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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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完封劇

 執務室では最初から重い空気が漂っていた、その場に同席していたのは6名、オルトヴィーン伯爵、その妻ヨランデ、ヒルデガルド、テオドール、ユリアーヌス、ユリアーヌスの侍女として唯一人王都から同行したイゾルデ、以上の6名であった。侍女とはいっても元々は名門宮廷貴族の三女で、ユリアーヌスの乳姉妹として育った関係もあり、大諸侯を前にしても堂々としたものであり、傍目にはテオドールが一番場違いな雰囲気を醸し出していた、そのせいもあってか、ユリアーヌスとオルトヴィーンを除く女性陣3名からの彼に注がれた視線はやや冷ややかなものとなっていた。

 その重苦しい雰囲気を打破するかのように、オルトヴィーンが口火を開く、


「単刀直入に提案させていただきたいのだが、姫殿下のお輿入れに際し、行儀見習いの侍女としてしばらくうちのヒルデガルドもアルメ村で過ごしてはどうかと?城中に閉じこもっているよりよほど建設的だと思ったのでな」


 他の誰が口を開くより早く、テオドールが応対する、


「兄上の件もありますし、当方としては異存ございません」


 この反応にオルトヴィーンは聊か戸惑いを覚えた、王都での会談の際は消極的ながら反対の意向を示していたのが、なぜここで賛成に転じたのか?ユリアーヌスに何かを吹き込まれているとしたら、いったい何を吹き込まれたのか、極めて読みづらくなった、そんなオルトヴィーンの思考がまとまらぬうちに、さらにユリアーヌスが追撃をかける、


「私にも異存はございません、小さな村にゾロゾロと侍女や侍従を大量に引き連れて行っては先方にご迷惑がかかると思い、侍女は一名に絞らせていただきました、夫はもう少し多くてもいいとおっしゃって下さったのですが、嫁入りする身として、いらぬ軋轢を生む要因はなるべく排除しておきたいと思いましたので。それでも村へ近づくにつれ不安も増してまいりましたので、ヒルデガルドさんがいらしていただけるのでしたら大変心強いですわ。イゾルデもそう思いませんか?」


「はい、王都ではユリアーヌス様のお世話をしておりましたが、細やかな事、炊事、洗濯、裁縫、などお恥ずかしい事ですが全く不如意もいいところで、いまさらながら村での生活に不安を感じていた所ですから」


 事前の打ち合わせ通りの会話内容であったが、効果ははっきりと現れた、まず王女でさえ一名の侍女しか連れていかないのに、行儀見習いの侍女がゾロゾロと侍女を引き連れて行くなどありえない話であろう、しかも実際のできる事といったら趣味レベルの刺繍くらいなもので、炊事、洗濯、裁縫、掃除、など全くと言っていいくらい無縁の生活を送って来ていたのだから、村の領主屋敷で侍女として生活するとなったら若干の手心は加えてもらえるだろうが、何をどうすればいいのか全くわからない、しかも自分の手駒と呼べる人物が周りに全くいない状況、『詰んでいる』そう思わずにはいられなかった、実際にオルトヴィーン達3名は若干血の気が引くように青ざめていた、そこにダメ押しとばかりに非情なユリアーヌスの追撃が開始された、


「テオドール様は炊事や裁縫なども普通に行われるとのことでしたね?」


「ええ、自分でやらないくても誰かがやってくれるような環境ではなかったものですからね、村についたら時間のある時に一緒にやりましょうか?」


「ええ、是非色々教えていただきたいですね、イゾルデも一緒に習いなさい」


「はい、是非ともご教授よろしくお願いします」


 そんな普通の貴族は絶対にやらないような事を平然とこなせる領主、それを受け入れようとしている王族の姫、それを目の前でアピールされ、『あなたもやる?』と言わんばかりの態度を示せば、まず間違いなく心が折れ、伯爵家から辞退の申し出がなされるものであろうとの計算からであったが、彼女の本音としてもヒルデガルドは側には置いておきたくなかった、若い愛人を傍に置き、後継ぎを設ける必要性があることは十二分に理解しているが、相手はあくまでかなり格下で自分の対抗馬と成り得ない存在であることが望ましく、伯爵令嬢も格下には違いないが愛人とするには格が高すぎる、末端騎士の娘や平民出身の娘の方が望ましかったからである。

 ここまで計算通りに事が運ぶと彼女は軽く目線でテオドール合図を送った、


「すぐには、お決めになりずらいと思いますので、ご家族でゆっくりと話し合いをされてはいかがでしょうか?数日はこちらに滞在させていただいてもかまいませんので」


 数日の猶予期間を設けるとの申し出に対し、「そうしていただけると助かります」と答え額の汗をぬぐう他オルトヴィーンには方法がなかった、こうして第一ラウンドはユリアーヌスの圧勝で幕を閉じることとなった。

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