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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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コンプレックスハート

「イゾルデ、服を着るのを手伝ってあげなさい」


「はっ」


 彼女を裸体を晒し続けるのを不憫に感じ、彼女の言葉が終わると早々にイゾルデに命じた、命じられたイゾルデも彼女の境遇には同情心を抱き、服を着せるのを手伝いながらも『自分と同年代にはこのくらいの子がいるのもけっこういるのよねぇ』等と思いながら少し母性愛に近い感情すら抱いた、着衣が終わり彼女が着席すると、ユリアーヌスはイゾルデに命じた、


「王都から持ってきたブランデーのいいのがあったでしょ、持ってきて」


「はっ」


 主の意図を察して退室すると室内は沈黙が支配したが、お茶を口に運んだユリアーヌスによってその沈黙はあっさりと破られた、


「冷めてしまったわね、淹れ直しましょうか」


 アルマは一瞬何を言っているのか理解できなかったが、即座に理解すると立ち上がりあわてて言った、


「それでしたら私が」


「ああ、いいのよ、ここで生活して行く上では多少の事は自分でできないと話にならないから、練習を兼ねてよ、だいたいテオドールから聞いたけどこの屋敷で最も家事が得意なのがエレーナ様で次がテオドールか従士長のカイなんでしょ?その面々に色々やらせて、私が指咥えて見てるってのもねぇ・・・・・」


 アルマの申し出に対し軽く肩をすくめ、おどけるようにしながら言うユリアーヌスに少し口許を緩めながらも、『王女にお茶を淹れさせてそれを指咥えて見ている私の立場はどうなるのよ・・・・』等と考えてもいた、しかしその心配は杞憂に終わる、お湯を取りに台所に行く、お湯を沸かせ適量の茶葉を使用してお茶を淹れる、その行程を一切無視してポットの中の冷めた元お湯の中に盛大に茶葉を投入しようとした時点でオズオズとながら自分がやると強く申し出た、ユリアーヌスも簡単だろうと思って手を出してみたが、いざやろうと思うとどうしていいのか全く分からず、結局はアルマの手を借りることとなった、微妙な空気も漂ったが、「いやーけっこうむずかしいのねえ~」等と照れ隠しをするユリアーヌスの態度も相まって二人の距離は少し縮まった気がお互いにしていた。お湯を取りに行っている間にイゾルデはすでに帰ってきており、グラスの準備等をしながら待っていると、お湯をポットに入れた二人が帰ってきた、だいたいの状況を察したイゾルデが次の指示を待っていると、


「二人でゆっくりと話がしたいから、もういいわよ。」


 と、暗に人払いを命じたので一礼すると部屋を後にした、イゾルデの退出を確認すると、ユリアーヌスは切り出した、


「二人きりということで、どんなに無礼な事を言っても忘れてあげます、その代わり私の言う不都合な内容も一切忘れなさい、そういう事でどう?軽く飲みながらでもないと言いずらいこともあるでしょうから用意させといたわ。飲めるんでしょ?」


 返事を聞く事もなく彼女のグラスに注いでいく、ほとんど蛇に睨まれた蛙のような状態であったが、最初のような恐怖感はなかった、自分に危害を加える意図は全くないというのは真実であるだろうことは、ここまでの会話でも十分理解できた、先ほど肌をさらすまでしたことで吹っ切れた部分もあり、注がれたブランデーを呑むと、オズオズとではあるがはっきりと質問をぶつけた、


「お聞きします、何故私にそこまでの配慮をしてくださるのですか?」


 その質問に対してほぼノータイムでユリアーヌスは返答する、


「簡単よ、テオドールに頼まれたからよ。子供が産めないかもしれないから若い愛人を斡旋する、はっきり言って女としては屈辱以外のなにものでもないわ、あなたも女なら理解できるでしょう?」


「理解できます、ですから何故そうするのかという事が理解できないのです。」


「私たち王侯貴族には王侯貴族としての責務がある、『気に入らない相手だから嫁に行きたくない』『この人の事が好きだから結婚したい』そんな言い分は通用しないのよ、特に王侯貴族の女にとって最も重要な責務は子を産むこと、『愛人など汚らわしい者を持つくらいなら子供などいらない』なんて事を言うのは私に言わせれば諸侯夫人としては失格ね。」


 そこまで言うと自分のグラスのブランデーを飲み、空になった彼女のグラスの方に瓶を傾け無言で注いだ、アルマは少し考え込ん後で、また尋ねた、


「愛情とかはないんですか?」


「今はあるわよ」


 ユリアーヌスの回答は明快なものであった、ただ誤解がないようにブランデーを一口飲んだ後で補足を続けた、


「最初は条件の合う相手って事でしかなかった、だけどまだ短い期間でしかないけど今はしっかりと愛情もあるつもりよ。だいたい、よく知らない相手と紹介を通じて結婚するって話は農村でもあるんじゃないの?」


「あっ、たしかに・・・・」


「でしょ、ここからが貴族はたいへんなのよ、結婚した相手と色々とあわなかったとしても、家同士のしがらみもあるから別れるわけにもいかず、完全に関係が冷え切ってお互いに恋人を持って勝手にやってる、なんて話もあるくらいなのよね。」


「あ~外から眺めてる分にはおもしろそうですけど、中でやってくのはきつそうですねぇ~」


 いつの間にか二杯目も空け、ユリアーヌスから勧められるままに三杯目を飲み進むうちにアルマはかなり弛緩してきていた、甘い口当たりで飲みやすいのだがアルコール度数はかなり高めなため、非常に酔いが回りやすくなっていたのである、『もう一息かな・・・』ユリアーヌスは心中で呟くとつづけた、


「私もね年齢の事ではけっこう引け目を感じているのよ、お義理で抱いているだけなんじゃないだろうか?ってね」


「あっ・・いえ・・・すごくお綺麗ですよ・・・・」


「ありがとう」


 軽く言うと、ユリアーヌスも一口彼女に習って生まれて始めて自分で淹れてみたお茶を口にしてみた、『うん、微妙』茶葉の開き方や適量加減がかなり甘かったのであろう、自分で淹れた物ながら正直微妙に感じていた、酔わないために用意したものであったのだから味は二の次といっても、少し悔しい思いがした。しばしの沈黙の後で四杯目を口にしながら、アルマは沈鬱な様子で口を開いた、


「私の身体をごらんになったでしょう?あんな体で愛してもらえるとは思えないんです」


「さっき言ったけど私も似たような事を思っていたわ、内心『ババァつかまされちまったよ』とか思いながらお義理で抱かれることになるんだろうなぁって」


 彼女の口からそんな言葉が飛び出すとはまったく予想していなかっただけに一気に酔いが醒めるような感覚に襲われた、ギョッとして押し黙ってしまっているアルマを優し気に眺めながらユリアーヌスは続ける、


「だからね、まず一度抱いてもらいなさい、もしテオドールの態度がひどいもんだったら私がたっぷりお仕置きしてあげるからね。」


 最後のところを冗談交じりに言う彼女の言葉に思わずアルマにも笑みがこぼれた、そこからは自然とガールズトークに花が咲いた、アルマにしても引け目から同世代の娘達との性的な話に混じれずにいたが、興味はかなり強くあったので堰を切ったようになった、そんなアルマに対しユリアーヌスも惚気交じりに応じ、昼から続いた二人の宴会は夜まで及び、夕飯を知らせにイゾルデが部屋を訪問した時には、すっかり二人とも出来上がっていた。


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