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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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かかあ天下

「ちょっとやりすぎだったんじゃないかな?」


「まぁ、あんなもんじゃない?」


 伯爵一家との面談を終え、割り振られた自室に戻って今後についての検討がなされたが、テオドールの懸念とは裏腹にユリアーヌスとイゾルデは落ち着いたものであった。

 テオドールの不安を察したユリアーヌスは続けた、


「あなたは伯爵が回りくどい拒絶に対して腹を立て、関係の悪化を招くことを心配してるんじゃない?それは杞憂よ」


「どうして、そう言い切れるのさ?」


 きっぱりと言い切るユリアーヌスに対して理由や根拠と言うべき部分が不確かであり、どうしてもそこが気になってしまっていた、


「大きな理由は伯爵の人柄ね、あの人は激情家ではなくバランスの取れたリアリストよ、さすがに娘をひどい目に合わせたとか、理不尽極まりない扱いをした、とかなら名誉にかけて報復に出るかもしれないけど、『侍女として住み込むなら侍女として扱いますができますか?』って言っただけ、報復するような案件じゃないわ」


「しかし・・・」


 彼が言い終わらないうちに、遮るようにユリアーヌスは続ける、


「言いたい事は分るわ、『田舎領主が大諸侯に舐めた態度とりやがって』みたいな感じで、プライドを傷つけられたとして、理論じゃなく感情の面で怒りを募らせ、ここ一番というところで手痛い報復をしてくるんじゃないか?みたいな感じで心配してるんじゃない?」


 開いた口が塞がらないと言う感覚をテオドールは感じていた、まさに彼が懸念している点を正確に見抜いていたからである、彼は「その通りです」という以外に二の句が継げなかった。

 彼女は満足そうに軽くうなずくとさらにいたずらっぽく微笑みながら続けた、


「ねぇ、あなた一人でここまでの展開は読めていたかしら?」


 苦笑いを浮かべつつも、悪意のない彼女の言葉に特に嫌な気分になることなく、彼は返す


「いや、無理だろうなぁ・・・」


「伯爵もそう考えるでしょうね、となるとそのシナリオを考えたのは誰か?私以外にいなそうよね。何故私は彼女を遠ざけようとしたのか?独占欲からあなたを独り占めしたがっていたから。その考えにたぶん伯爵ならたどり着くでしょうね、『女の独占欲』そう考えれば可愛いものじゃない?」


 実際には伯爵令嬢をライバルと見なし、遠ざけようとする彼女の思考を読み解くだろうと考えたが、そこはあえて『女の独占欲』に置き換えて説明した、その方がより彼に対しては効果的であろうと思われたからだ。

 効果は如実に顕れた、クスッと笑いながらそういう彼女の言葉を聞きテオドールは赤面せずにはいられなかった、はるかに年上に王女にそう言われると恋愛経験の碌にない彼にはまったく対処する術はなかった、ゆでだこのように顔を赤らめるテオドールを見て、さっきから笑いを堪えていたイゾルデもついに堪え切れなくなり吹き出してしまっていた、ユリアーヌスも失礼よと咎めるが、真剣に咎めたてる様子は微塵もなく、一人赤面するテオドールを肴にひとしきり笑った後で、最後の〆と言わんばかりに少し声のトーンを落としたユリアーヌスの言葉でこの会議はお開きとなった


「まぁ、恩を売るという意味でヴァレンティン侯爵を通じていい縁組を紹介すれば最終的にプラスで落ち着くでしょうね」


 まあ、そこまでしておけば問題にはならないのかな?とテオドールは安堵するとともに、からかわれた仕返しに今夜はどれだけ責めてやろうかと考えを全く違う方向にシフトさせていた。



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