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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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悪夢の終焉?

 数時間が経過した、イライラとさっきから何度も物陰から門の様子を窺っていた、狙撃を恐れてはいるが、門が気になってしょうがない、といった風情である。さきほど狙撃され即死しなかった者達も放置され、先ほどまではピクピクと痙攣していたが、今はもう完全に動かなくなっていた、すぐに手当てすれば助かったかもしれないが、狙撃の危険を冒して彼らの救助を行おうとする者は一人もいなかった、エンゲルベルトもまったく思考の埒外に置いているようであった。


「ゲルトラウデ!まだ突入できんのか!」


「はっ!新たなる経路の調査ですので、いましばらく時間がかかるかと!」


 『村の弱点や容易に侵入を許すような場所を油断して空けとくようなバカな領主なわけないだろうに、そんな都合のいい場所をピンポイントで発見できたら誰も苦労しねぇよ』と心中で毒づきながら、後どのくらいで痺れを切らし別の策を要求してくるだろうか?その時はどのような策を献策すべきであろうか?等と考えていると、村の中から数か所にわたって煙が立ち昇り上り始めた。


「おお!見よ!奇襲が成功しておるのであろう!皆準備せよ、突撃は間もなくであるぞ!」


 おかしい、絶対におかしい、百歩譲って裏を突いたとしてもあの人数ではうまくいくわけがない、あっさり鎮圧されて、村人に若干の被害者が出るのが関の山であろう、それが派手に煙を上げ内部混乱まで起こさせるなんて絶対にありえない『罠だ!』


「エン・・・・」


 止めた、どうせ言っても聞かないだろう、罠に嵌ってここで皆散ればいいだろう、そう考えると気分がかなりクリアになった。そうこうするうちに内側の櫓からも煙が出だした、それさえもよく見れば煙のみで火の手は見えない、『これで確実だな、あれだけ派手に煙が出て火の手がまるで見えない、完全に罠だな』見抜いたところでどうしようもなく、『もうじき門が空くんだろうなあ、で、門に近づいたところで一斉射撃で殲滅って感じかな?』、考えていると正に計ったようなタイミングで門が開き出した、この時の彼女の精神状態は一言で言うならば超ハイとでも言うしかない状態であった、ここ数日間の精神的、肉体的ストレスは限界をとうに超えていた、それでもギリギリで踏みとどまっていた彼女だったが、この予想的中で何か緊張の糸がプツリと切れてしまった、そんな感じであった。


「エンゲルベルト様行きましょう!」


 満面の笑みを浮かべて抜刀して駆け出す彼女に、


「皆、続けぃ!」


 と、一瞬遅れて、エンゲルベルトも応じる、彼が一瞬遅れたのも無理からぬことであった、彼女の満面の笑みなどまったく記憶にないくらい見たことのない顔だったのだから、ただ号令をかけると、もうすでに頭の中では勝利の凱歌が奏でられ始めていた。


「ぎゃあ!」「ぐえっ!」「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 先頭を行く彼女は背後から聞こえる大勢の悲鳴で我に返った、振り向くと突撃をかける自軍の背後に、かなりの人数による部隊が集結し、一斉射撃を加えていたのだ、狙いすましたような狙撃とは違い弓による連射だったため命中精度、威力ともそこまで高くなかったのだろう、しかし背後からの一斉射撃は驚異的であった、その一斉射撃が止んだ時に立っているのはほんの数名に過ぎなかった、多くは背後に現れた部隊に突撃するべきか、それともそのまま村になだれ込むべきか判断に迷いエンゲルベルトの指示を待ったが、呆然とするエンゲルベルトに指示を出すことができずにいると門が閉まり、櫓からは狙撃が始まり、完全に壊滅することとなってしまった。

 

「卑怯者め!、私は貴様に騎士として一騎打ちを所望する!騎士としての誇りがあるなら名乗り出て一騎打ちに応じよレギナントの子倅め!」


 背後の弓部隊の指揮をとっていたテオドールに側にいるカイが問いかける


「だ、そうですが、どうしますか?」


「意味あるの?」


「こちらにはないですな、相手にとっては一発逆転のチャンスですが。」


「だよねぇ、しかしもう一回聞くけど、ホントに人間?」


「『たぶん』としか」


 そういうと、戦場の緊迫感もどこへやら、彼らの周りで小さな笑いがおきていた。


「どうした!臆したか!卑怯者のレギナントの子倅らしいわ!」


 エンゲルベルトはどこまでも吠えまくっていたが、その時門が再度開き、レギナントのプレートアーマーを纏った騎士が現れた、一瞬ギョッとしたエンゲルベルトであったが、その咆哮は止まらなかった、


