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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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車中問答

 数日滞在すると思っていたが、結局二泊のみの滞在となった、ヒルデガルドの出発準備がさすがに一晩では終わらなかったのが理由であるが、もう一泊でき、ゆっくりと今後について話せるのは幸いであった。


「う~ん、予想外だったのかなぁ?」


「完全に予想外ね、何故あんな申し出をしたのかまだよく分からないわ、急に領主貴族令嬢としての使命に目覚めたとも思えないしね、なにより伯爵はむしろ反対しているような雰囲気を醸し出していたわ。」


「ああ、それは自分も感じた、まぁとりあえず普通に接するようにするって事かな?」


「まぁそうね、ただ、気に入ったんなら手を付けてもいいんじゃない?若くてけっこう綺麗だしね」


 ちょっとスネたような挑発するような、そんな彼女の言い分に気の利いたセリフで返すにはまだまだ男女の機微に疎いテオドールであった、ただオロオロと「いや興味ないから」とゴチョゴチョ言う様子にからかいがいがあると、思わずほくそ笑んでしまうのだった、もちろん閨の中でしっかりと反撃を受けることになるのだったが。



 翌日は伯爵家士一同の盛大な見送られながらの出発となった、オルトヴィーンからは、「娘をくれぐれもよろしく頼む」とかなり念入りに釘を刺されたが、元より関係悪化を招くような仕打ちをするつもりは全くなく、むしろ変に起源を損ねたりしないかと、猛獣を押し付けられた気分になっていた。そんなこんなで出発となったが、馬車の中では静かな腹の探り合いが開始されようとしていた。


 

 馬車に乗っていたのはユリアーヌス、イゾルデ、ヒルデガルドの3名であった、満面の笑みを浮かべるユリアーヌスとヒルデガルド、それを能面のような無表情で眺めるイゾルデという奇妙な空間が展開されていた、もしテオドールがその空間に足を踏み入れたなら、無言で回れ右をして立ち去った事だろう、そのくらい奇妙な緊張感に満ちた空間だった。口火を切ったのはユリアーヌスであった、


「よく一緒に来てくれると決心してくれたわね、初めて行く場所ですし、王都から出たことのない私にとってとても心強い限りですわ」


「御心配にはおよびませんわ、山中にあり自然豊かで本当に楽しいところですよ、お義母様もたいへんお優しい方ですしね」


 ユリアーヌスもイゾルデも彼女の発言の真意を見抜いていた、これから向かうアルメ村の知識、義母となるエレーナとすでに知り合いである点を暗に強調してきたのであろうと。話題を変えようにも、ラファエル関係の話題に触れるのはいかにも陰湿に過ぎユリアーヌスの矜持が許さなかった、村に関連した話題では何一つアドバンテージがとれないと悟ったが故に話題をテオドールにする事を試みた、


「半ば結婚を諦めていた私ですが、よき伴侶に恵まれて今は幸せを噛み締めているところなのですよ。ヒルデガルドさんはテオドール様にどのようなお気持ちを持っておいでですか?」


「私は生前のレギナント様にも実の娘のように可愛がっていただきました、エレーナ様の事も実の母のように思っております、そして何より今は亡きラファエル様の事を今でも愛しております、レギナント様やラファエル様が愛した地の発展に私のできる事をして報いたい。その想いが全てです。」


「それだと、テオドール様はどうでもいいかのような聞こえるわね」


「とんでもない、私がこれから守ろうとする地を守護される方です、その方に全力で尽くす所存ですよ」


「そうですわね、これからは皆で支えていきましょうね」


「はい、よろしくお願いいたします、奥様」


 にこやかに会話は進んだが、お互いに腹の中では『ババァ』『女狐』と毒付きあっていた、その傍らで静観の構えは崩さずにいた3人の中で最年長のイゾルデは『ああ、独り身でよかった』と心の中でつぶやいていた。


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