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レイヴン戦記  作者: 一弧
第三章 新世代
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絡め手

「本日はお招きいただき、まことに感謝いたします」


 今回の商隊を率いてきた男はテオドールからの招待に応じ、領主屋敷を訪れると丁寧に対応しつつ、お近づきの印にと言い、かなりの進物を提供して来た。

 その進物の内容を見る限り、小さな商会の規模を大きく上回る物であり、さらに胡散臭さを助長していた。

 今回の商隊を率いて来た男はこの商会の主であり、手下を遣わすのではなくあるじ自らが率いる事に真剣さを感じさせると共に真の狙いは何なのか、和やかな晩餐会の裏では腹の探り合いが行われようとしていた。


「マリオンさんは、この地方ではあまり聞かない名前ですが、主にどちらを主戦場とされていたのですか?」


 テオドールの主戦場と言う言い方が面白かったのか少し笑いながら、マリオンは答える。


「無名も当然です、今まで他の商会で働いていたのですが今回晴れて独立する運びとなりました。つきましては他の商人の出入りが少ないレイヴン卿と御懇意にさせていただければと思った次第です」


 皆納得のいった顔をしていたが、内心ではどうしても腑に落ちない部分を抱えていた。新興の商会にしてはあまりにも規模が大きすぎる、独立したての規模の商会にはとても見えなかった


「独立前はどこの商会で働いていたのですか?」


「ヘロナ商会でございます」


 その一言で皆の顔色が若干変わったのが見て取れたかもしれない、表面上は平静を装ったが、彼の裏にいる存在がだれであるのか、その一言で察しがついてしまったからだ。

 テオドールは商会の名前などにはほとんど詳しくなかった、しかしヘロナという名前は知っていた、商会の名前としてではなく公爵領の主都であるという認識によって。

 そこからも和やかな晩餐会は続いてが社交辞令に終始するのみで踏み込んだ話はそこまでとなった。知りたい情報は伝え終えた、そんな空気をマリオンは醸し出しており、テオドール達もその以上の情報を引き出せるとは考えていなかった。そんな無言の予定調和の中晩餐会は和やかなうちに終了した。

 

 晩餐会の終了を以って緊急の会議がエトヴァン一家も含めて開かれることとなった。相変わらず事態の急展開について行けずオロオロとした態度でいるエトヴァンであったが、今後にも係わるだけにどうしても参加せざるをえない状況であった。


「マリオンって商人と話す中で娘の将来とかそんな話は出ませんでしたか?」


 ヒルデガルドの問い掛けに少し考えるようにしながら、エトヴァンは答え始めた。


「家を訪ねて来る度に色々な話に混じってその話をしていた気がする、勢いがあるレイヴン卿を頼れば娘の嫁ぎ先もわりとすんなり決まるのでは?とか。手紙を出した際も、直接会った方が話が早いのでは?と同行を勧めてきたりもしたものだった」


「決まりね、裏はレオ公爵ね。娘さんに公爵家から縁談が舞い込むかもしれないわよ」


 ヒルデガルドの言葉にまるで頭が追い付かず、どう反応していいか分からず困っている様子が皆に伝わって行ったが、娘達も同様に何が何だか分からない、という風情であった。


「その話が来たらどうするか?そこが重要なんじゃないかな?話が来てから考えるより、今のうちに考えを纏めておいた方が事前対策が練れてあわてなくて済むんじゃない?」


 テオドールが助け舟を出すつもりで言った発言であったが、ヒルデガルドもそこは考えていた、最善策は時間との勝負になる事も予想していたが、その策の成否までは確信が持てなった。


「まず、公爵からの縁談を断る口実がかなり厳しいわ、グリュックみたいな子供なら断りようもあるけど、成人して微妙な年齢に差し掛かってるケースだとそれは厳しいのはわかる?」


 みな口実がすぐには思い浮かばなかった、実際に末端宮廷騎士の家に公爵家からの縁談が舞い込む事など絶対と言っていいほどなく、それを断るなど失礼を通り越して、完全に喧嘩を売っていると捉えられる内容であった。


