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レイヴン戦記  作者: 一弧
第三章 新世代
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戦争屋の血

 チェスの駒を兵に見立てああでもない、こうでもないと言いながら地図上を目まぐるしく動かして行く、そんな二人を見ながらよく飽きないものだと感心するような呆れるような気持ちでヒルデガルドは見ていた。攻めてきた場合の想定、攻める場合の想定、戦場がアルメ村近辺からかなり離れた場所を想定して行ってもいた。意味があるのだろうか?そんな事を考えてしまったりもしたが、いつどこに出陣要請があるか分からないのだから、考えておくにはいいのかもしれない実際に今回は役にたったのだから。

 テオドールはヤケクソ気味にした約束ながらそれ以来軍議は会議室で行うようにしていた、実際痛くもない腹を探られたくないというのが一番大きな理由であったが、ヒルデガルドとしても精神的にイライラせずに済むので両者にとっていいことであった。

 ゲルトラウデにしても、夜に時々訪れ、手荒に扱う事無く、それでいて情熱的に自分を扱ってくれ、朝までゆっくりと側にいてくれるテオドールとの関係に満足し、昼に過度にベタベタする行為はかなり控えるようになっていた。

 ヒルデガルドにしてもテオドールの戦術研究は生存戦略である事を理解もしていた、戦に強いという事が存在理由、存在価値を示す唯一の道である、そう考えると手紙書きや諸侯との調整はしっかり自分がフォローして行けばいい、その分業制に納得もしていた。しかし、名が売れてくるとあやかろうとするやからも多数出てくる、近づこうとする貴族も増えてくる、その処理にどうしても人手は欲しくなり、あのババァが生きていれば、そんな事をつい考えてしまう。



 しばらくすると、イゾルデがお茶を淹れて来て休憩となった、お茶菓子を食べている時が何より幸せそうな、ゲルトラウデを見ながら最近特に胴回りが気になりだしてきたイゾルデはため息を吐く、『おまえも後10年すればブタ女って言われるようになるのよ』そんな事を腹で毒づきながら、うらやましそうに彼女の胴回りを眺めていた。もっとも最近の彼女の悩みは胴回りだけではなかった、1年前のアルメ村襲撃の際に剣を使っての失態を演じた自分の未熟さを恥じ、それ以来アルマの母が残した棍棒の素振りを日課としていた、そのため二の腕にかなり筋肉がついてきたのだ、喜ぶべきか悲しむべきか悩むべき問題であった。


「ところで、熱心なのはいいけど、次に戦場になるのはどこだと思うの、現段階では不確定要素が多すぎて分からないってのは分かるから、あくまで予想でいいんだけどね」


 二人とも少し考えるようなそぶりをしたが、答えは一致していた。


「南方戦線の可能性が最も高いと思うね、今回の一件で北はかなり安定するし、東は婚姻関係を結んだばかり、西はヴァレンティン侯爵領で非常に安定してるからまずない、ってことで南のガリシと戦端が開かれる可能性が最も高いと思うよ」


 その発言を聞くとイゾルデが微妙に嫌な顔をしつつ、口を挟んできた。


「南方に大きく領地を持つレオ公爵がどうも信用できるのかどうか、なんとも」


「宮廷内事情とか人柄までは分からなくて、とりあえず地形と兵力だけで考えてたんだけど、何が気になるのかな?」


「端的に言えば王座を巡るライバル、しかも最有力候補ですね。もし現国王フェルディナント陛下に何かあればこの方が国王になる可能性が高いです、姫様がご健在の頃から幼王反対路線の活動を水面下でされておられましたから」


 後ろから刺されたらたまったものではない、そう考えると戦略からなにから考えなおさなくてはならないが、南は手を着けないようにするのであれば、いよいよ安定しているが故にしばらくは大掛かりな外征も行わなくて済み内政に専念できると思われた。


「今度の戦で国王自ら指揮を執り、幼王では国が成り立たないって批判もできなくなりそうだけど、それでおとなしくなりそうなタイプなの?それとも裏で陰謀を巡らすようなタイプ?」


「簡単に諦めるような人物ではないと思いますね」


 そう言うイゾルデの話に、ヒルデガルドは軽くため息を吐きながら言う。


「反乱なんて起こさないで欲しいわよね、本気で」


 しかし、そんなヒルデガルドの意見をテオドールとゲルトラウデは若干違和感のありそうな顔で何か言いたげにみていた。


「ん?私何か変な事言った?」


 若干言いずらそうではあるが、テオドールが答える。


「いや、変って言うか、反乱起こしてくれた方がいいと思ったんだよね、むしろ仲のいいふりされて油断してるとこを後ろから刺されたらそれこそたまったもんじゃないし、情報が洩れた時の奇襲なんて悲惨以外のなにものでもないからね」


「ですね、白黒はっきりさせといた方がいいですから」


 ゲルトラウデにとって敵より裏切った味方の方が何十倍も憎いというのはかなり実感のこもった言葉であった。

 言いたいことはヒルデガルドも分かるが内乱となれば国力が疲弊することになり諸外国からの侵攻の的になる可能性は格段に高くなると言えた、優先基準がやはりこの二人とは若干違う分は補い合えればいいのだが、行違うと大変な事になりそうだからその点は十分に注意しないと後々大きな禍根を残す問題となりかねない、そんな事を考えてしまった。


「国外の敵を引き込んで王位を狙うほど突き抜けた馬鹿だと困るけど、そこのとこはどう?」


「流石にそこまで馬鹿ではないですよ、むしろ表面的にギリギリのラインを読めるだけに厄介だと、生前姫様もおっしゃってましたから」


 完全に叛乱の尻尾を掴み、領地規模の縮小や討伐できればよかったのだが、その点は抜かりなく、しかも王位継承権を持つ公爵ともなると、なかなか簡単に裁けるものでもなかった。

 そしてテオドールはそういった政治的な駆け引きを完全に放置している節すらあったので、『めんどくさい相手』という意識で、見るしかなくなってきていた。


「じゃあ、公爵領を討伐するならどういう戦略がいいか検討してみますか」


 テオドールのその言葉でゲルトラウデと今度は地図上の公爵領の攻略に取り掛かり出した。その一連の流れを見ながらヒルデガルドは根っからの戦争屋ってこういうものを言うのであろうとその血筋に呆れるしかなかった。

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