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レイヴン戦記  作者: 一弧
第四章 王国動乱
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親征再び

 王都は大いに沸き返っていた、敗戦をごまかす意味もあるのだろうが、それでも国王の親征は盛り上がる要素として申し分ない者であった。


「どう見る」


「バカですね」


 国王親征のパレードに居残り役として参列したテオドールは小声で傍らにいるゲルトラウデに話しかけるも、返って来た回答は端的かつ辛辣なものであった。

 援軍壊滅の報告がもたらされた時、ゲルトラウデにしろテオドールにしろ、普通に考えればそんなに簡単に援軍が壊滅するなどありえず、絶対に策略が存在する、この場合味方陣営のはずのオスカーが裏切り、なんらかの方法で嵌めたと考えるのが最も妥当な事であろう。そうなると、ガリシと公爵家は裏でつながっており、公爵軍を案内役に王都を目指す事すら考えられるが、さらなる援軍の要請がやって来た、この場合最も考えられるのは、援軍をおびき寄せできる限り多く壊滅させ、王都の守りを薄くした上で一気に王都陥落を目指す事が考えられた。しかし、その援軍要請に国王自ら赴くと言うのでは罠に自ら飛び込むバカとしか思えなかった。

 

「しかしバカ過ぎる、まともな側近はいないのか?」


「軍務経験の豊富な者はヴァレンティン将軍と共に遠ざけられたか、もしくは言っても聞こうとしないのか、どちらにせよバカですね」


 彼女の読みはほぼ当たっていた、将軍の中には名目的に義理の兄にあたるテオドールを援軍の指揮官に任命した方がいいという者もいたが、そういった意見は退けられていた、理由は二つあり、軍権を与えられたらそのまま公爵軍に合流されるのを恐れた事と、もしうまく事が運びさらに手柄を立てればその名声がさらに高まり、ひいてはその子であるグリュックを待望する声まであがるのではないか?そんな考えに囚われた結果であった。

 もちろん、最初の援軍の壊滅が恣意的なものであることや不自然さが目に付くことには気づいていた、公爵が裏で糸を引いている可能性が極めて高い事も十分に考慮してのものであった、だからこそ自ら率いる援軍は援軍の名を借りた討伐軍であり、真の敵は公爵家であると設定していたのである、その討伐に向かう軍を疑わしく場合によっては公爵に着くかもしれないテオドールに任せたくないというのも幾分分からないでもなかった。


「理屈ではなく感情論も幾分入っているのではないでしょうか?」


 思い当たらないわけではなかった、前回のリンブルク戦にしても、世の中の名声は作戦立案を行ったテオドールに集まり、どうしても総指揮官だったフェルディナントはお飾りといった見方が大半を占めてしまった。


「子供が出来て、張り切ってるのかもねぇ」


 性格の違いなのだろうか?そんな事を考えながら呟くように答える。自分であれば守りに入る可能性が高いのではないだろうか?そんな事を考えてしまうと、どうしても張り切るフェルディナントとの考え方の違いが際立つ気がした、むしろ勝気なユリアーヌスであれば張り切るのかもしれない、そんな事も考えてしまった。


「また、きつい戦いになりそうだねぇ」


「出征前に十分ヒルデガルド様とお楽しみくださいね、嫉妬で殺されたくないですから」


 余裕あるじゃねぇか、そんな事を考えてしまったが、やはり楽しい事でも考えなければやっていられない、そんな気分になってしまっていた。




 国王の出陣式典より遡る事1週間、援軍出発から一カ月半ほど経った王都に援軍壊滅の凶報はもたらされた、至急将軍や王都の重鎮が集められた御前会議にテオドールも参加したが、大凡おおよその内容は予想がついていただけに落ち着いたものであった。しかし、国王親征を本人の口から発表された時は止めようかどうしようか逡巡した。結果として沈黙を守ったが、それとて自分が言えばかえって意地になり出征を強行するであろうとの思いからであった。

 公爵軍約5千、ガリシ軍約3万、そこに援軍2万が駆け付けたのだから、若干の劣勢はあれど守るエルザス軍が有利に運ぶはずであった、しかしにらみ合いが続く中、野営の陣地に向かって突如夜襲があり、援軍は壊滅し、率いていた将軍の討ち死にまで確認されている始末であった。

 もちろん夜襲に対する警戒は万全に行われていた、しかし突如として後方から1万もの軍勢が夜襲を仕掛けて来ることは想定外であった、その想定外の混乱に拍車をかけるように前方に展開していたガリシ軍3万が襲い掛かり、4万の軍勢に挟み撃ちにされ完全に壊滅するに至った。

 その間公爵軍5千はどうしていたかというと、自陣を守るので手一杯であったと言う弁明であり、どう考えても友軍の危機に何もしない事、侯爵領の奥から急に1万の伏兵が湧いて出た事、怪しい点が多すぎた。辛うじて脱出に成功し生きて王都に戻った兵の証言を元にした予想だったため、兵数には若干の差異はあろうし、夜間であったが故の誇張もあるだろうが、それでも不可解な点が多すぎた。

 自分なら絶対に第二の援軍には選ばれたくなく、最悪は討伐軍の将軍として、公爵軍・ガリシ軍の連合軍を纏めて討伐する任務であればまだマシであるとさえ思っていたところに国王自らの出陣宣言では呆気にとられるなという方が無理な注文に思えた。

 さすがに何人かの将軍は止めに入ったが、5万からの規模の軍を起こし、つけ入る隙を与えぬと豪語するのみでまるで聞こうとはしていなかった。たしかにこのことを予想していたのか各地の天領より代官に命じ軍の徴用を行い軍の陣容は整いつつあった。手際に際してはそれなり以上に見事なものがあり、どこでどう間違ってしまったのかが悔やまれるほどであった。

 まあ止めても無駄なら運を天に任せるしかないか、と半ば諦観気味な想いで会議を終え退出しようとすると珍しくフェルディナントから声が掛かった。


「そうだ、レイヴン卿、卿の村出身だったアラベラだが、懐妊したようだ、私も父になる喜びを今まさに味わっていてな、勝利の美酒を息子の誕生に添えようと思っているのだ」


 ああ、彼女はついに野望を達成したのか、そんな事を考えてしまったが、それが幸せの形であるならば、まあ問題もないように思われた、ただ、それによって張り切って戦場に赴き大量の血が流れるのであれば、ため息しか出るものなどなかった。


「いや、おめでたい事です、陛下に勝利の栄光があらんことを!」


 バカバカしいとしか思えなかった、心からこれほど離れた言葉があるだろうか?そんな事を考えていたが、こんなことばかりしなくてはならない宮廷で生まれ育ったユリアーヌスはどれだけ不自由な思いをして来たのだろうかと今更ながら考えると、村で自由な暮らしを楽しんでいたのが本当に真実だったのがしみじみと分かった気がした。ユリアーヌスと同じように宮廷で暮らしていたイゾルデもけっこう苦労したんだろうな、そんな事も考えてしまい。


「帰りにイゾルデになんか買ってってやろうか」


 そんな事を控室のゲルトラウデとアストリッドに言って変な目で見られることになってしまった。


 

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