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レイヴン戦記  作者: 一弧
第四章 王国動乱
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別離

 家中の者達は皆一様に不機嫌さを表していた。謀反人のような扱いを受けたのだから当然と言えば当然だったのだが、断り難い難題を突き付けられたことが怒りをより助長していた。


「意見は自由に言っていいけど、まずは腹案を言わせてもらうわね、グリュックは侯爵家に養子に出し、従者はあえて就けない方針で行こうと思っているわ」


 その提案に対し、少しザワつくような気配を全員から感じた、アルマにしてもまだ幼い我が子を手放すのも嫌だが従者をまるで就けずに送り出す事にはどうしても抵抗を感じた。


「言いたいことは分かるけど、理由はあるわ、ヴァレンティン侯爵は信頼できると考えてるの、だからあえて従者もつけづ信頼するという姿勢を見せればその信義に叛くことはしないと思っているわ、最も数人護衛をつけても殺そうと思えばどうやっても無理なんだから、これは賭けなんだけどね」


 その言葉に反論の余地はないのだが、それでも不満なアルマは意見を言った。


「なんとか断れないんですか?」


「無理ね。国王はテオドールの事が怖くて怖くてたまらないのよ、だからこそ手元の籠に入れておかないと安心できないのね、むしろグリュックをこの村に置きっぱなしにしたら結局殺されるわよ」


「どうしてですか?」


「まずテオドールを謀反の罪で誅殺する、その後でグリュックが成長して四代目の死神になってからでは手が付けられないから幼いうちに攻め滅ぼす、そうすれば後顧の憂いは綺麗になくなるわね」


 その未来予想に反論したくても明確な反論はできなかった、そしてヒルデガルドはあえて言わなかったが、この騒動の起点ともなっているのはユリアーヌスであったのだろうという事であった。もし子供がアルマの子であればその子に大した価値を見出す事は出来ず、自分の王位を脅かす存在とはみなされなかった、しかしユリアーヌスの子でかなり濃く王族の血を引いているとなれば自分の王位を脅かす強力なライバルと感じてしまっていることが予想された。

 公爵家も怖いのだろうが、さすがに公爵家には手も出しずらいが、小さな村を二つ所有するだけのテオドールならいくらでも手出しができる、そんな思いもあったのだろう、しかも公爵のようにあからさまな野心を感じさせる人物の方がまだ計りやすく、むしろ無欲さを前面に押し出すテオドールの方がよっぽど胡散臭く感じられたのかもしれない、本心から中央での栄達や玉座など求めていない事をこうなってからいくら言っても弁明としか聞こえず、手遅れであるのは明白であった。どこで間違えてしまったのだろうか?そんな埒外な思考をしても結論など出るものではなかった。


「連れて行くメンバーはどうする?」


 自分は残る事になるのであろう事を予想した上でエレーナが聞いてくる、厄介な事になったと感じているが最早後戻りもできない、いざとなれば、この村を最後の砦とし王国軍と一戦交える覚悟はできているつもりであった。


「屋敷が出来てからになるけど、私とゲルトラウデ、イゾルデ、ヨナタン、アストリッドあとの村人は10名ほどでいいんじゃないかしら?妻帯者の場合、夫婦で王都滞在、一年で交代、そんなサイクルがいいでしょうね」


「少なくはないか?」


 少し怪訝な顔で尋ねるが、ヒルデガルドはその疑問にも即答する。


「いいのよ、もし殺す気なら村人が何人いても死体の数が増えるだけなんだから」


 皆静まり返ってしまった、その可能性すら視野に入れないといけないような事態であるという事が余計に重く感じられたのであった。


「すいません、乳母としてグリュックについて侯爵領に向かうのはダメでしょうか?」


 アルマにとってどうしても子供は手放したくない存在であった、勝手と言われようが何よりも我が子がどうしても優先された。


「駄目よ、あなたがついて行けばそこから違和感を感じ取る人間も出るかもしれない、それが表ざたになれば色々と困ったことが起こるわ、あなたに親しい人間が誰もいない状況下で芝居を完全に演じ続けることができるとは思えないわ」


 冷徹な判断に思えたかもしれないが、事実であろう事は想像できた、アルマもそれを言われると俯くしかなくなってしまった。


「私も今回の一件はかなりムカついてるのよ、王都を戦場だと思って滞在してくるわ、その間子供たちの事は任せたわよ」


 彼女にしても王都に子供を連れて行きたい気持ちはあったが、子供を引き離されるアルマの心情を思うと、自分ばかり連れて行く事は憚られた、もしかしたら王都で誅殺の対象になるかもしれない時、村に残しておけば、身分を偽って伯爵領に逃亡させられるかもしれない、そんな打算があったのも確かであったが。考えれば考えるほど、今回のフェルディナントの措置は許し難いと思われてきて苛立ちが募った。



 滞在していたヴァレンティンの帰国に合わせるようにグリュックの引き渡しは行われ、一緒に侯爵領に向かう旨は伝えられたが、同行者が0というのには驚きを隠せない様子であった。絶対に監視の意味を込めて複数名の人物が付けられるものと思っていただけにその思いきりの良さにはある種の敬意さえ感じさせたが、さすがに0というのではもし病気や事故に遭った時に弁明の余地すらなくなり逆にヴァレンティンにかかるプレッシャーが酷い事になりそうな予感すらあった。


「成長の様子なども逐一知らせるためにも、信頼できる従者を付けた方がいいのではないか?」


 悩んだ末、ヴァレンティンの方から誰か従者を付ける事を勧める事になる始末であった。そう提案されると非常に悩むところであった、従者は3人いるが村の運営や王都での滞在を考えるとなかなか人員を割く余裕はなく、下手をしたら侯爵領で生涯を終えるまでの覚悟が必要なだけに仮に村人達の誰かを指名するなら人選には頭を悩ませるところであった。指名されれば実質的に断れないため、その判断は極めて慎重にならざるを得ず、マルティンを交えての会議は結論が出ないまま数日を費やしたが、予期せぬ所から立候補者が出た。ラルスとフリーダの夫婦が二人の子供と共に同行する事を申し出たのだった。

 状況の厳しさや、今後侯爵領で生涯を終え二度と村に帰れないかもしれない旨何度も説明したが、二人の決意は変わらなかった、フリーダに言わせると、銀貨100枚の報酬は返そうとして返せるものではないとまで言い切ったものであった。忠実なラルスと機転の利くフリーダはある意味同行者としては適任であり、少し小さいが子供もいるという事は子供の成長に合わせての同伴者として申し分ない物であった。あとに残すラルスの両親の面倒は絶対に不自由させない事を誓うと、侯爵に同行する形で村から4人がいなくなっていった。


 テオドールにとってフェルディナントはユリアーヌスの弟であり、それ以上ではなかった、特に嫌悪感や敵愾心などもなく、協力を頼まれれば面倒臭いという思いはあっても拒絶することもなく協力して来た。それなのに何故こんな仕打ちを受けねばならないのかが頭では理解できても心情的にはまったく理解できなかった。

 我が子と引き離されて初めて『敵』という言葉でフェルディナントを認識するようになっていた。

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