「盗んだ予の鎧を使用して恥はないのか!死んだふりなどして、たばかったな!」


「私ですよ、おかわりないようですね廃太子殿下」


 兜に隠れた顔は見えず、誰だか分からなかったが、その声が女性の物であることだけは理解でき、ギョッとして沈黙していると、女性騎士は続ける、


「お忘れなのも仕方ないですね、20年前にこの鎧を着てあなたと一騎打ちをしたのも今となっては懐かしい思い出なのですがね、いざ決着をつけましょうか!」


「貴様、エレーナだな!いいだろうケリをつけてやる!」


 そこから二人の一騎打ちが始まったが、終始エレーナの優勢のうちに一騎打ちは進んでいった、それを特等席ともいう場所で見物していた、屋敷の女性陣のうち、ユリアーヌスが誰ともなしに尋ねる、


「剣術とかよくわからないですけど、エレーナ様って型のようなものもしっかりとしており、かなり強くないですか?」


 彼女の質問にアルマが答える、


「大奥様は剣の試合で一度もレギナント様に負けた事ないんですよ。」


「「えええええええ!」」


 彼女の発言に対してユリアーヌスとイゾルデが驚きの声を挙げる、それにヒルデガルドが笑いながら続ける、


「うちの父も言ってたわ、『レギナントと戦争して勝てる気がしない、けど剣の試合なら負ける気がしない』って、あんまり強くなかったみたいね。それにしてもユリアーヌス様達って吟遊詩人の物語お好きなんでしょ?だったら第二回の時の女騎士エレーナと王太子エンゲルベルトの一騎打ちはクライマックスの最も盛り上がる所じゃない、知らなかったの?」


 最後の質問は嫌味というよりは純粋に『なんで知らないんだろう?』という好奇心からのものであった、


「いや、そのな・・・当然知ってはいたんだが・・・なぁ、二人で『相当盛ってるわね』って笑っていたものだったんだ、常識的にありえないと思うのが普通だろう?」


 イゾルデの必死の弁明に、ヒルデガルドも納得した顔で笑いながら続ける、


「盛ってるとこも多いみたいだけど、その部分は事実だったみたいね、レギナント様が面白そうに話してくれたの覚えてるわ。」


 あとで、本人から絶対に聞いてみたい、そうユリアーヌスとイソルデが考えているうちに勝負は決着が着こうとしていた、エレーナの剣がエンゲルベルトの剣を弾き飛ばし、その喉元に刃を突き付けたのだ、決着を確信した村人達からの大歓声を受けエレーナが語りかける、


「衰えたな、20年前あのまま続ければ卿が勝っていただろうに、鍛錬を怠ったか?」


 屈辱に震えながら、何も言えないでいると、エレーナは続けた、


「とどめを刺してやるのも慈悲だろう、あの世でいくらでもレギナントに挑むとよい。」


「まっ待ってくれ、降伏する、降伏する!」


 ヘタリ込んでしまっているエンゲルベルトを見ると、軽くため息をつき、呆れたように言い放った、


「まぁ、よかろう、剣を血で汚したくないしな、誰か!縛り上げておけ!」


 踵を返し村へと向かうエレーナと入れ違うように村人が縄を持って駆け寄ろうとしたが、それより早くフラリと近寄って来たゲルトラウデがエンゲルベルトの首を無言で切り落とした、背後からフラリと近寄られ無言で一刀の元に斬られたこともあり、痛みを感じる事もなかったであろう、この男にしては幸せすぎる最後であったかもしれない、首を刎ねると剣の握りを持ち替え自らの首を刎ねようとするゲルトラウデに対して、エレーナが叫ぶ、


「いかん!誰か止めよ!」


 その声が響くかどうかのタイミングで放たれたクロスボウの矢は彼女の右手の、親指、人差し指、中指を粉砕し剣を弾き飛ばした、エレーナが負けそうになった時や不正な介入があった時に備えて控えていた、ルヨの一撃であった、剣を弾き飛ばされ呆然自失としていた彼女は縛り上げられ、舌を咬まぬように猿轡をはめられたが、それまでの間ブツブツと「殺せ殺せ殺せ殺せ」とつぶやき続けていた。

 こうして最後後味の悪い形ながら、後に『廃太子戦争』と呼ばれる全四回の戦いは完全に幕を下ろした。


 



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