第9話 ヲタク少女、強さの秘密を語る
チャットが一瞬止まったかと思えば、すぐにまた流れ始めました。
"今、何が起きたんだ……?"
"石ころを投げて、ホーンラビットの群れを全滅させた!?"
"投擲スキルか何かか?"
"でも、あんなの見たことないんだが"
"どう考えてもあんな速度出る投げ方じゃなかったのに……!"
"あの威力、上級スキルに違いない"
「すごい、すごいよコトネちゃん、ホーンラビットの群れをあんな簡単に一掃しちゃうなんて!」
ユイたんさんがキラキラした目で言いました。
し、しまった!?
いつも群れのモンスターはこれで倒してるので、つい流れ作業でやってしまいました。
お陰で凄い注目を浴びています。
リスナーの方々はともかく、ユイたんさんまで……こんなはずでは!?
「いや、あたしのことはどうでもいいではありませんか……それよりユイたんさんの美しき活躍を皆さまに――」
「――どうでもよくないよ! 今のを観ちゃったら、リスナーのみんなだって気になって仕方ないよ!」
ひいいいいいいいい!?!?
近い、近いですぞユイたんさん!?
「私とコトネちゃんでお茶したとき、その実力について話してくれたよね。私、それ聞いたときにすごく素敵だと思ったんだ……だからリスナーの皆にも話してほしいの!」
"ちゃんと説明してもらわんと"
"流石に教えてくれよ"
"職の見当もつかない"
"もしかして……ユニーク職か!?"
"エンペラーオーガを殴り倒したのも考えると……格闘職だな"
"でも今のスキルは明らかに遠距離攻撃だぞ"
"ほな格闘職違うか"
"つか、魔力使ったわりには全然消耗してないな"
"めっちゃ潜在魔力高いだろこれ……!"
まぁ……それはそうですね。
あたし、田中コトネを知ってもらう配信と銘打ってある以上、筋は通さなければいけません。
ちょうど、魔力という単語も出てきましたし。
魔力、ダンジョンがこの世界に出現したと同時に、人類に宿った未知なるエネルギー源。
それはモンスターに対抗する力となり、身体に巡らせることで己を強化するだけでなく、スキルや魔法、ダンジョン産の武器『聖遺物』を使うためのエネルギーにもなります。
人は大なり小なり魔力を持っていて、Dライバーちゃんは全員、高い水準の潜在魔力を持っています!
ですが、この田中コトネには。
「実は、あたしには魔力がないのです」
"へ、魔力ゼロ……?"
"そんな人間いるの?"
"ほんの少しだけ、なら周りにもいるけどゼロは初めて見た"
"それってつまり、スキルが使えないってことじゃん……"
"魔法も聖遺物もそうだな"
"でも、モンスター倒せてたぞ?"
"やっぱ今のスキルなんじゃないの??"
やっぱり驚きますよね。
この話をすると、皆同じ反応をします。
「幼い頃のあたしは、それはま〜絶望したものです。魔力とは……この世界において祝福のようなもの、つまり、あたしは天からの祝福を受けなかったのですから!」
あたしはウンウンと頷く。
ダンジョン社会の現代では、潜在魔力はステータス!
ダンジョン連合のデータベースに個人情報として記録されていて、進学や就職の審査基準になったりもしてます。
その数値が高ければ高いほど、周りからの評価も高くなっていきます。
つまり、
魔力ゼロのあたしはドン底人生確定ということ。
「それからというもの、あたし、田中コトネはどんよりとした希望もない人生を歩んでおりました……この先、闇に塗れた暗い道を、導く光もないまま当てもなく進んで行くのだろう、そう考えておりました……」
だけど、出会ってしまった。
「そう、出会ってしまったのです……! 忘れもしない、中二の夏、何気なくダンジョンチューブを開いたあの日……!! 私を照らす一筋の光……いや、ドス黒い漆黒の闇をゴッソリ吹き飛ばす、眩い輝きを放つ一番星を!!」
あたしは跪き、手を差し出す。
「それは如月ユイ様、貴女様でございます。あのデビュー配信から、あたしの人生は止めどない光に満ち溢れました。あの日を境に、1人のDライバーヲタクが誕生したのです……! そう、これはまだプロローグ……全10部からなる大長編の始まりにすぎません」
"いや長ぇよ!"
