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レイヴン戦記  作者: 一弧
第三章 新世代
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予期せぬ来訪者

 予期せぬ来訪者は突然やって来た。深刻な問題を携えているわけではないが、気軽に遊びに来ると言うのとでは訳の違う問題を持っての来訪であった。


「よくおいでくださいました」


 表面上は快く迎えたテオドールであったが、正直な感想としては何をしに来たのであろうか?という思いと、一緒に連れて来た人物達から薄々はその来訪理由を察し、少しうんざりとした気分になっていた。


「突然の来訪申し訳ない」


 非常にすまなそうに告げるエトヴァンを見ると何も言えなくなってしまう。旅慣れているわけでもないのに娘三人を連れて、安全確保のために隊商に同行しながらの旅は色々と面倒も多かったことであろうと、ここまでの旅路の困難さを考えるとあまり強く責める気も起きなくなるが、それでもやはり厄介な問題を持ち込んできたのであろう事は想像に難くなかった。


 末端の騎士家にとっては手紙の料金もバカにならずそう何度も手紙のやり取りを行うのは彼の家にとって死活問題につながりかねなかった、元々困窮を極めていた所だったのが、エレーナがレギナントの元に嫁ぎその援助でなんとか嫁を貰い家を維持しているといったギリギリの生活であり、娘三人の身の振り方に関しても末の娘はまだしも長女はそろそろ危険な年齢に差し掛かるだけに、一刻も早く何とかしなければとの思いは理解できるものであった。


「エトヴァンよ、娘のためにはその重い腰を上げたか、もう少し行動力があれば戦の際も同行するなど、いくらでも方法はあったろうに」


 実の弟に対応するだけに、エレーナの対応は若干の毒をはらんでいたが、そこまで険悪な雰囲気にはならなかった。実際にエトヴァンはレギナントやテオドールの名を利用しようとすればいくらでも悪用できる立場にいたが、そこまで悪辣な事をしようともせず、良くも悪くも世渡りの下手な男であった。

 昔から何度のエレーナが焚きつけて行動を起こさせなければどうなっていたのか、先行きが不安になるような男であり、もしこれで賭けに熱中し借金を抱える、借金してまで酒を飲んで暴れる、外に女を作り散財する、そういった事実でもあればあっさり縁を切っていたかもしれないが、そういったマイナス面はなく、『毒にも薬にもならない男』そんな評価が定着してしまっている節すらあった。


「申し訳ありません、先の戦役でも知った時は終わった後で何もご協力できませんで」


 心底申し訳なさそうに言うが、たしかに少数の精鋭で行われた今回の軍事行動に彼は呼ばれる要素はなかったであろう。


「しかし、いいのか?世間の噂ではここの領主は女狂い変態だぞ、娘を連れて来ただけでよからぬ噂を立てられるのではないか?」


「いえ、いくらなんでも従姉妹いとこにまでは手を出すとは思われますまい」


 吟遊詩人の謳には兄妹の道ならぬ恋など禁断の恋愛をテーマにした物も多く、貴族のスキャンダルは皆の大好物である事をイゾルデなどすぐに思いついたが、あえて言わなかった。

 『そういえば、あの話は面白かったな、幼馴染と妹がガチの殴り合いやるとは意表を突かれたわね、平手打ちならまだある話だけど、いきなりボディーブローだもんねぇ』

 少し前に流行った妹との禁断の恋愛を扱った吟遊詩人の歌を思い出しながらそんなどうでもいい事を考えていた。


「紹介いたします、上からエレン、エルゼ、エルナです、一番上はもう21になりますので、早くしないとと思い失礼を承知で押し掛けた次第です、なにとぞご容赦ください」


 『21で何ほざいてんだ?殺すぞ?』イゾルデは内心で殺気を押さえるのに苦心したが、たしかにユリアーヌスなどが聞いたら若干不機嫌になった可能性は極めて高かったかもしれない。

 『いっその事イゾルデみたいに諦めたら人生楽しくなるかもよ?』そんな事をヒルデガルドは考えたが、来客という事もあり自重した、もし身内のみであれば間違いなく言っていたであろう。

 『普通』そんな事をテオドールは考えてしまった、彼女達三人の容姿は良くも悪くも普通としか言えなかった、熱烈なアプローチを受けるタイプにも見えないが、無理と言われるほどひどくもない、ヒルデガルドなどをチラッと見ると、やはり彼女の美しさがいかに際立っているのかが改めて思い知らされる、そんな事を考えてしまっていた。


