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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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乾いた情事

 ある意味戦場に赴くような心境であった、戦場に赴く前に家族に決意を告げるように、ユリアーヌスには事情を告げた、彼女は少し考えるようなそぶりをした後で、


「私の事は気にせず、なるべく大切にしてあげなさいね、おざなりにされるのは女として屈辱以外のなにものでもないんですからね」


 彼女の言葉を受けヒルデガルドの寝室を訪問し情事に及んだが、どことなく噛み合わなさを感じる結果に終わった。アルマのような不慣れというのとも違う違和感を感じたのだ『呼吸やタイミングがどことなくづれている』そんな感じであった、事が終わった後も静かに背を向けて寝ようとする彼女からははっきりと拒絶さえ感じられた、『何が気に入らないんだよ!』と、かなり腹立たし想いを持ったが、さすがに言えるわけもなくテオドールも彼女に背を向けて眠ることになり、『どう考えてもユリアーヌスやアルマの方がいい』と思わずにはいられなかった。

 事が済み背を向けて目をつぶると彼女は小さく安堵の息を吐いた、ラファエルと何度か同衾したこともあり、男女の営みについては分っていたが、望まぬ相手との性交渉がここまで精神的苦痛を伴う物とは想像していなかった、事が終わった後は部屋から出て行き、別のベットで眠りたいとさえ思っていた。彼女がテオドールにここまでの拒否感を持つに至った原因はテオドールにも責任の一端はあった、村に到着してから、ユリアーヌスと同衾し、アルマの部屋を何度も訪問しているにもかかわらず、自分には一回も手を出そうとしないその態度は彼女のプライドを大きく傷つけた、当初はユリアーヌスより自分の方に夢中にさせて見せると息巻いていたが、長らく放置されるうちに情熱も冷め切ってしまっていたのだ、とは言っても、女性経験はユリアーヌスとアルマのみ、貴族女性の考え方など知る由もなかったテオドールにはそれを理解し、最適解を導き出すなど不可能に近い事であった。

 ヒルデガルドは背中に感じるテオドールの気配をなるべく意識しないようにしながら、この一回で妊娠していることを強く望まずにはいられなかった。


 まだ薄暗いうちに人の気配で目を覚ますと、隣にテオドールが居た、一瞬ビクッとしたが、昨晩同衾した事実をすぐに思い出し冷静さをとりもどした。


「ああ、起こしてしまいましたか、すいません」


 彼は彼女が目を覚ましたのを確認すると、謝意を表明した、目を覚ましたのはいいがユリアーヌスやアルマのするように起き掛けに朝から手を出す気にもなれず、ベットから抜け出そうとしたところで目を覚まされてしまった形になったのだ。ただ、その態度も彼女には不愉快なものであった、謝意など示すことなく堂々としていればいいのに、どことなく卑屈な態度に映るが故により不快に感じるのであった。ただ、黙っていても問題は悪化するのみであることは理解できていたので、意を決して、話しかけた


「少しよろしいでしょうか?」


 一刻も早く部屋から離れたいと思っていた彼にしてみれば、この申し出は歓迎するものではなかったが、断ることもできず、それに応じると彼女は衣服を整えながら小さなテーブルにへと向かった、この時、薄明りの中で乱れた着衣を直す彼女の姿に昨晩不完全燃焼気味に事を終えた彼はドキッとして思わず目をそらしてしまった。彼女が着席すると、彼もその対面に着席し彼女の言葉を待った、


「昨晩はご訪問ありがとうございました」


 彼女から謝意を告げられるとはまったく思っていなかったので面食らい返答ができないでいると、彼女は続けた、


「不慣れ故にご満足いただけなかったとは思いますが、今後も時々ご来訪いただければ幸いです。できうる限りご要望にはお答えいたします」


 拒否できる術もなく彼は小声で「はい」と返事をするのが精いっぱいであった、


「ありがとうございます」


 以前のお茶会で思い付いた策はあったが、まだ時期尚早であり、子供さえできればその策は盤石なものとなる、それまでの辛抱だと決意をした彼女の前ではテオドールは完全に押し負けてしまっていた。


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