閨房で策を弄する
昔よりかなり肉付きは良くなっているように思われた、それを指摘する事が死を意味する事を知っているから殺されても口には出さないよにしているが、やはり加齢はあるのだと実感してしまい、しかし彼女の年齢がユリアーヌスと出会った時期よりまだ若いのに肌や肉の付き具合はユリアーヌスよりもしっかりと付いている気がした、体質なのか、子供を2人産んだためなのかは分からなかったが、昔より抱かれて眠る際に心地よく感じる気がした、何度も肌を重ねるうちに慣れてきた事も大きいかもしれないが。
「紛らわしい言い方するから驚いたわよ」
その声に責めるような色はなく面白がっているような節すら感じられた。
「う~ん、微妙に気になるんだけどさ、アストリッドに対しては手を出す心配はないって絶大な信頼を寄せているよね、むしろ美人度だけならゲルトラウデより上だと思うよ客観的に見て」
テオドールの疑問は好奇心からのものであった、ゲルトラウデと必要以上に親密になる事をヒルデガルドは嫌がっていた節があり、今でも一定の節度を持つよう無言の圧力を感じる事さえあった、しかしアストリッドと二人で一夜を過ごしたとしても、あっそう、で済みそうな気配すら感じられた。どこからこの差が生まれるのであろうか?という純粋な疑問であった。
「まあ浮気はある程度見ないふりしてあげるのも、仕方ない事だと思ってるのよ、特に戦場までついて行けるわけじゃないしね、でも絶対に近づけてはいけないタイプの女ってのもいると考えてるの」
随分と物騒な物言いに、そこまでゲルトラウデの事を警戒するほど問題のある娘だとは思えなかった。
「誤解しないでね、ゲルトラウデの事じゃないわ、一番厄介なのは私みたいな女よ」
一瞬耳を疑ってしまった、自分が一番の問題と言ってのけるのはどういった意図を持っているのか考えてしまったが幾通りにも言いようのあるだけに、ヒルデガルドの続きを待った。
「政治や軍事に口を挟み、商人から賄賂を受け取る、どう考えても毒婦ね。こんなのが近づきあなたを操り出したら危険ね」
言いたいことが理解できた気がした、たしかに表面的に言えば彼女は毒婦と言われかねない事をしている、しかしそれが個人の欲求や私欲を満たすためか?と問われればそのような事にはほとんど使われておらず、かなり健全な方向で動いているように思われた。しかしもし自分の親族を高位高官に就けるように要請したり、国家予算で贅を尽くしたような生活を送ろうとするのであれば完全な毒婦と言わざるを得ない気がした。
しかし、そこまで考えると、また難しい問題にぶつかる、フリートヘルムのように有能で頼りになり、裏切る心配の少ない身内を高い地位に就ける行動や、従姉妹の結婚相手を地方有力諸侯に取り立てる行為も傍目にはそう写る可能性が極めて高い事を理解すると、政治の面倒さをいよいよ痛感してしまった。
「しかし、アストリッドもけっこうズバズバ言う方じゃない?」
「で、聞き入れたことあった?」
「ほとんどないね」
「ね、だからいいのよ、無茶な願いでも閨で甘い声で頼んで言う事を聞いてもらうような事を彼女が出来ると思う?」
想像すると思わず吹き出してしまった、絶対にないと言っていいだろうと思えてしまった。しかし少し笑ったあとで、思い直したように言い出した。
「バカの権化みたいに感じていたけど、今回の提案は少し意外だったね」
その言葉を受けるとヒルデガルドも少し考えるように、「そうね」とだけ呟いた。ヒルデガルドにはアストリッドの進歩が少しづつ見えている気がした、傍からみれば卑怯、残虐、悪魔、異常者、そう取られるかもしれないような戦法を平然と駆使するテオドールの部隊と行動を共にする事によって彼女なりに理想の戦争と現実の戦争の違いに実感をもって分かって来たのではないかと感じていた。テオドールの部隊に来る前にも実戦の経験はあったが、あくまでも盗賊討伐など分かり易く明確な悪を退治するものであり、勝利の為に極めてえげつない戦いを行う事もありうる戦争とは一線を画するものであった。侯爵の女ゆえという配慮もあったのかもしれないが、現実を見るようになればうかうかしているといつの間にか愛妾に収まっている可能性もなくはないと、妙な気配も感じ始めていた。
しかし胸に顔を埋めるようにしながら眠りに入ろうとするテオドールを見ると、それはないかと妙な安心感も覚えてしまう、彼女から見ても極めて小男のテオドールが自分より更に背の高いアストリッドと並んでいる姿など、まるで女騎士に連行される道化師にしか見えない事がしばしばあるくらいなのだから。




