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レイヴン戦記  作者: 一弧
番外編
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プロポーズ大作戦

 ラルスはそわそわと落ち着きのない様子で今か今かとイゾルデが出てくるのを待っていた。完全な私用でヒルデガルドの私室を尋ねるのも気が引け、どうしても単独行動に移るタイミングを待っていたのだ。

 だいたい昼過ぎの時間にお茶を淹れるため台所に向かう、そのタイミングでなんとか捕まえられればいい、そんな事を考えていた。

 しばらく待つとヒルデガルドの私室からイゾルデが一人出て来て予想通り台所へむかって行った。それほど会話をしたことがないだけに緊張したが、意を決して話しかけた。


「すいません、イゾルデ様、私用ながら是非ともご相談したいことがあって参りました」


 一瞬怪訝な顔をした、切迫感を感じさせるような雰囲気はあったのだが、緊急事態といった慌てた様子は感じられなかった。ヨナタンではなく何故自分に相談に来たのかも分からなかったが、碌に話もきかず無碍むげにするの気にもなれなかった。


「なんでしょうか?」


「実は結婚したいと思ってその事でご相談に伺いました!」


 一瞬虚を突かれたが、その後で口許が緩みどうしても笑みが零れ落ちるのを我慢できなかった、彼女の頭の中では一面の花畑が広がり、天使がラッパを吹き鳴らしていた。

 しかし、あまり舞い上がってしまっては安く見られる、そんな事を思い、コホンと咳ばらいをするとなるべく冷静に見えるように自分に言い聞かせながら尋ねた。


「君の年齢はいくつだ?」


「はい、21です」


「ずいぶんと年上という事になるがいいのかな?」


「自分は気にしません!それにそこまでの年齢差ではありません!」


 イゾルデは涙が出そうになるのを堪えていたXX歳にして諦めていた春が来た、結婚したら絶対に5人は子供を産みたい、意地でも産んでやる、そしてあのふてぶてしい小娘に目にもの見せてやるんだ!彼女の妄想の中でバラ色の未来が展開していたが、その未来はラルスの一言で消し飛んだ。


「問題はフリーダさんがなんて言うかなんです」


 『うん、分かってた、こういう落ちだって分かってたの、典型的だもんね、どうせ私はそういうキャラよ、落ち担当のギャグ要員だものね、喪女キャラだしね、アストリッドと一緒で好かれる要素ないしね』彼女は心の中で舞い上がった自分に対し自虐めいた事を言い辛うじて精神の均衡を保とうとしていた。しかし口から出た一言は醒め切ったものだった。


「未婚の私に対しての嫌味か?」


 ラルスは青くなって謝っていたが、彼女は怒りより泣きたい気分であった、それでもなんとか気分を取り直すと、小さくため息を吐き、ついて来なさいと言い、出てきたばかりのヒルデガルドの私室へと入って行った。

 ラルスに椅子を勧め、ヒルデガルドに対し事情を説明するように促し、自分はお茶の準備をしに出て行った、部屋を出たイゾルデは「は~るよこい、は~やくこい」と歌いながら台所にむかって行った、その目には涙が光っていた。



 ラルスが相談を開始すると、ヒルデガルドもゲルトラウデも目を輝かせ喰いついてきた。


「プロポーズしかないわね!」


「ですね!」


 ノリノリの二人に対し、逆に少し尻込みするようにラルスは言う。


「いえ、やはり段階を踏んでいくのがいい・・・」


「甘い!好運の女神は前髪しかないのよ!」


 ラルスの言葉は彼女の言葉によってかき消されてしまった、


「ちょっとエルゼでいいわ、呼んできて」


 彼女がゲルトラウデをお使いに出しどんどん話を進めて行くと、『相談相手を根本的に間違えたかもしれない』そんな事を考えていた。

 エルゼが呼ばれると、出入りの宝飾店の店長を呼び出すように指示を出した、部下がプロポーズの相手に贈りたがっているから、そこまで値の張る物ではない手頃な価格の物をいくつか持ってくるようにと入念に指示を出した。

 『伯爵家出入りの宝飾店っていくらぐらいの物なんだ?金貨なんて見た事もねぇぞ!』ラルスは全てを取り消してなかった事にしたい衝動に駆られていた、『何故ここまで話が大きくなるのだろうか?何か悪い事でもしたのだろうか?』そんな事を考えていた。

 宝飾店の店長が来る間もお茶を飲みながら根ほり葉ほり聞かれるが生きた心地はまったくしなかった。しばらくして、宝飾店の店長という男が来た時は解放されたような死刑執行人が来たような複雑な心境を味わった。


「ヒルデガルド様に置かれましてはいつにもましてお麗しく・・・」


「前置きはいいわ、いいのがあるか見せて」


 店長の言葉を遮り、現物を見せる事を要求してくる、店長も慣れているのか、部下に運ばせた大き目な箱の中から小さなケースを取り出し恭うやうやしく差し出す。

 ケースを受け取り中を見ると、チラっとみてすぐに返す。


「却下!今のは少なくとも銀貨5000枚はするんじゃない?私のじゃなくて部下のなの」


 ラルスは銀貨5000枚と聞いて目眩がした、自分が一生働いてもそんな金額の1割も稼げないのではないか?そんな物が目の前にある、しかも箱の中にはそういった物がいくつも詰まっている、そう考えると、目眩を通り越して気持ちが悪くなってしまった。


「あの~安い指輪とかないでしょうか?銀貨3枚くらいの」


 このままでは埒があかないと思いオズオズと声をかけるが、またしてもヒルデガルドから横槍が入った。


「サイズ分かってるの?」


「え?サイズですか?」


「指輪の場合サイズが分からないと、嵌らないわよ」


 ラルスの様子から全く考えていなかった事を察し、それ以上のつっ込みは入れなかったが、代わりに店長に注文を出した。


「ネックレスでいいのない?」


「さすがに銀貨3枚ですと、すこし厳しいかと・・・」


 少し表情を曇らせて言うが、相手が伯爵令嬢ではなく、ラルスだけで店を訪ねていたのであれば、即座に叩き出されていたであろう。


「まぁいいわ、ちょっといくつか見せて」


 いくつかケースを出させると、順々に見て行き、一つを手に取った。


「これ、銀貨10枚に負けなさいよ」


 彼女が手に取った物を見ると少し考えたようだが、頷くと言った。


「今後とも御贔屓に」


 彼の後ろに控えていた部下は青くなっていた、その品は銀貨100枚の値段が付くものだったからである、一気に値切る彼女もそうだが応じる店長に対しても空恐ろしいものを感じていた。


「はい、がんばんなさいよ!銀貨7枚は私からのご祝儀ね!」


 彼女はポンとケースを手渡すと、激励の言葉を掛けた、ラルスが正規の値段を知らなかったのは彼のためによかったことだろう、もし正規の値段を知ったら失神していたかもしれない、逆に貴族との付き合いが多少あったフリーダはその大凡おおよその値段が分っていたからこそ大いに慌ててしまったのだった。

 結果的にはこれが決め手になってラルスの人生の墓場行きは決定した。

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