第10話 ヲタク少女、バレる
確かに、このパワーはお布施稼ぎにとても助かってはいるのですが、全力を発揮出来てるかと言われれば……。
「そうでもないのですよ……」
"へ、何でさ?"
"イレギュラー倒せるなら、お布施どころか食い扶持も困らんでしょ?"
"俺なら狩りまくって豪邸建てるぞ"
「ダンジョン連合の規定で、18才未満の探索者はD〜Fランクの魔石しか換金出来ないのです」
これは、未成年がダンジョンで無茶をしないように定められたルールで、ドロップ品に関しては一律持ち帰ることは出来ません。
因みに……ユイたんさんのように事務所に所属していれば、その限りではありません。
そして、あたしに関しては。
「――最低のFランク魔石しか交換してもらえないのですよ……」
"どういうこと?"
"こんなに強いのに??"
"D、Eランクが交換出来ないのはおかしくね?"
"全然稼げないじゃん"
「それは至極単純です、あたしに魔力がないからなのです」
。
換金のために探索者カードを提示するとき、個人データを照合して、実際に倒せる能力があるかどうかを判断されます。
それで、魔力ゼロという揺るがない事実が足を引っ張っているようで。
「要するに、あたしがEランク以降のモンスターを倒せるという信用が得られてないのです」
初めてEランクのダンジョンウルフを倒した(ステゴロ)ときも、魔力ゼロなばっかりに、受付で魔石を押収されてしまいました……。
"何だよそれ"
"胸糞案件"
"ダンジョン連合ゴミすぎ"
"融通効かせろや"
"だから毎年炎上すんだよアイツら"
"そいつクビだろ"
「ひいい……!? 連合の方々はちゃんとお仕事を全うしただけなのです、どうか矛を納めてくださいまし!」
ネットの民を怒らせたら、何が起きるか分かりません。
「コトネちゃんが強いモンスターを倒してるところをドローンで撮影して、それを観せれば連合も納得したんじゃないかな?」
「それはですね、あたしも一度考えたことがあるのです……」
なけなしのお金(3万円)を握って、家電量販店のドローン売り場に足を運んだとき、その値段を見て思ったのです。
メーカーによってピンキリ、高い物は10万円以上、最安値でも2万円代……。
それであたしは思ったのです。
――あれ、このお金で赤スパ1回分投げれるのでは……?
「……気が付いたら何も買わずに帰宅にし、その日の夜にスパチャ代に消えてました」
"おいいいいいいい!?"
"いや分かるけど、分かるけど!"
"ついつい趣味に使っちゃうんだよな……"
"後の利益より目先の欲求"
"正直な生き物や……"
自分の辛抱のなさが憎い……!
ですが、最速かつ最短でスパチャをお届け出来たので、悔いはないのです。
「やっぱりスパチャはやめられませんよぉぉ……本当なら、今すぐユイたんさんに投げたいくらいなのです……」
「コトネちゃん、おもむろにお財布を取り出さないで……!」
"スパチャに取り憑かれてる……"
"Dライバー全員で作り出した怪物"
"虚ろな目でお札渡してくるの怖すぎる"
"現代の怪異"
"どっかの隔離病棟から抜け出したんか"
ユイたんさん、あたしの想いを受け取ってくださいまし!
すると。
"¥20000:スパチャで思い出したけど、田中コトネ……お前、もしかしてコトねる大邪神か?"
「ぴゃ!?」
思わず声が裏返る。
そ、それは、あたしのネットでのハンドルネーム。
"コトねる大邪神って……ありとあらゆるDライバーの配信に現れては、スパチャという名の怪文書を送る、あの激痛リスナーのことか!"
"その1番の被害者がユイたん"
"ぽつったーにもいるよな、歪んだ妄想ポエムの気持ち悪さだけで、2万人ものフォロワーを集めた"
"あ、よく見たら名前も似てる"
ひいいいいいいいいいいい!?
マズいです、この流れはマズい!
田中コトネとコトねる大邪神、この2つが結びついてしまったら、社会的死なのです!
絶対……絶対死守〜!
「ふひ、ふひひ、何をおっしゃっているのか、まるで分かりません」
"何か怪しいな"
"正直に吐けよ"
"そういうのいいから楽になろうや"
"コトねる大邪神、ユイたんのイレギュラーのときにもいなかったな"
"ぽつったーの更新もイレギュラーから止まってる"
"アイツがユイたんのピンチに言及しないわけない"
"そういや、まだコトねる大邪神からスパチャ投げられてないな"
"ユイたんの配信ならいつも開始5分以内で投げてくるのに"
"投げたくても投げられない状況……だとしたら"
す、鋭い……皆さんの本業は探偵ですか!?
「や、やめてくださいまし! あたしはしがないヲタクの田中コトネ、それ以上もそれ以下もないのです!」
「皆やめてあげて、私はそんなことどっちだっていいよ」
ユイたんさん……!
「コトネちゃんとコトねる大邪神さん、2人とも私の大事なファンなんだ、同一人物かどうかなんて些細な問題。確かにコトねる大邪神さんが来てないのは寂しいけど……きっと事情があるんだよ、今はそっとしといてあげて欲しいな」
ユイたんさんは、ぱんっと手を合わせる。
「だからもうやめて、私からリスナーさんに……一生のお願いっ!」
"出た、ユイたんの伝家の宝刀!"
"デビューから通算253回目の一生のお願い"
"まぁユイたんが言うなら……"
"一生のお願いなら仕方ない"
"これで許しちゃうのがワイらなのだ"
「もう大丈夫だよコトネちゃん、安心して♪」
ぐううう、心が痛い……!
罪悪感で死にそうです。
その曇りなき眼、こちらを一切疑っていません。
ですが、これで身バレは防がれました。
ヲタクにとって、現実とネットの顔が結びつくのは死活問題。
これからも、あたしは仮面(コトねる大邪神)を被りながら応援致します!
「ユイたんさん申し訳ございません、一生のお願いまで使わせてしまって……」
「大丈夫、今日の分を使っただけだから♪」
「本当にありがとうございましゅ」
「でも……コトネちゃんがコトねる大邪神さんだったら嬉しいな、もしそうなら私……2人分の愛をあげちゃうかも」
「あたしです」
「コトネちゃん……!」
「あたしがコトねる大邪神です」
鼻血を垂らしながら、アカウント画面を見せるあたし。
「2人分の愛を下さい」
"wwwwwwwwww"
"コイツwww"
"あっさり自白しやがったwwwwww"
"あんなに否定してたのに笑笑"
"【速報】田中コトネ=コトねる大邪神"
"愛に釣られやがったwwww"
"ユイたんに謝れwwww"
えーどうとでも言って下さい。
そりゃ白状しますよ、本人だって。
だって2人分の愛ですよ、社会的死なんて安いもんですよ。
「どうか……愛を……ユイたんさんの愛を……!」
「今はダメ」
ユイたんさんは、あたしの唇に人差し指を当てる。
「終わったらね♪」
ブハッ!!
あたしはだくだく流れる鼻血を抑える。
"コトねる、顔面殴られたみたいになってる"
"罪な女ユイたん"
"クラスの男子を勘違いさせる女子ユイたん"
"自分が可愛いと気付いていない、最も可愛い存在ユイたん"
終わったら……終わりますね、これは。
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