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精一杯の想いを君に

 ラークス公爵家と騎士団長メディアスにウィンダリアの大臣の一人が組んでシグラトに呪病をふりまき、両国の皇太子を殺害せんとした事態は収束した。

 ラークス公爵家は祖父と父親の悪事の証拠を提出したセドリスが領地の半数を返上し、爵位を子爵にまで落としてなんとか存続を許された。セドリスは妻を娶りおとなしく領地に引き下がるようである。

 ウィンダリアの大臣は捕縛され、自国に引き渡され処刑されることになっている。

 また、騎士団長の一人がこのような事件に加担していたとは大きな混乱を招いた。

「というわけで、メディアスを部下ともども打ち倒した君にその後釜に座って欲しいという要請があるんだけどね、ノール」

「ご冗談を。わたくしは単なる家宰でございます」

 家宰は眉ひとつ動かさず断りを入れた。

 いまや彼の武勇は鳴り響いている。

 三年前、ウィンダリア最強の重装騎兵をものともせず蹴散らし、今回シグラトでも指折りの猛将に圧勝した男――騎士団が泣いていた。これを軍に入れなければ立つ瀬がないと。

「ノール、君、僕の子供になりなさい」

「は? なんのご冗談でございましょう?」

「冗談ではないよ。僕は常々君を埋もれさせるのは惜しいと思っていたんだよ。こういう機会があるのなら、君は世にでるべきだ」

 ノールは混乱した。それが養子になるのとどんな関係があるのか。

「イライザ夫人からも君を要求されているんだ。協力の対価だとね」

「話がとんでおりますが……」

「彼女は再婚を勧められて困っているそうだよ。それでその相手に君をと言っている。僕の養子になれば侯爵家に婿養子に入ってもおかしくないだろう? アルンハイト家の人間になれば騎士団に所属して高位についてもどこからも文句はでない。君も実の子と暮らせる。悪い話じゃないだろう?」

「旦那さま……」

 ノールはあいた口がふさがらなかった。

 イライザとノクトのことは気にしていた。だが、なんの力もない自分ではどうしようもない。

 だが――アルンハイト家に入るということは抵抗がある。元々家を存続させるためだけに生まされ――縁起が悪いといないものとして捨てられた。

 いまさらという気もある。

 それに恩を返せていない。

「ノール。君が僕に対して恩義を感じていることも知っているよ。だけどね、僕は君を弟か息子のように思っている。だから、君が幸せになるのだったら、僕は躊躇わないし、どんな手も使うよ」

 後日ノールはリチャードの養子になりアルンハイト家に婿養子にいくことになる。現当主の良人として騎士団に入り頭角を現していくのだが――それが義父の強行によるもので必ずしも本意ではなかったのだが、それはあまり関係ない。


 事後の報告と、ノールとの養子縁組、アルンハイト侯爵家との婚姻。それらの手続きのため大公家の一同は王宮に足を運んでいた。

 一連の強引な手続きに宰相のマイスリーは困惑した。生まれも確かではない男を養子とし侯爵家との婚姻を結ぶというのだから無茶苦茶である。しかし、それだけの無茶を通せるだけの実績を大公家は上げてしまった。

 次代の王たる皇太子を救い、謀反を未然に防いだのだ。通すしかないのである。

 非公式ながらその場には国王と皇太子、ウィンダリアの皇太子もいた。

「リチャード、このたびは本当によくやってくれた。感謝するぞ」

「陛下、それもアルンハイト侯爵家とセドリス卿の手助けがあってのことです。彼らにも感謝を」

「分かっている。ゆえにこの婚姻は認めよう――皮肉なものだな」

 王はノールの素性を知っている。

 アルンハイト家のエゴで生まれ捨てられた男が巡り巡って現当主の良人となる。

 皮肉もここに極まれりだ。

「手続きは終わりました。許可証です」

 宰相から婚姻許可書を受け取りリチャードは微笑んだ。

「めでたいねえ」

「めでたいついでに、あのことを考えていただけないでしょうか?」

 宰相の言葉に大公は眉をひそめた。

「まだ諦めてなかったのかい?」

「このたびフィニア姫はレオンハルト殿下を助けられました。予言の半分は現実のものとなったのです。ならば後半分も現実のものとなりましょう」

 フィニアは頭が痛くなった。

 確かにフィニアは呪病を無効化した。そのため皇太子殿下は助かった。「王となるものを助けその伴侶となる」の半分を実現してしまったような形だ。

 ゆえに皆が予言の成就を期待してここ数日フィニアは様々な形でのレオンハルトとの婚姻をせっつかれている。

 今までは忠実な家宰がそれを退けていたが、これからどうなるものか。

「「王となるものを助けその伴侶となる」だったな、生誕の予言は」

 クロスがぽつりと呟いた。

「そうだが?」

「……ならば間違いないか」

 クロスがフィニアの前に膝をついた。そして手をとり甲に口づける。

「正式に申し込もう。我が名はクロスリート・フィグ・ウィンダリア。フィニア姫、我が妻となってください」

「はい?」

 次の瞬間、クロスが、それは、それは晴れやかに笑った。

(え? 今わたし、了承しちゃった?)

