さよなら日常
村に慣れてきたユリアーヌスとイゾルデが最近頻繁に行っているのがアルマを伴っての村の散策であった、理由付けとしては村人への好感度アップだが本当の目的は所謂観光のような物であった。王都の中でさえ自分の足で散策したことなどなく馬車の中から見るのがせいぜいであった彼女たちにとって、山中の村を自分の足で散策するなどこれまでにない体験であった。しかも行動的な服装という事で村での活動用に新たに仕立てられた服も気に入った理由であった、宮廷内でのゴテゴテとした服に比べ軽快な外出着を彼女はたいへん気に入っていた、イゾルデは当初はユリアーヌスがそのような服を着ることに疑問を呈していたが、エレーナの助言によって納得に至っていた、結果論から言うと村における彼女の好感度は目に見えて上がる形となった、なにしろ、畑を耕してみたい、山羊の乳しぼりをしてみたい等と言い出し、実行に移す様子は周りを困惑させながらも確実な好感度アップへと繋がっていった。
「鍬で畑耕すのって見た目以上に大変なのねぇ・・・・・」
『あたりまえでしょ、あんた何を今更何をとぼけたこと言ってんのよ!』アルマは心の中でつっ込んだが、時間のある時に聞く宮廷内における窮屈な日常を思うと、今をノビノビと生きているであろう彼女に対して何を言う気にもなれないのも事実であった、そこに口を挟むようにイゾルデが尋ねる、
「アルマ、少し聞きたい事があったのだ、エレーナ様からお聞きしたんだが、領主夫人等が先頭に立ち炊き出し等する機会など頻繁にあるのか?」
アルマは少し首を傾げ考えるようなそぶりをすると、
「記憶の中にはないですね、ただやったことがあるってのは聞いた事がありますよ。」
少し要領を得ない回答であったので、さらに問いかけた、
「どういうことだ?もう少し分かりやすく言ってくれないか」
「えーと、台風の被害補修とか道の修繕とかに村の男衆が駆り出される事はけっこうよくあるんですよ、ただそういう時は大鍋の貸し出しやとか食料の供出はするんですが、炊き出しなんかは村の女衆の役割ですね、エレーナ様がそういう事をやったのは戦時中で先代のレギナント様が出征中に村人を鼓舞される目的でやられたと聞いた事があります、大きなお腹を抱えながら鼓舞して回ったと村の長老なんかが言っていました。」
「なるほど・・・・戦争規模の事態が起きない限りは、炊き出し等はないということだな・・・・」
その時アルマはイゾルデの質問の真意に気付き悪戯っぽい笑みを浮かべた、その笑みに気づいたイゾルデは少し慌てながら彼女に質問した、
「な、なにがおかしいのだ?」
「いえ、特に申し上げることはございません。」
アルマは面白そうな笑みを浮かべながら答えると、一緒になってユリアーヌスもクスクスと笑い出していた、その様子にイゾルデが文句の声を挙げる
「ユリアーヌス様だって、似たようなもんじゃないですか、皮を剥くとほとんど身が無くなってしまって食べるとこなくなるじゃないですか!」
「あなたの血で染まったのやつよりマシでしょ」
『目糞鼻糞』っていうのはこういうのを言うのだろうかとアルマは考えていた。
領主屋敷ではレギナントの生前から質素な生活が主であり、来客時こそ臨時で名主衆の娘や妻が臨時の侍女となる事はあったが、基本的にはたいていの事はエレーナが行っていた、アルマが正式な侍女となってからは2人で食事から掃除、洗濯まで行われていた。覚えるべく努力するユリアーヌス、ヒルデガルド、イゾルデの三人であったが道は非常に険しいものがあった。
そんな楽し気な3人の会話にヒルデガルドが駆け寄ってくる、
「至急会議室へ、緊急事態だそうです。」
手短に用件を伝えると四人は取り急ぎ、屋敷の広間へと終結すると、そこには、テオドール、カイ、エレーナの三名が地図や手紙をテーブルの上に広げ議論していた、四人の到着を確認するとエレーナが言った、
「アルマ、携帯食料の確認と名主衆に招集をかけてちょうだい。集まったら広間で待機するようにして、あなたはその接待をお願い。」
「はい、大奥様」
支持を受けると足早に広間を後にした、二人の会話が終了するのを見計らって、カイが口を開く
「第二次アルメ村戦役が勃発することとなりそうです。」
と。




