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レイヴン戦記  作者: 一弧
第三章 新世代
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世知辛き世

 今回の戦の後始末は非常に楽なものであった、戦没者を出す事無く多額の報奨金を得る事が出来、撃退には成功したものの、さしたる利益も出ず、多くの戦没者を出す事になってしまった1年前の戦役とはまるで異なる結果であった。

 特に問題らしい問題もなくのんびりできると喜んでいたが、ヒルデガルド、エレーナ、イゾルデが大量の手紙を持ってやって来た。


「暇なら、これらの返事何とかして頂戴」


「なにそれ?」


 かなりの量の手紙の束を見せられてもピンと来なかった、今までは二人の所でシャットアウトされ、彼女達の手で返事がかかれ処理されていたのだった。


「方々の貴族からの手紙よ、内容は、娘の売り込み、子供の縁談、愛人の斡旋、招待状、仕官希望、様々よ」


「え?そんなの聞いてなかったんだけど・・・」


「今まではほとんど来てなかったのよ、だからこそ私達で処理していたんだけど、今回の戦役で一気に名を上げたせいか、山のように来だしてとても処理しきれなくなったのよ!」


 内容はヒルデガルドの言った通り様々であったが、幼児の息子や娘に縁談を持ってくるのにはさすがに呆れてしまった。

 愛人の斡旋というのも噂に起因していたのだが、行き場所のない自分の娘をできる限り高く売りつけ、もし子を産みそれが跡取りになれば、恩恵は大きなものになる、そんな皮算用からであった。

 仕官希望にしても、跡を継げない次男、三男を不憫に思った親が大きく手柄を立てるチャンスがありそうなテオドールの元でなんとか身が立つようにしてやりたいという親心であり、これはゲルトラウデとアストリッドの叙勲がかなり強く影響していた。

 招待状は理由は様々であったろうが、縁談がらみ以外でも、自領地に招き接待を行い親密ぶりをアピールする事で『自分に手を出せば親友の死神が貴様を潰しに行くぞ!』というアピールを近隣にする目的を持つ者もいた。


「え~と、まかせ・・・」


「暇ならおやりなさい!」


 テオドールは逃げようとしたが、最後まで言い切る前にキッパリと言い切られてしまった。彼の字はお世辞にも上手とは言えなかった、どちらかと言うと悪筆と言えた、しかも難しい文章や回りくどい文章などまったく書けないため、なんと言って断っていいのか全く分からなかった。


「まあ、そのへんで許して御上げなさい、出来ないって知ってるでしょ」


「全部押し付けて『戦術の研究』とか言って書庫でゲルトラウデとイチャイチャしてると思うと腹立つのよね」


 それは誤解であった、書庫で戦術の研究といって、シュミィレーションをしているのはたしかであったが、それ以上の事は決してしていなかった、馬車の中で止められ、夜普通に閨を共にするようになると、ゲルトラウデもおかしな暴走をする事はなくなっていた。

 ただし、暴走はなくなったがベタベタと隙あらば引っ付くようになって別の意味で呆れさせてもいた、だから書庫で何をやっているのか殴り込みをかけてやろうかと思った事も何度かあったくらいである。


「そういう話は夜にお二人でどうぞ、懸念材料はエレーナ様の親族の問題でこればかりは解決しておかないとまずいでしょうから」


 イゾルデの言葉に「すまんな」と言うと事情の説明を始めた。


「数回は会ったことがあるはずの私の弟なんだが、それが泣きついて来てな、三人いる娘をなんとかして欲しいそうだ」


 そういえば王都に行ったときに数回会った記憶はあるが、それほど込み入った話もすることなく、印象にも残っていない人物であった。しかし、何をどうすればいいのか皆目見当がつかなかった。


「正直な話、『なんとか』って具体的にはどうすればいいんですか?」


「いい婿を一人、いい嫁入り先を2か所、紹介してくれという意味で捉えるのが普通だが、もうこの際そこそこ幸せな嫁ぎ先があればなんでもいいとまで言ってきている、少し不憫でな」


