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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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フラグ

 判定負けを喰らった気分だった、苦手意識は持っていたがそれが昨晩の一件でより鮮明になった、朝食の席においても態度の変化は明白で、ヒルデガルドに対して以前以上にぎこちない態度になっていた、この変化はヒルデガルドの寝室に行くように仕向けたエレーナも感じとったが、それ以上の深入りをするべきか否か判断に迷い行動には移せなかった。

 


「え~、では、反省会を始めたいと思います。」

 

 昨晩の大まかな状況を聞いた、ユリアーヌスの発言であったが、声のトーンはそこまで深刻なものではなく、少しふざけたノリさえ含まれていた、ヒルデガルドとの仲がうまくいかなかった事実が領主夫人としての立場ではあまりよろしくないとは思っていても、乙女的な思考ではどうしても嬉しく感じてしまっているからである。


「先生~、何が悪かったんでしょうか?」


 周りに誰もいない二人だけの寝室なので、テオドールもその空気を感じ取り悪ノリで応じる、


「下手だったんじゃないの?」


 クスクスと笑いながら言う彼女の言葉に若干引きつったような顔で完全にフリーズしてしまった、


「まぁ、半分冗談よ、私には対比対象がいないしね。」


「半分?」


 彼は『半分』という点が引っ掛かった、逆に考えるなら『半分は真実』という事になるのだから、怪訝な彼に彼女は続ける、


「私には対比対象がいないけど、彼女にはいたんでしょ」


「ああ・・・・・・、そういう事か」


「実際に最初から対応が冷たく感じたのなら、彼女の考えはほぼ読めるわね。端的に言うと貴族としての務めを義務的に果たす事にしたのでしょうね。」


「『子を産む』って事かな?」


「そうね・・・」


 ユリアーヌスは決してヒルデガルドの事が好きではなかったが、意地を張り今よりもかなりマシな選択肢もあったであろうに、このような状況に自分を追い込んだ彼女に少し同情的な思いを抱いた、少しのボタンの掛け違えで、ここまで歪な関係へと変貌してしまう、宮廷内部での見聞でもっとドロドロとした話は聞いた事があったが、当事者の一人となってみると、空恐ろしさも感じていた。最初の緩んだ空気もどこへやら、若干沈んだ空気がその場を支配していた。


「とりあえずは、彼女をそれなりに優先してあげた方がいいかもね、追い込むのもよくないでしょうしね。」


「う~ん・・・そうだね」


 彼は正直あまり行きたくなかった、精神的に拒絶しているかのような相手と無味乾燥とした情事にあまり魅力を感じることもなく、ユリアーヌやアルマとの逢瀬に時間を割く方がどれだけいいことかと思ってしまっていたからである、だがユリアーヌもそんな彼の心情を察して釘を刺す、


「前にも言ったけど、おざなりにするのはおよしなさいね、女としてこれほどの屈辱はないんだから、あなたの言いたい気持ちもわかるわ『いかにも、イヤイヤな態度で接してきたのはあいつだ!』っていいたいんじゃない?」


 ずばり、心情を言い当てられて絶句した後「うん」とうなずくと、その返答を待って彼女は続ける、


「それでもよ、あなたまで義務的に行動したら修復の可能性を自分から捨てるようなものよ、現状を客観的に判断するなら、伯爵令嬢との関係が壊滅的というのはいただけないわ、修復できるなら修復した方が絶対的にいいですからね。」


「なんか、領主になってから悩ましい問題はほとんど女性関連ってのがねぇ・・・・・」


 ため息をつき呟く彼の言葉に、ユリアーヌスは吹き出しなが返す、


「幸せな事じゃない!だいたい余所の諸侯なんてもっときつい問題抱えてるとこばっかりよ、『領地紛争』『税収調整』『領内人事』『境界裁定』『労役依頼』、数え上げればきりがないくらいよ、中央に近かったり最前線付近だったり、領地が広大だったりすればより問題が大きく重いですからね、ここなど穏やかな方よ」


「たしかに伯爵領とか侯爵領とかになると、さすがに何をどうしていいのか見当もつかないなぁ・・・って言ってもここは最前線じゃないの?隣国が攻めてきたのを三度撃退したって話だし。」


「ああ、有名な英雄譚よね、でも問題ないんじゃない?二度は隣の伯爵領で三度目はこの村だったけど、それも20年位前になるんだったかしら?その三度の遠征で総大将だった当時の王太子は無能の烙印を押されて失脚、継承権を剥奪されて廃太子となり、それ以後遠征騒ぎも起きていないし、今更手出しはしてこないんじゃないかしらね?」


「伯爵領の方がまだ可能性が高いと見ているのかな?」


「でしょうね、いくつも山を越えてこの村を襲撃するなんて、リスクに見合うだけのメリットが全然釣り合わないでしょうからね、最後の遠征なんて私怨以外の何物でもなかったって言われているしね。」


「まぁ、二度に渡って生け捕りにされて切れるってのも分からないではないんだけどね。」


 その彼の発言を受けてユリアーヌスは少し小首を傾げるようなしぐさをすると、訂正を開始した、


「それはたぶん違うわよ」


「え?」


「敵の王太子だったエンゲルベルトは私怨ではなくそうせざるを得なくなっていたのよ。」


「え?だってさっき『私怨以外の何物でもない』って言ってたじゃない」


「世間ではそう言われているってね。」


「実際は違うの?」


「憶測だけどね、もし二度に渡って大軍を率いながら生け捕りにされるなんてヘマをしたら当然のように失脚ね、はっきりと挽回して見せるしかなかったんでしょうね。しかし、挽回しようにもそんな無能な指揮官の指揮下で戦いたいと思う諸侯はまずいないわ、兵力の集まりが芳しくなく、とてもじゃないけど数が物を言う平野戦では厳しい、そこで、この村をターゲットにしたんでしょうね。もちろん憎しみもあったでしょうけどね。」


「戦って勝つしか活路がなかったってことか・・・・王族ってのも厳しいんだねえ・・・」


「まぁ、そういう事ね、だから今私はその身分から離れてけっこう幸せにやっているのよ。」


 そう言って微笑むユリアーヌスの言葉は本心からもものであった、しかし、その王族、王太子としての地位に固執し続けた男の執念がまだ死んでいなかったことを、彼女は知らなかった。




 

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