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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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真実と虚構

 『こんなはずではなかった』、村での生活が平穏なリズムを以って動き出すようになった頃に、思い描いた姿との大きな相違に対してヒルデガルドは戦略修正をどうするべきか、知恵を絞っていた。

 元々の戦略の元となる分析はほぼ正鵠を得るものであった、侍女として家事をはじめとする雑用業務はまったく経験はないとはいえ、それはユリアーヌスやイゾルデも似たようなものであり、趣味レベルとはいえ、刺繍などをしていた自分の方が若干優れた点すらあるのではないか?亡きラファエルとの思い出や悲しみを共有でき、以前から面識のあるエレーナとの距離は自分が一番近く、最もうまく接していけるはずではないだろうか?彼女はそう予想していた、その予想は完全にあっていたが、最後の読みだけは大きく外し、それが致命傷となってしまっていた、彼女の誤算はテオドールが自分にほとんど興味を示さない事だった。彼女は冷静に自分とユリアーヌスとを比べていた、美貌という点において好みの差はあるかもしれないが、10人いたら7~8人は自分の方が美しいと言ってくれるのではないか?そう考えていた、しかも自分の方がはるかに若く二択であるならば、絶対に負けるはずがないとまで考えていた、その上自分が受け入れる姿勢を見せているのであれば、落ち着き次第自分の寝所に忍んで来る、そして一度でも自分と関係を持てばあんな肉の弛み始めたババアには絶対に負けるわけがない、と思っていたのだ。極めてひどい評価だが彼女の評価は公平性という点ではかなり正確なものであった、ところが蓋を開けてみれば顔に醜い傷痕のある隻腕の侍女のところに時々出入りしていた、この事実を知った時彼女のプライドは崩壊せんばかりであった、大見得を切って出発しながら極短期間で帰るなど絶対にプライドが許さず、それ故に戦略修正に知恵を絞っているのであったが妙案はなかなか浮かばず、悶々とした日々を送っていた。



 日常が落ち着いてくるといつしか女性陣のみでのお茶会が毎日の日課となっていった、交代ででお茶を淹れるのだが、やはりエレーナとアルマが安定しており、二人が当番の日はお茶プラス簡単な焼き菓子まで出るので好評であった。

 イゾルデは基本的なお茶淹れは元より問題なくできており、ユリアーヌスの評価は『微妙』という評価から全く抜け出せないでいた、ヒルデガルドの評価は『ユリアーヌスよりマシ』であり低レベルな争いで鎬を削っていた。その日のお茶会の当番はエレーナという事もあり、安定したお茶とクッキーの茶菓子までついており、自然と会話もはずんでいた。


「エレーナ様はお料理もお上手ですが、家事全般もおできになり、嫁入りした身としては片身が狭いことこの上ないです。」


 軽い笑みを浮かべながらもあくまで優雅にユリアーヌスが言うと、エレーナもわりと軽い調子で微笑みながら返す、


「私は末端の貧乏騎士家の出身ですから、使用人を雇う余裕どころか結婚までは一日一食の生活が長かったくらいで、こちらに嫁いでから豊富な食材で一日三食作って食べられる事がうれしくてしょうがなかったくらいですからね」


 アルマはニコニコと聞いていたが、他の三名はやや引きつったような笑いを浮かべるしかなかった、そんな苦労とは無縁で生きてきた三名にとって内心で『笑っていいところなんだろうか?』と、どうしても引きつった笑いとなってしまっていた、なんとか話題を変えようと、イゾルデが話始めた、


「嫁がれると言えば、大奥様が先代のレギナント様と戦場で出会っ話は王都の吟遊詩人達にも大人気で、城に呼び寄せた吟遊詩人の戦場ロマンスに私も姫様も夢中になったものです」


「ああ、たしかに!是非当事者の口から聞きたいと思っていたのよ!」


 イゾルデの発言に乗っかるように話したユリアーヌスであったが、両者の言う事は事実であった、少女時代に戦場で恋に落ちるラブロマンスのヒロインに淡い憧れの感情を抱き、まさに物語のヒロインが目の前にいるのである、当初は夫と息子を立て続けに亡くしたエレーナをおもんぱかって何事にも遠慮がちであったが、最近やっと距離感を縮めた話ができるようになってきたところであった。

 しかし、その話を振られるとエレーナはどうも照れくさそうな、それでいて少し引きつったような笑いを浮かべ、対照的にアルマとヒルデガルドはいかにも楽しそうに笑いを堪えるような表情を浮かべていた。その様子を見たユリアーヌスはちょっと一石を投じる軽い気持ちで、ヒルデガルドに話しかけた、


「ヒルデガルドさんは、何かご存じですの?」


「ええ、まぁ・・・」


 と言いつつ、少し悪戯気味な笑みを浮かべながらエレーナの方を見ると、エレーナも『しょうがないわね』と言わんばかりの、苦笑を浮かべつつ軽くうなずいた、彼女のうなずきを確認するとヒルデガルドは面白そうに事の顛末を語りだした、


「以前この村に旅の吟遊詩人が訪れた事があったそうなんです、その時に領主屋敷にて当の本人達の前でその英雄譚を披露したんですが、途中からレギナント様やカイは大笑いを始めエレーナ様も苦笑いを浮かべるしかないような内容だったそうなんです。吟遊詩人は『何か失礼でもあったでしょうか?』と怯えて尋ねたそうですが、レギナント様は『たいへんおもしろかった』と褒美を渡されたそうです。何故大笑いをされたかと言えば、あまりにも事実とかけ離れ美化された内容だったため、ついつい大笑いをしてしまったという事だったそうです」


 彼女もこの事実をしゃべりたかったのか弾んだ声で一気にしゃべり切って見せた。


「はぁ~、実際はどんな感じだったのですか?」


 この話題に関してはイゾルデの方が興味を持っているのかイゾルデがエレーナに尋ねるが、


「まぁ、それはいずれ・・・」


 と、あっさりと躱されてしまった、


「エレーナ様は私にも教えてくださらないんですよ」


 勢いがついたのか、ヒルデガルドも続けるが、


「大切な思い出だから大事にしまっておきたいのよ」


 と、少し寂しそうに語るエレーナを見て、踏み込みすぎたと焦りもしたが、それほど深刻な状態になることなく、お茶会はお開きとなった。ただ、このお茶会での会話がヒントとなりヒルデガルドには今後の展開に変化をもたらすかもしれない一つの策が思いついたのだった。

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