 はい、と言ってしまった。聞きなおす意味のはい? だったが、耳で聞くだけなら、了承の「はい」

「あああ! 違います! 今のは――」

「お待ちください! 彼女は我が国の皇太子の妻になる運命の姫君! 連れて行かれては困ります!」

 宰相が慌てたように口を挟んだ。

 そうだった、それがあったんだ――フィニアは頭が痛くなった。生まれたときに贈られる予言。「王となるものを助けその伴侶となる」それはレオンハルトの妻になるとしか解釈のできないもので――これだけ互いに嫌いあっているのに本当にそうなるものなのか心の底から疑問だが、しっかり運命として予言されている。

「予言の話は聞いている。「王となるものを助けその伴侶となる」だろう? だからこそ、我が伴侶になるべきなのだ」

「え?」

「俺も「王となるもの」だ。俺と結ばれても「王となるものを助けその伴侶となる」という予言は成就する」

「――――ああああ!」

 その意味に気づいた全員が悲鳴をあげた。

 クロスはウィンダリアの皇太子。確かに「王となるもの」だ。

 「王となるもの」は別にレオンハルトだけではない。他国の皇太子であってもその条件は当てはまる。

 フィニアの働きはレオンハルトだけではなくそのとき一緒にいたクロスも助けている。だから「王となるものを助け」という予言に当てはまる。だから「その伴侶となる」のはレオンハルトもクロスも当てはまるのだ。

 二つの選択肢があったのだ。

「ラゼリア大公、ご了承いただけますか?」

 クロスが問うとリチャードは溜息をついて口を開いた。

「ここで断ればフィニアから一生恨まれるだろうね。ただでさえ我々はフィニアには負い目があるのだよ。ウィンダリアとの婚姻は国のためにもなるだろう。許そう」

「大公!」

 宰相が悲鳴をあげた。

 ローズは泣きながら笑顔を作る。

「おめでとう、フィニア。幸せになってね」

 その涙を夫であるシーリスがそっとぬぐうと二人は微笑みあった。

 幸薄い妹の幸せを心から祝福する。

「なんてこと……」

 フィニアは全身の力が抜けた。へたり込みそうなフィニアをクロスが支えた。耳元でそっと囁かれる。

「予言に国の名前は入っていない。だから俺でもいいだろう。フィニア――愛してる。結婚してくれ」

「うん」

 フィニアは今度こそはっきりと了承の意味を込めて返事をした。

 レオンハルトはそのフィニアの笑顔に覚えのある二度目の喪失感を味わった。

 欲しいものは手をすり抜けていってしまった。手の届くところにいたのに――それを投げ捨てたのは自分だ。

 出会いが悪かったといえばそうだが、そもそも運命の相手を勘違いしていた。ローズへの未練でフィニアには酷いことをした。最初から「王となるものを助けその伴侶となる」という予言がフィニアのものだと知っていたら――出会いがああでなければ――その運命は自分のものだったのだろうか?

 自分の勝手な思い込みや意地でフィニアを傷つけ、その心を失ってしまった。

 クロスリートは間違わなかった。フィニアの心を掴み二度と放さないだろう。

「認めません! 認めませんよ! フィニア姫は我が国の――」

「よせ、マイスリー」

 わめく宰相をレオンハルトがとめた。

「権力を振りかざしても、もはやフィニア姫の心は決まっている。取り戻すことは叶わん。ウィンダリアと揉めるわけにもいかんだろう。彼の国との結びつきが強くなるなら、認めるべき、いや、認めねばならん婚姻だ」

 レオンハルトに女姉妹はいないのだ。

 レオンハルトは芽生えたばかりの自分の恋心にふたをした。

「我が国はウィンダリアとの友好な関係を望んでいる。その証としてラゼリア大公家フィニア姫との婚姻を承諾しよう」

「感謝する」

「ありがとう」

 ふたつの笑顔にレオンハルトは小さな痛みを覚えた。


 彼の姫君は双子だった。

 一人はその力を持って戦争を終わらせ母国を救った。

「国を救い愛するものと結ばれる」という予言を持つ救国の姉姫。

 一人はその力を持って陰謀から皇太子を救い、他国の皇太子の下に嫁いだ。

「王となるものを助けその伴侶となる」という予言を持つ妹姫。

 姉姫の暮らす国はますます栄え――

 妹姫が嫁いだ国は他国を侵略することをやめ、国内の発展に力を注いだ――

 二つの国は豊かで平和な国になったという。



あらすじ

落ちぶれた商人の養女フィニアは義父に老人に売られそうになるが、兵士に捕まる。無実の訴えもむなしく城に連れて行かれるが、実はフィニアは大公家の姫君だった。「国を救い愛するものと結ばれる」「王となるものを助けその伴侶となる」双子である姉姫ローズと妹姫フィニアに送られた予言。姉姫は戦争をふせぎ予言を実現させるが、「王となるものを助けその伴侶となる」という予言はフィニアの物だった。

隣国ウィンダリアの大臣と、シグラト国内の有力貴族が手を組んで両国の皇太子を亡き者にしようと企み、二人を攫う。フィニアはローズと家令ノールの手を借りて大規模な呪術を無効化し皇太子を救う。

ウィンダリアの皇太子クロスリートはフィニアに求婚し、二人は結ばれる。

恋愛物って難しいですね……

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