プロローグ
状況は理解できたが意味は理解できなかった。一発逆転の手などあるわけがないと高を括っていた節はたしかにあった、しかしそれは油断ではなく確信に近いものであった。
基本的に正攻法と言うのは最高の手であり奇襲、奇策に頼るのは正攻法では勝ち目がない時の苦肉の策である、そして苦肉の策に勝ち負けを賭けるようでは終わっているのである、当たれば儲け、外れてもまあしかたない、そのくらいの気分でやるのがギャンブルであり、負けたら死ぬというようなギャンブルは絶対にしてはいけないと言ってよかった。
世間ではそういった無謀な賭けに出る事の多い印象のテオドールであるが、実際には失敗したらとっとと逃げる、逃げる経路は最初からしっかり準備しておくなどの用心深さの上に成り立っていたのだから。
だからこそ、あそこからいくら奇襲、奇策を繰り出したところで到底逆転の目はなく、ジリ貧に陥ったところで手を差し出して和解というのが軟着陸を目指すテオドールの妥協点の末に見出した回答であった。
しかし、そんな願いもフェルディナントの禁じ手ともいうべき一手の前に脆くも崩れ去ろうとしていた。
「やってくれたわね」
ヒルデガルドの一言が全てを物語っていた、テオドールの思考の埒外から仕掛けた一撃によって勝敗の行方は不明確なものとなって行った。
事の発端は数日前に遡る、ヘロナにも目立った動きはなく、緩やかに数年かけて降伏まで持ち込む一手は順調に進行して行くかのように見られた、しかしその期待は予期せぬ急使の報告により根本からの見直しを要求されることとなった。
『皇帝』からの勅使が国境に到達し通行を求めているという内容と目的地はオレンボー、という急使からもたらされた内容にテオドール以外の面々はその意図をほぼ察し色めき立った。
国王にあれこれ指示が出せる立場にいる数少ない人間それが皇帝であり、こんかいの勅使の内容までは現状では分らないが、ここに来ていきなり皇帝が口を挟んでくるなど完全な想定外であり、その陰にフェルディナントの動きが見えるようであった。
当事者ともいうべきグリュックは当然としてテオドールにも意味がよく飲み込めていなかった。なぜなら元農夫である彼には一番偉い人は領主様、その領主様より偉い人が王様、そこまでであった、そんな状態で皇帝と言われても、まるで理解が追い付かず、勅使が来るといっても何のことやらとしか思えなかった。
周りの人間達もまさか皇帝と交渉を持つことになるなど夢にも思っていなかったため国内の序列などについてはそれなりに教えてきており、隣国との関係もそれなりに教えておいたが、皇帝など完全に思考の埒外と言ってよかった。




