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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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復讐するは我にあり

「そうか、下がってよい」


「はっ!」


 年齢はすでに50を過ぎているであろうか、実際の年齢より肌の色艶、血色は悪く、頭髪の後退も目立ち見るものに非情に老け込んだ印象を与える男は報告に来た男を下がらせると、軽くため息をついた。ほんの少し思案すると、傍らで控える少女に一瞥もくれることなく、告げる、


「招集を告げてまいれ」


「はっ!」


 少女は返事をすると、すぐさま退出すると、足早に家を後にした。自分以外誰もいなくなった部屋で乾いた笑い声が響いていた、傍から見れば異様な光景であったかもしれないが、そうでもしなければ精神の均衡をとることができなったのであろう。彼にとってこの世で最後の希望が墜ち消えてしまった報告だったのだから。



 狭い広間に所せましと30人程の男達がひしめき合っていた、年齢はマチマチであったが、皆どことなく薄汚れ人生に疲れたような色が風貌からも滲み出しているような者達であった。その場にこの家の主が少女を伴い現れると、一同姿勢を正しその男に対し主君に対する礼をとった、


「よい、ここではもはや身分も何もない、皆同士として自由に振舞うがいい。」


「「「「「はっ!」」」」」


 一同が一斉に唱和する。静かに歩を進め地図の広げられたテーブルの前に立つと静かに話し始めた、


「知っている者もいるだろうが、レギナントが死んだとの事だ、情報を確かめたが真実のようだ」


 場内は静まり返ったまま次の言葉を待っていた、中には知っている者や、そのことについて感想を述べたい者もいたが、言葉を発せられる雰囲気ではなかった。


「できればこの手で引導を渡してやりたかったが、もはやそれも叶わぬ事となってしまった、世の者達は奴を英雄と呼び予を愚者と呼んだ、もはや未来永劫覆ることはないであろう、ただ、あの鴉の旗だけは引き裂いてやらねば死んでも死に切れん!」


「「「「「応!」」」」」


 静かな語り口調で始まったが、最後は熱を帯び叫ぶような発言であった、それに応じ一同の叫びも熱を帯びたものとなった。


「集まってもらった諸君に問う、この戦いには輝かしい栄光も称賛もない、未来すらない、それでも共に戦うか?抜けたところで咎めだてするつもりはない、最初に言ったとおり自由だ。」


「んな奴ぁ、とうの昔に抜けてますよ、復讐を誓って十八年選別ならとっくに終わってますよ。」


 男達のうち一人がおどけたように返す言葉に一同から笑いが漏れる、その様子に満足そうな笑みを浮かべると、続けた、


「諸君らの協力に感謝する、では軍議を始める、ここまで入念に準備を進め、練に練ってきた戦略であるが、どこに綻びがあるか分からん、身分など気にする事はないので、自由に発言してもらいたい。ゲルトラウデ!」


「はっ!僭越ながら作戦概要の説明をさせていただきます、皆さま地図をごらんください」


 ゲルトラウデと呼ばれた少女が地図の前に立ち説明を開始する、


「18年前の戦でアルメ村を強襲する事に成功いたしました、そのルート・・・」


 そこまで言ったところで怒声が飛んだ、


「言葉を飾るな!強襲に成功?半死半生の部隊がかろうじてたどり着いただけだ!」


 その怒声に慌てたゲルトラウデはすぐに平身低頭した、


「申し訳ありません、エンゲルベルト様」


「もうよい、続けよ」


「はっ!一度は辿り着いたアルメ村ですので、難路を避けた改善点等を踏まえた新進行ルートをこの18年のうちに確認済みであります、前回の問題点であった兵糧輸送の問題については、事前に中継小屋を建てそこに兵糧を備蓄し、なるべく軽快に進軍が可能にする事で解決できるものと考えております。」


 彼女は話しながら、地図上の数か所に小石をマーキングするように置いて行った、


「ちょっといいですか?それ敵に見つからないんですか?」


 彼女は小さくうなずくと、指揮棒で地図上を示しながら説明を開始した、


「地図をご覧ください、アルメ村の位置がここです、村から最も近い小屋の位置がここです、山中ですので距離感が掴みづらいかと思われますが、日に換算して5日かかる位置であります。村の生活圏から大きく外れているために仮に猟師が村を大きく外れて狩りに出たとしても、ここまでは来ないという確実な位置を最終補給ポイントとさせていただきました。」


 なるほど、ふむ、等とあちこちで同意の声が上がる、するとその時一人がオズオズと手を挙げ質問を開始した


「あの~、18年前の戦闘では3000の兵で攻めて返り討ちにあったと聞いたのですが・・・」


 そこまで言ったところで場内に殺気に満ちた険悪な状況になり、押し黙ってしまった、するとエンゲルベルトが話し出した、


「その通りだよ、そしてその時の無能な指揮官が私だ、先ほど言ったであろう、『自由に話せ』と、よいから続けよ」


 自嘲気味に言うエンゲルベルトの言葉に緊張と恐縮の入り混じった様子ながら続ける、


「今回は総勢で300がいいところと聞いているのですが、その兵力で勝てるのでしょうか?あっ死ねと言われることに後悔とか未練はないんです、ただ自殺行為なのは違うと思ったもので・・・・」


「卿の言い分もっともである、予は卿らに無駄死にを強いるつもりもなければさせるつもりもない、勝算があればこその作戦立案である。ゲルトラウデ続けよ。」


「はっ!過去の戦闘を分析いたしましたが、レギナントの強さの理由は奇襲攻撃を効果的に成功させていた点にあったと考えられます。地図をご覧ください、わが領の平野部を越え山間部にはいってから、アルメ村までの行程は約30日かかります、前回は山間部に入るや奇襲攻撃や進軍ルートに仕掛けられた罠によって半数が村到着前に脱落いたしました。この反省を踏まえ兵糧小屋を設け進軍速度を上げる事によって、行程を約15日ほどに短縮し、レギナントの得意とする奇襲攻撃を逆にしかける事ができると愚考するしだいであります。」


 あちこちから、歓声があがる、その声に答えるようにエンゲルベルトが話はじめる、


「奴の得意の戦法で奴を撃ち取ってやろうと思っていたが、それは叶わなんだ、後を継いだという子せがれでは役不足ではあるが、村を予の手で灰燼と為さば幾分気も晴れようぞ!」


「「「「「応!」」」」」


「決行は一週間後、各々万端おこたりないように!」


「「「「「応!」」」」」


 場内が最高潮に盛り上がる中で、ゲルトラウデだけが能面のように表情をかえず、誰にも聞こえないような小声で呟いた、


「これで、やっと終わる」


と。


 

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