不参加組の視点
麓に作られたブロー村へは定期的に巡回を兼ねて視察に行く事になっていた。今回は居残りであった、従士のブンターとホレスを従えての巡回となっていた。
「しかし、死傷者0での帰還とは驚きましたな、正直御父上の戦功について、多少盛っていると思っていただけに実際にそのような戦果を見せられると、驚愕としか言いようがありませんでした」
暇な道中である、のんびりとした気分も手伝って二人は話しかけてくる、今回不参加であったが、やはり戦場での活躍に憧れのようなものもあり、本人の口から武勇伝を聞きたいというミーハーな気持ちもあっての事だった。
「まぁ、本当に危険なところはフリートヘルム様が担当してくれましたからね、あちらにはけっこう死傷者が出てましたからねぇ」
それを聞きホレスが馬上で若干身を乗り出すように尋ねた、
「そこなんですよ、危険な場所ばかりを担当する事をよく了承し、文句は出なかったのか疑問だったのですよ」
「出ませんよ。まずこちらは初陣の者ばかりで白兵戦ではどこまで役にたつのかかなり不安、対して向こうは伯爵家の精鋭、あちらに負担を掛けないと勝てないというのが実情なんですよ。ついでに言えばフリートヘルム様は汚名返上を絶対にしなくてはならなかったので、是が非でも大功が欲しかったわけですしね」
理解はできたが、汚名返上を計算にいれて向こうから危険な部位を担当する事を言い出させたとしたら相当な狸だと、そんな事を考えていた。
そんな事をホレスが考えていると、ブンターが別の質問を開始した。
「攻略までは素晴らしいとしか思えなかったのですが、敵援軍への対応が若干甘かったように感じられまして、援軍を壊滅させられれば今後侵攻する際にかなり助かったのでは?そんな事を考えてしまったのです」
その発言を聞くと少し考えるようにすると、逆に質問を開始した。
「ブンターさんが指揮官ならどういう作戦で壊滅させましたか?」
「はい、城門前までノコノコやって来たところを城壁上から攻撃、ここまでは同じですが混乱に乗じて中から撃って出るのはどうでしょうか?」
予め考えていたのか、澱みなく策を披露した。
「乱戦になったら上からの攻撃は味方に当たるかもしれないので、できなくなりますね、しかも門の中にはそんなに兵がいなかったので、反撃に出られた場合、開けた門から中に乱入され、再奪取される可能性もあると思ったのでやめるように言っておきました」
実は同様の意見はフリートヘルムからも出ていたのだが、危険性がある旨を伝え却下していた。
「中の兵は少なかったのですか?」
「ええ、外で待機している兵隊を減らし過ぎると、偵察にバレる可能性があったので、中にはそれほど兵を置けなったんですよ」
ホルスが発した疑問も当然ではあるが、敵を欺くために偽装で外に配置した少ない兵を多く見せかけるのはやはりバレやすいように感じていた。
「では、橋を落とした後ではどうしてでしょうか?敵は逃げ場がないため下手に手を出したら死に物狂いで反撃してくるから手を出さなかったのは理解できます、しかし渡った後で攻撃する事は出来たのではないでしょうか?」
「誰がするんですか?橋を落とす前に大量の兵を対岸に移動させ伏せるってのが無理なんですよ、カディス周辺に他に兵力がなかったわけですしね、しかも仮に兵を伏せておいたとして、ほとんど武器や防具は放棄したとはいえ、完全な丸腰なわけでもないですから、死に物狂いの抵抗があったら厳しいですよ、大軍ですし、ついでに言うと敵のさらなる援軍があったら落とした橋を渡れず逆に壊滅させられますよ」
二人とも黙り込む他はなかった、言われてみればもっともな事であるが、なんとかさらなる戦果があった方が今後の展開にプラスがあるのではないか?そんな事を考えてしまっていた。
「まぁ気持ちは分かるんですが、まずは死なない事ですからね、負けても逃げ延びられる形を作っとく事はけっこう重要だと思うんです、書き残された文章の受け売りですがね」
「アラスを包囲したままで何もしなかった事にも負けないとか死なないといった思想が入っているのでしょうか?」
「ですね、力押しでも落とせたとは思いますが、兵の損耗を考えると包囲して降伏に持っていくのが最も味方の兵が死なない方法だと思ったんですよ」
言われて考え込んでいた、ホルスが意見を述べ出した。
「その考えだと、軍事的に今もっともやるべきは、リンブルクの調査でしょうか?地形、兵力の分布、生産力、各町村の人口分布、などの綿密な調査が勝利に繋がると考えられましたが」
「うん、もうやってるよ、うちでやると金かかるから伯爵に相談してやってもらってる、まぁうちでも独自にやってるけどね」
「え?予算の中にそんな費用は入っていなかったような?」
ブンターの意見や記憶に間違いはなかった、たしかに予算には一切そういった機密費は計上されていなかった、ただしそれは表に出せない部分であり、宿泊費・交際費・慰安費に上乗せさせる形でマレーヌに渡った金がそちらに回されていた、その点はさすがに極秘扱いでもあったので、テオドールは彼らの方を見るとそっと指を一本立て口に当てた。
だいたいの事情は察する事ができたが、田舎の小領主と若干侮っていた側面が最初はあったが、知れば知るほど闇が深い気がして空恐ろしさを感じている二人であった。




