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レイヴン戦記  作者: 一弧
第三章 新世代
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父子

「ご領主様に置かれましては本日のご視察誠に痛み入ります」


 実の父親からそういう態度を取られる事にはいつまでたっても慣れない、そんな事を考えてしまった。儀礼的に返答を返すと、村長邸に行き今後の相談という形で人払いを行い話を始める。


「慣れないか?」


「さすがに3年やるとそこそこは慣れるけど、父親と主従ごっこやるのは流石に慣れないね」


 さすがに『ごっこ』という表現にドミニクは苦笑いを漏らすが、二人でいると元の関係に戻るのは精神の安定にかなり大きく寄与していた、『ごっこ』と表現したが真剣にやらざるを得ないからたちが悪い、そんな事も考えてしまう。


「順調に行っている場合とどっちが幸せだったのかな?」


 父親の問い掛けに少し考えてしまう。順調に行っていればカイよりも若かったレギナントはまだ健在であろうか?そうなったらオルトヴィーン伯爵のように、その後見の下でラファエルにそろそろ世代交代を見越して徐々に移行し始めていたのではないだろうか?もちろんヒルデガルドは妻としてその横にいたであろう。ユリアーヌスとイゾルデは行き場がなく諦めて修道院にでも行っていたであろうか?そうなったら死なずに済んでいたのではないか?


「次の村長って僕だったんだろうね」


「ああ、よっぽどの盆暗じゃない限り、それが既定路線だった」


 今なら分かる気がした、それを踏まえて村長をやるには若いマルティンが村長をやっていたのだろうと、次の村長を自分にするために、世代交代が一番スムーズに行く計算までしていたのだろうと。

 二代続けて同じ家から村長を出す事は権力の集中につながるため、父親のドミニクも候補から外されているとなると、名主の家ではマルティンがもっとも適任であったのだった。


「その時はアルマが奥さんだろうけど、ユリアーヌスの後押しがなかったらどうなってたことか未定だしね」


 実際には彼女がこれ以上ゴネるようならどうしようかは名主衆の間でも大きな問題となっていた、決して本人が悪いわけでもなく大きな傷跡が残った事による、コンプレックスから身を引く考えも痛いほど理解できた上に、助けられた子供の親達の意向もあり、本気で頭を悩ませていた。隠し分家を途絶えさせるわけにもいかないから、それなりの愛人を用意する案すら出されていた。


「しかし、軍事的な才能なんてあるかないか分からなかったが、あったんだろうな」


「領主って案外暇なんだよね、やることないから書庫で色々読んでるくらいしかないからねぇ」


 領主にもよるのだろうが、この発言をもしヒルデガルドあたりが聞いていたら、かなり不機嫌になっていただろう、もしまっとうな領主であれば余所の地域との兼ね合いで自領以外との調整に奔走し、中央での猟官活動を行い、さらには支配領域の拡張にも乗り出す、そんな部分を丸投げしたり完全に放棄しているが故のゆとりある生活だった。もっとも地理的な要因もあるので全面的にテオドールのせいというわけでもなかったのだが。


「リンブルクを攻めるってのは本気だったのか?」


「ポーズだね、土木工事をやる事によって村人に現金を落とす事が出来るし、村の財政だけじゃカツカツでも、国庫から潤沢に資金が出るのならば話は違うからね、まぁ保留扱いにされたし、無理して20年位前のエンゲルベルトみたいになりたくはないからねぇ」


「それを聞いて安心したよ、戦争に勝って調子に乗って馬鹿みたいな大戦に想いを馳せているなら注意すべきだと思ったんでな、いくら軍事的センスに恵まれているといっても、調子に乗ると人間碌な事はないからな」


 父のそんな忠告を黙って聞いていたが、できればでかい戦なんてまっぴらごめんであると言うのはテオドールも同じ考えであった。なにより、のんびりと村に籠っている事が彼の最高の望みであるのだから。


「目下の課題は二村の安定化だよ、とりあえずヒルデガルド達が優秀だから特に細かく口出す必要性はなさそうだしね」


 他人事のように言っていたが計画を練るのも人任せにしている側面があるからこそ、為政者としてはかなり落第点であろう、佞臣がはびこれば一瞬で崩壊する下地が出来上がっていたのだから。『これでいいのだろうか?』父親としても、一村を預かる村長としても疑問と不安を感じてしまった。

 まだまだ開拓村という風情を残し、建設中の建物も多々ある村内、農業区画、防壁などを見回り状況を見るが、大規模な野盗の襲撃でも受けたらかなり厳しそうな状態が見て取れていた。


「形になるまであと3年位かな?」


 見た感じから感覚的に言った数字であったが、しかしその数字はヒルデガルド達が計算によって出した数字とほぼ一致していた。計算ではなく勘でニアピンまで持っていくセンスがあるからこそ、なんとかやっていけているのかもしれない、そんな事を考えながら心配していいのか頼もしく思っていいのか微妙な面持ちで山の村へと帰る息子を見送っていた。

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