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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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閨での会話

 結婚式は豪華なものとなった、テオにとって結婚式当日までの日々は儀式の作法を覚える極めて窮屈な日常であり、高揚感もなければ達成感もない無味乾燥とした日々であった、村から付いてきたメンバーは急転直下決まったこの結婚を聞き当初は唖然としたが『王族の姫が嫁に来る』という事実に、一呼吸おいてから大歓声を上げた。王族との縁が生じる事によるデメリットについて辺境の村の住民達が理解できるものではなく、ただただその栄誉に酔いしれていた。

 結婚式が済み村への帰り支度を終えると一行は王都を後にした、帰りの一行は基本的には行きと変わらなかったがその行列に一台の王家の紋章の入った馬車が加わり華やかさ増した。

 重いプレートアーマーに身を包み慣れない乗馬を行いつつも、テオは夜が待ち遠しくて仕方なかった、それほどにユリアーヌスの柔肌に参っていた、ユリアーヌスも自分の事を情熱的に求めてくるテオにかわいいという感情を抱き、とりあえず夫婦仲は良好な滑り出しをみせていた、それだけに伯爵領でのヒルデガルドとの面会は気の重いものであった。

 王都滞在中、結婚式を前にしてオルトヴィーン、ヴァレンティン、ユリアーヌスを交えてのヒルデガルドの処遇についての話し合いは明確な結論を見せぬまま、持ち越しとなった、ヴァレンティンは中立的意見保留、ユリアーヌスも意見保留の立場をとってはいたが内心面白くなさそうであった、オルトヴィーンにとって一番意外だったのは、テオドールが反対の意思を控えめながら表明したことであろう。

 積極的に賛成するとは思っていなかったが、消極的とはいえ反対の立場を表明するとはまったくの予想外であった。

 思わず理由を聞いたオルトヴィーンであったが、ラファエルとの思い出もある土地に行き、そこで生活をするのは本人にとってつらいのではないか?本人の意思をなるべく尊重してあげたい、というものであった。

 断固とした拒絶ではなかったが、あまり気が進まないという心情が見え隠れしており、オルトヴィーンとしては暗澹たる気持ちになりながら、なんとか自領滞在中に事態の好転を図りたいと内心は焦燥感で焦げ付かんばかりであった。

 テオドールがユリアーヌス以外の女性に対し拒否の姿勢を見せたことがユリアーヌスの自尊心を満足させ二人の距離を縮める一助になった事もまた事実であった、実際に結婚式を終え閨を共にするようになるとその距離はより一層縮まり、かなり本音で話せるようになっていた、中央において社交性、政治を実践的に学んできた彼女の知識は田舎村の一青年に過ぎなかった彼のよい補佐となり、ユリアーヌスもまた理解の早い教え子に満足していた。

 明日は伯爵の居城にていよいよ面談となる日もテオは疑問に思っている部分をユリアーヌスにぶつけていた、


「伯爵はずいぶん自分の事を買ってくれているみたいだけど、どうも理由がわからないだよね。もし戦争になったら基本的に援軍に駆け付けるし、もしスッポカしたりして関係が険悪になったら、うちみたいな山中のどんずまりの村なんて経済的にアッという間に干上がるだけだと思うんだよ、どう考えてもそこまで固執しなくてもいいんじゃないかぁって思うんだよね」


 個室で二人以外誰もいない空間だと、かなりフランクに話せるようになってきていたテオは率直に尋ねていた。


「まず、本気の度合いでしょうね。アルメ村の限界動員兵力は100人くらいだけど、村の規模からすると、生産性なども考慮してだいたい30人ってとこが動員ノルマってとこかしらね。伯爵領の規模からすれば30人の援軍は微妙な人数にしかならないわね、少なくとも起死回生と言うにはほど遠い、その点は100人でも一緒なんだけど、そこで本気度って部分を考慮したんでしょうね」


「本気度って言っても不興を買いたくないから手を抜いたりしないよ」


「そこよ!手を抜かないってのと限界ギリギリってのは全然違うように感じるのよ、100人の軍勢が本体に合流して普通に真剣に戦う事をよりも、その100人が遊撃的に敵の大将を狙ってくれた方が助かるって思ってるのよ伯爵は」


「ああ・・・たしかにレギナント様はそれやっちゃったんだよなぁ・・・実際に」


「あなたにもそれができるって思えばこそなんでしょうね」


「買い被りだよ・・・」


「ふぅん・・・どうなんだか」


 いたずらっぽく笑う彼女は非常に魅力的であったが、すぐにまた真顔になり明日の対応について語りだした、


「率直に聞くけど、彼女のどこがイヤなの?会った事ないんで私も何とも言えないけど見た目とか?」


「いや、目だね」


「目?」


「うん、彼女はうちの村にもよく遊びに来たりしてたんだよ、いずれ嫁入りするからその下準備を兼ねてって事でそうやって村に来てるのを何度も見てたんだけど、その際は嫌な印象なんて全くなく、いずれご領主夫人になられるんだってそう思っていただけだったんだよ」


 そこまで言うと少し口ごもるようにしながら続けた、


「なんやかんやあって領主を継承する事になり、王都に上る事になった際に一度会ったんだけど、その目にははっきりと拒絶の色が浮かんでるように思えたんだよね。正直ラファエル様の方が自分よりいい男だと思うしね」


 テオドールの言い分を聞くとユリアーヌスはあっさりと言い切った、


「私に言わせれば両者とも諸侯貴族失格ね」


 そう言い放つユリアーヌスの言葉に一瞬ギョッとして思わず息を呑んだ、


「諸侯の子息に選択権なんてなくて当然、いざとなったら人身御供のように望まない輿入れだって当然視野に入れるべき、『気に入らないからイヤだ』『この人が気に入ったから一緒になりたい』そんなのが通るならだれも苦労しないわ」


 彼にはその言葉の重さが完全には分からなかったが、選択権など最初から持ちえず、周りがバランスを考えた縁組をセッティングし、それに抗うことなどできない彼女の言い分には重さがあるように感じられた。彼女はさらに続ける、


「私はあなたに、なるべく正直に言ったわよね『私には行く場所など修道院くらいしか残されていない』って、だからこそあなたの存在は最後のチャンスに等しかったのよ、もちろん貧乏籤を引かせるわけにはいかないから、できる限りの協力はしていく、個人の感情ではなくお互いの抱えるもの、この場合は領地や領民ね、それに対する視点が欠如している点で諸侯失格なのよ」


 その言葉を聞き「はい」と返事をするとテオは考え込んでしまった、彼女の言い分が理解できるだけにより一層選択が難しく感じられてしまったのだ、そんなテオの様子を見てユリアーヌスは好きな子をからかって遊ぶ少女のような微笑みを浮かべながら続ける、


「たしかにイヤイヤな素振りを隠そうともしないのに傍にいられたら面白くないのもわかるわ、だから穏当に波風をたてる事無く向こうから断らせる、そんな方法を考えましょう、私がついてるんだから安心なさい」


 そんな自信に満ち溢れた彼女を見ると安心感さえわいてくると同時に、一生尻にしかれるんだろうなぁと思わずにはいられなかった、こうして夜は更けていった。


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