「いえ、お気持ちは分かりますが、こんな辺鄙な村に連れてこられましても、あまり他との交流がありませんので、どうしたものかと思いまして」


 テオドールの意見は歯切れは悪い物であったが、事実であった、こんな辺鄙な村では交流する貴族も少なく縁を見つけるなら王都の方がよっぽど選択肢が多くあると思うのは当然の考えであるように思われた。


「いえ、此度の戦功で接近を試みる者はかなり増えると思われます、来客にしろ招待にしろ、お連れ頂き、いい縁を見つける一助になればと、それだけが望みです、侍女として行儀見習いで好きにこき使ってください」


 どうしたものかとチラッとエレーナを見ると、少しため息を吐きながら、無碍にできなそうな顔をするエレーナと目が合った。


「正直、もう家もどうでもいいと思っているんです、そこそこ幸せな嫁ぎ先があればたいした家でもないので家名など断絶してもいいとさえ思うようになって来ているのです」


 困ったような顔をしている姉とテオドールを見てエトヴァンは続ける、そのあたりの内容は彼なりの心情であったかもしれない。


「その方が選択肢が広がるのはたしかだけど、この家だと商家の出入りも少ないからつては微妙なのよね」


 エレーナも無碍にはしたくないが、いかんせん選択肢がかなり少なかった、しかしそんな時一気に話が変わるような事をヒルデガルドは言い出した。


「ちょっと待って、ここには商隊にくっついて来たって話だったけど、それどこの商隊?いつも定期的に来る行商人が来る時期とはずれてるし、どこの商人が来てるの?」


「ええ、マリオン商会というところが、今度からこちらに商売を広げていきたいということでした。最初は紹介を頼まれたのですが、余計な話を持ち込んでは迷惑と思い断ってのですが、話すうちにいつしか同行する話になっていました、金銭などは貰っておりませんお断りいたしました」


 若干弁解じみた言い分が入ったが、たぶん事実であろう事が内容からうかがえた、金銭を供与されそうになったが、それを受け取る事でなんらかの要求がなされることを警戒したのであろうが、貰う物だけ貰ってそれ以後は無視するようなふてぶてしい事が出来ないのもこの男なのであった。

 しかし、その話を聞くと、ヒルデガルドは少し考え込むようにしたあとで、ゲルトラウデにゲオルグとアラベラを呼びに行かせた。


「マリオン商会について誰か知ってる?」


 呼びに行かせた後で、ヒルデガルドは皆に向かって尋ねたが、誰もその名前に心当たりはなかった。イゾルデも王宮出入りの商会についてそこまで詳しいわけではなく、その点では王都から来た新参の商人の素性が全く分からないという点に微妙に不安なものを感じていた。


「そんなに気にする事なのかな?」


 テオドールの質問に対して、ヒルデガルドは自分の中の疑問を整理するように話始めた。


「この村は商売相手としてどうしても割のいい相手ではないと思うのよね、流通の終着点みたいなところだし、そんな旨味のない所にわざわざ新規開拓で来たがるかしら?山を抜ける工事の計画がもれて今後に期待できるとしても早すぎる、具体的ではないけれど怪しい気がする」


 他にも疑うべき要素はあった、エトヴァンに近づき取り入ろうとした点、当初断っていたエトヴァンを娘を連れて同行させるまでに話を進めた点、王都からここまで商隊を組めるほどの商会でありながら伯爵領ではまったく無名である点。気になりだすとどうしようもないほど気にかかってしまった。

 薬など医薬品関連を主力として扱うのであれば、ゲオルグが分るかもしれない、他の地域を主な商圏とする物ならアラベラが知っているかもしれない。そんな考えからの呼び出しであったが、結果は両者ともに空振りであった。

 商会の名を騙る間諜?かなり違った地域で活動している商会?そんな事を考えてみたがどうにも埒が明かなかった。


「直接会って探りを入れて見るのがいいんじゃない?」


 テオドールの提案であったが、それ以外に名案もなく、商会の主を招いての晩餐会という運びとなった。自分達がかなり問題のある商人を招き寄せてしまったのではないか?という思いからかなり青くなっているエトヴァンはかなり肩身の狭い思いをする事となってしまった。


 


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