「実は全員僕の愛人で・・・」


 場を和ますために言ったテオドールの冗談は、最後まで言い切る事無くヒルデガルドの肘が腹部にめり込んだところで中断された。


「現実的な策としては、縁談が来る前に婚姻を成立させることよ、すでに決まってしまって残念ですがってのなら話はまだ通るわ」


 そんな簡単に見つからないから苦労しているんだろうが、それしかない、そんな感想が皆から浮かんできた。丁度独身の従士が3人いるからそれとめあわせてしまえば万事解決ではあるが、極めて口実を設けるための急場しのぎのような策であり、別の案として伯爵家を通じて縁談を成立させるにはどうしても時間が足りない事が予想された。


「あの~、私が侯爵家に嫁いでもいいですよ、なにかあれば私が内部情報を報せる事も出来、今までの御恩返しもできますから、丁度いいのではと思いまして」


 貧乏な末端宮廷騎士の家で娘3人そこそこの暮らしができていたのはエレーナの援助があればこそであると言う事実を長女のエレンは知っていた。だからこその申し出ではあったのだが。その案はあっさりと却下された。


「却下、敵地のど真ん中で有益な情報を素通りで流せるわけないでしょ?物語と違って完全な人質になるわよ、意気込みは買うけどね」


 物語だと命がけで情報を流す事もあるだろうが、実際にそんな状況で流せる有益な情報があるとは思えず、どう考えても絵空事でしかなかった。しかし表面的な狙いは理解できても、真の狙いが分からず、テオドールは質問を開始した。


「レオ公爵の真の狙いはなんなんだろ?うちと縁を持つとして、その先に何を狙ってるんだろ?」


「王様の椅子じゃないのかしら?現国王にもしもの事があれば最有力はレオ公爵よ、そのレオ公爵をユリアーヌスの忘れ形見の後見人であるあなたが支持すればより強固になるわ、場合によってはグリュックが次の国王って可能性だって出てくるだけにね」


 話が大きくなりすぎて、ギリギリのところで理解が追い付かなくなってきていたが、かろうじて理解できる範疇で考えると、自分の言葉に置き換えなんとか質問を絞り出した。


「内乱を起こす気なのかな?」


「なにもそこまでしなくてもいいんじゃない?実際内乱になれば国力も疲弊するしね、私なら暗殺とか狙うわね、その方が武力闘争にならず国の疲弊を少なくする事が出来るしね」


 貴族、王族の怖さを改めて思い知らされるような発言内容であった。実際に同意するかのような顔をしているのはイゾルデ、ゲルトラウデなどであり、それ以外は若干引き気味になっているのが、生まれの違いを顕著に表していた。


「なるほど、じゃあやはりお話が来たら私が嫁ぎますよ」


 エレンが話を聞いたうえでさらに提案するが、彼女の意図するところをみな理解しかねていた。


「まず、嫁いでも人質とは考えず、王家に忠誠を示し続ければ従姉妹いとこを見殺しにしてまで王家に忠誠を示した、と言い張れます。ただ交換条件として、妹達にはいい嫁ぎ先を世話してやってください、それで満足です」


「ちなみに本音の部分は他にもあるんじゃないの?」


 ヒルデガルドの少し冷たいような冷静な視線を受けながらもエレンは少し微笑みを湛えたまま臆することなく回答した。


「バレましたか、生まれて一度くらいは公爵家の御妃様をやってみたいなんて思ったんですよ、仮に私が裏切っても特に痛手はないと思いますしね」


 ヒルデガルドとしても納得の行く話であった、彼女の言うように仮に裏切って侯爵家に忠誠を誓ったとしても特に痛手というほどの情報を彼女が持っているとも思えない。最初から切り捨てるつもりでの人質であれば痛手に思う事もないし、妹二人の嫁ぎ先、場合によってはかなりいい条件の婿を探す事も最大限の努力をする事によって名分は成り立つ。

 あとは公爵の出方次第と、エトヴァンが最終的に敵地ともいうべき場所への嫁入りに同意するかどうかといったところであったが、父親はどうも優柔不断で決断力にも欠ける傾向がみられるだけに、雰囲気は違えどエレンにはエレーナの血縁者としての何かを感じさせるものがあった。



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