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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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朝餉にて

 農家の朝は早い、まだ暗いうちから目を覚まし朝餉の用意をする長年身に着いた習慣は、生活が一変しからと言って急に変化するものではない。テオドールの貴族としての生活が開始されてからの悩みは目が覚めてから活動を開始するまでいかに過ごすか?ということであったが、結婚を機に暇な朝の時間はかなり楽しいものへと変化した。ユリアーヌスはわりと遅くまで寝ていて朝はゆっくりと起きる生活習慣であったが、ここのところ早い時間に夫にまさぐられて起きるのが習慣となりつつあった、イヤかと問われれば満更でもないのが彼女の心境であった、元々宮廷内で既婚の婦人から夜の営みについて聞かされており、知識だけは豊富にあったが、それまで聞いていたどの話と比較しても、ここまで熱心に求めてくる話はまったく聞いたことがなかった、表には出さないようにしていたが年齢面で引け目を感じ、義務感から閨を共にすることになるのではないか?と不安に思っていただけに、情熱的に自分を求めてくる夫への好意は日に日に強いものへとなって行った。王都を後にして、アルメ村への旅路についた際も道中野営の必要があり、閨を共にできない時など二人してかなり不満に感じる有様であり、生まれも身分も大きく異なり、かなりの年齢差がある二人が仲睦まじくしている様子は周りの人間たちの不安を払拭してあまりあるものであった。伯爵の城にて立派な寝室をあてがわれ、出立まで数日余裕ができるであろう事と昨晩からかわれた仕返しとばかりにかなり深夜までじゃれ合っていたが、習慣通りに薄暗いうちに目を覚ましたテオドールは泥のように一糸まとわぬ姿で眠っているユリアーヌスの体をゆっくりとまさぐりだしていた。


 

 悪戯をされた姉と、してやったりといった顔の弟、そんな表現がピッタリくるような風情で朝食の席に向かうが、先に待ち構えていた伯爵一家、というかヒルデガルドを見て二人の緩んだ空気は緊張の糸が張り詰めたものへと変わった。長かった髪を短くし、屋内で働く侍女の服を纏い着席する父母をしり目に立位で待機していたのである。一瞬ギョッとして言葉を失った三人に対し静かにヒルデガルドが口火を切る、


「おはようございます、未熟者ですが侍女としての務め精一杯果たさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」


 何がどうしてこうなっているんだ?完全にフリーズしてしまったテオドールであったが、ユリアーヌスは腹の中で『やられた』と毒づいていたが、昨晩の完全勝利は閨でテオドールに朝餉の席でヒルデガルドにしっかりと反撃された形となった事実に『おもしろい』とも思い、思わず笑みがこぼれた。


 

 話は昨夜に遡る。会談を終えた後の伯爵一家はユリアーヌスの書いたシナリオ通りの思考によって、辞退の上で良縁を新たに模索し、準男爵家との縁組は次世代に先送りで行くのがベストな選択であろうと言う結論にオルトヴィーンとヨランデは傾いていたが、そこにヒルデガルドが強く異を唱えた、彼女の心情は中で最も大きく占めた感情は『クソババァムカツク』であった、意識してはいなかったがとにかくユリアーヌスの描いたシナリオ通りに進行して行く状況が許しがたいものであったのだ、本来領主夫人の立場は自分の物であったはずなのに、どこからともなく湧いてきた年増の行かず後家が搔っ攫って行った、そう思うと元々山中の小さな村の領主夫人の地位もテオドール個人に対する執着も全くなかったが、あんな王家の者であるというだけが取り柄の年増の行かず後家に負けたと思うと悔しくて我慢ができなかったというのが自覚しているかどうかは定かではないが彼女の本心であったのだろう。亡き婚約者であったラファエルへの想いから沈み込んでいた彼女の心情は時間による解決ではなく、怒りによって立ち直る形となった、たらればの話は無意味であるがもしユリアーヌスがなんの発言もせず黙っていれば、気が進まぬ事を理由にヒルデガルドはアルメ村行きを拒否し、最後にはオルトヴィーンもあきらめていた可能性がかなり高かっただけに、『策士策に溺るる』を地で行ってしまった事に誰も気づかなかった。

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