルドは答える、ユリアーヌスとイゾルデも満面の笑みを崩してはいない、

 

「私ではございませんわ」


「なんだそうなのか、じゃあよ、奥方じゃないんだったら今晩相手してくれよ、あんたなかなか好みだからさ!」


「俺はこの子でいいや」


「俺はこれで!」


 自分の給仕をしていて娘を抱き寄せるようにしながら好き勝手を始める男達を見て、エレーナが剣の柄に手を掛けるのが見えたが、男達はまるで気付いていなかった、このままでは流血騒ぎになると思ったテオドールは必死にエレーナの剣を抑えつつ、カイとルヨに目線で合図を送る、


「まだまだ、夜は長いんだからさ、あわてて選ぶ必要ねぇじゃん、もっと可愛い子がこれから来るぜ!」


「お前達、ちょっと下がってていいぞ」


 カイもルヨも心得たもので、ルヨが男達のご機嫌を取り、その間にカイが娘達を下がらせた、しかし、間の悪いことに奥向きの仕事をしていたアルマがそこにやってきた、


「なんだよ、可愛い子来るって言っててバケモンじゃねえかよ」


「火傷で片手で、あんたこういうのが趣味なの?じゃあさ、あいつもこんな風に潰しちまえばいいんじゃないか?」


「ああ、そりゃいいや、案外そういう趣味の奴に人気出るかもな」


 好き勝手言いながら馬鹿笑いする男達をしり目に、テオドールは何かが切れる音を聞いた気がした、女性陣全員の顔を見た時、『もはやこれ以上は無理』との判断から多少わざとらしく大声をだした、


「あ~戦時報告の書類を提出しなきゃいけないんだった、書式とかわからないんで、ちょっと手伝ってください、カイさん、ルヨさん、後よろしくお願いします。」


 それだけ言うと女性陣を引き連れて、その場を後にした。男達は気にせずいいご機嫌で飲み食いしていたが、それを見ながらルヨは小声でカイに呟いた


「死んだな」


「ええ、自業自得でしょう」


 彼らの運命は誰の目にもほぼ確定的だったが、本人達だけはその事をまったく理解していなかった、またその方が幸せだったのかもしれない。



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