"全10部とかジ◯ジョ超えてるんよ"
"これ何の話だっけ?"
"コトネちゃんがどうして強いのか? だったはずだけども"
"何でユイたんとの出会いを聞かされてるんや?"
"全然本筋に入らないな"
"今のところ1人のヲタクの脳が焼かれただけだぞ?"
「落ち着いて下さいまし、ちゃんと説明しますので」
こほん、と喉を整える。
「それでですね、頭に落雷を受けたあたしはDライバーちゃんに夢中になりました。それはもう事務所、新人問わず……全てのDライバーちゃんは、瞬く間に推しと化しました」
Dライバーまとめブログは欠かさずチェック、ライブやイベントには足繁く通い、最新グッズ情報にもアンテナを光らせ、発売日には戦地に赴く日々。
「ですが……推し活をするにも、お金は必要になります。そこで、苦学生のあたしは手っ取り早く稼げそうなダンジョンに挑むことにしたのです」
"すごい勇気だな"
"魔力がないとモンスターとまともに戦えないのが常識なのに"
"基礎の魔力強化で防御も出来ないのは恐いな……"
"攻撃全部が致命傷になる"
"心臓に剛毛生えてる"
今思うと、だいぶ命知らずだったと思います。
「モンスターはもっぱら今のホーンラビットでした。最初は1匹も倒せず敗走する日々でした」
初めて討伐出来たのは……ダンジョンに潜るようになって2週間後のこと。
"2週間後か……"
"ホーンラビットは探索者初日でも倒せるレベルなのに"
"魔力ゼロってめっちゃハンデ背負ってるんだな……"
"逆によく倒したな"
"ステゴロでモンスターと戦うなんて、ワイなら死んでもやらない"
「でも、あたしは嬉しかったです。魔力がなくてもモンスターを倒せる……その事実は、あたしを奮い立たせるには充分でした」
その日を境に、別のモンスターにも挑んだりしました。
少しずつモンスターのランクを上げて、身体を慣らしていく毎日。
やがて、腕っぷしの強いモンスターと殴り合う内に筋力が高まり、素早いモンスターと競り合うに連れて足も速くなりました。
そんな! 生活を! 繰り返してたら!
「いつのまにか、こんな強くなっていたというわけです!」
"今、サラッとすごいこと言ってなかった!?"
"モンスターと殴り合う??"
"それ攻撃喰らってるやん"
"ストイックに戦いまくってそうなったってこと??"
"そのあたり詳しくぅ!"
"にわかに信じがたい……"
「そう言われましても……あたしは事実を申し上げてるだけなので」
実は、あたしが1番びっくりしてます。
本当にただ、推し活と学業のスキマ時間で行ってただけなので……。
いつしか身体も、Bランクモンスターの攻撃程度なら傷付かないくらいには丈夫になりました。
「というわけで、さっきの投石も魔力の類は一切込められておりません、えっへん!」
"はぁぁぁぁぁ!?!?"
"嘘だろ……あれスキルじゃないのか"
"ヤバすぎるだろ……"
"じゃあ……イレギュラーの時もただのパンチなのかよ……!"
"スキルなしでスキルみたいなことしてる……"
"魔力ゼロで出来ることじゃないんよ"
"どんな人体メカニズムなんだ……"
「ほら、リスナーのみんなも驚いてる! やっぱりコトネちゃんは凄いんだよ!」
「皆さん、怯えているように感じます、何故でしょうか……?」
「きっと、コトネちゃんのDライバー愛の形にビックリしちゃったんだよ、配信はまだ始まったばっかりだし、もっとコトネちゃんのことを知ってもらお♪」
"いやこれ戦慄の方っっっ!!"
"とんでもないモンスターじゃねぇか……"
"気付いてぇ、気付いてぇユイたん!"
"隣の茶髪ベレー帽相当ヤバいよぉ……!"
"ツッコミ不在配信"
えへへ。
やっぱりユイたんさんに褒められると、天にも昇る気分です……!
あたしという存在が許されたというか、生きていて良いんだと思えます。
「あ、コトネちゃんに質問が来てる。スパチャありがとうございます!」
"¥5000:スパチャ失礼します、コトネちゃんとんでもない強さなんですね! それだけ強ければ、きっとお布施だって稼ぎたい放題ですね、羨ましい……"
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