 簡潔で非常に分かりやすい解説ではあったが、『知らん』という言葉が頭に浮かんで来るのみであった。


「知らん、と言いたい気持ちは分かる、ただ肉親の情があるゆえなんとかしてやりたいという想いもあるんだ」


 言いたいことは理解できたが、何をどうすればいいのか全く分からなかった、そんなテオドールの様子を察してヒルデガルドが助け舟を出す。


「伯爵家か侯爵家のどちらかに相談する形がいいんじゃない?両方に相談すると被って面倒な事になるかもしれないからね」


「よく分からないんだけど、婿はわりと見つかりやすいんじゃないの?家を継げない次男、三男なんてけっこういるって話だしさ」


 言われると三人は顔を見合わせて、少し困ったような顔をした後で、ヒルデガルドが代表するように話始めた。


「知らなくて当然なんだけど、いい機会だし説明しとくわね、下級宮廷騎士の家だとかなり生活は苦しいのよ、その苦しい生活を一気に逆転するチャンスがあるとすれば裕福な家の次男、三男を婿養子に迎える事なの、そうすればその実家が持参金を持たせたり、宮廷内での席次が上がって役付きになれるように手を回してくれたりするのよ」


 言われて状況が理解できた気がした、伯爵家の次男や三男がおり、どこかの婿養子に行くなら、かなりの持参金が期待できるかもしれない、そんな事を考えていた。


「って事は、二女、三女には家を継げてしかもそれなりに裕福な家を紹介してくれって事かな?」


「そうなるわね」


 そちらは、イゾルデの実例を知っていただけになんとなく分かっていたが、やはり別の疑問が沸いてきた。若干聞きづらそうにだが、知らないとまだまだ先の事だが、娘の嫁入りで的外れな事を言いかねないと思ったので質問する事とした。


「よく分からないのは、イゾルデさんって結構名門って聞いたんですよ、姫様より先に嫁に行けないって思いもあったのかもしれませんが、その気になれば見つかったんじゃないんですか?」


 ふざけた雰囲気ではなかったので、イゾルデも小さくため息を吐くと、話を始めた。


「名門といってもな、宮廷貴族は案外実入りが少ないんだ、小さな村しかない領主貴族と比べてもはるかに収入は少ないんだ、だから次女、三女まで持参金のあてがつかないなんてことも珍しくない、しかも家を継ぐ長男以外に金を掛けたくない、どっかで野垂れ死にしてくれた方が助かる、そんな本音を持つ者も珍しくない」


 それ以上は特大の地雷が埋まっていそうだったので聞かない事にした。


「世知辛いのはよく分かりました、ただ本当にどんな文章を書いていいのか全く分からないので、そういった面は本当にお願いします、戦術研究は今後すべて執務室か会議室でするようにしますので、ですから本当にお願いします」


 心底嫌がって懇願する様子を見て、ここまで嫌う事をやらせても仕方ないと思ったのか、小さくため息を吐くと了承した。


「まあ、領主貴族でも笑えるほど女に縁のない男もいたんだがな」


 テオドールはまったく心当たりがなかったが、ヒルデガルドとイゾルデの二人はクスクスと笑い出していた。自分の事ではないはずだし、一体誰の事なのか見当がつかず尋ねてみると意外な事にレギナントだと言い出した。


「問題は血縁と悪名だな、父親は元傭兵、母親は農民、その血縁のせいでどこの貴族からも相手にされず、戦場で手柄を立てたのはいいが、その戦いぶりから今流れている噂がかわいく思えるほどの噂が流れていたからな」


「ちなみにどんな噂ですか?」


「村の女達を虐殺してその生血で満たした風呂に入っているとかだな、私も最初に会う時は命がけの覚悟だったからな」


「よくグリュックには縁談が来たものですね」


 その言葉にはイゾルデが反応し、エレーナとの会話に入って来た。


「それは姫様のおかげでしょう、王族の血を引くというのはそれだけで重みを持ちますから」


 その言葉を聞きヒルデガルドは少し面白くなさそうな顔をした、死んでもきっちりと援護射撃を残していくその生き様に、口惜しさとも、悲しさとも、違う言葉にできない感情を感じたからだった。


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