第8話 ヲタク少女、無自覚に活躍してしまう
そんなこんなで、ユイたんさんとのダンジョン配信が始まりました。
「よぉーし! それじゃ探索していこっか!」
「はい!」
草原を歩き出すあたしたち。
この秋葉原ダンジョンは自然型に分類されます。
名前の通り、現実のような大自然に包まれたダンジョンのことです。
他にも人工型、迷宮型などがありますが、ここでは割愛。
「それにしても……」
あたしは、先導するユイたんさんの背中を見つめる。
艶のある黒い長髪、白基調のコスチューム、腰に下げられた剣。
こんな至近距離で見れるなんて、まるで夢見たいですよ……!
あたしは限界まで目を見開き、ガン見する。
「ふおお……ふおお……!」
「どうしたの、コトネちゃん?」
「い、いえ、何でもございません!」
"コトネちゃん、鼻息荒くないか?"
"ドローンが音声拾えるレベル"
"表情も心なしかヤラしい気もする"
"少女の皮を被った獣"
"ヨダレ出てない?"
"変態疑惑アリ"
"ユイたん気を付けて……!"
「なっ!?」
ば、馬鹿な、顔に出ていた、だと……!
あたしはヨダレを拭う。
「きっと私を守るために警戒してたんだよね、コトネちゃんが見てくれるなら安心出来るよ♪」
「はい、もちろんでございましゅ!」
"ユイたん純粋すぎる"
"騙されるなユイたん……!!"
"1番警戒しないといけないヤツがいるぞ"
"これ警察呼んだ方がいいだろ"
"ユイたんが穢される"
"オマイラ通報ボタンスタンバイしとけ"
"俺たちでユイたんを守るぞ"
ひいいいいいいいいいい!?!?
襲うわけないじゃないですか……!!
いくらDライバーちゃんに目がないあたしでも、線引きはしっかりしております!
そう、線引きは――。
「――あっ、コトネちゃん見て! ファイアーバードが飛んでる!」
くるん、と振り向くユイたんさん。
キラキラと光る瞳、眩い笑顔を検知。
黒髪が揺れ、シャンプーの香りが鼻腔を刺激。
脳内を経由し、全身に浸透。
その時間、僅か0.1秒。
QED.尊み完了。
バタンッ!
目を瞑り、仰向けに倒れるあたし。
「コトネちゃん!?」
ユイたんさんはあたしを抱き抱える。
「天使……天使が見えます」
「行かないでコトネちゃん! 天使なんていない、それは悪い幻覚だよ、だから目を開けて!」
「いるのですよ、目の前に」
尊すぎんだろ……あたしの最推し……。
これ線超えるかぁ〜垣根超えちまうかぁ〜?
"ユイたんスマイルが直撃したな"
"ユイたん推しを跡形もなく消滅させると言われるあの……!"
"ジュッ!"
"限界ヲタクにこれは劇薬"
"致死量を超えたユイたんスマイル"
"おい、おい!"
"何てこった、もう助からないゾ♡"
先が思いやられます。
この配信、どれだけのユイたんエネルギーを喰らい続けるのか。
終わる頃に、果たして人の形を保っていられてるかどうか……。
ユイたんさんの支えで、あたしは何とか立ち上がる。
「大丈夫、コトネちゃん?」
「すみません、供給が激しくてつい」
「供給……?」
「いえ、こちらの話でございます!」
あたしはユイたんさんは再び歩き出す。
すると、早速モンスターに遭遇。
ホーンラビット、実際のウサギよりも一回り大きく、頭にツノが生えたモンスターです。
モンスターの中では最低ランク、初討伐デビューにうってつけな存在です。
ヂュー!
こちらを見るなり、威嚇してきました。
「むむむ、ユイたんさんに向かってなんて無礼な……!」
あたしは腕を捲る。
すると、ユイたんさんは一歩前に出ました。
「ふえ?」
「私のチャンネルだし、最初は私から動かないとね、見てて♪」
ユイたんさんは剣を抜き取り、構える。
ヂュー!
ホーンラビットが飛び掛かる。
ユイたんさんは慌てることなく、すれ違いに剣を振り抜く。
「ディバイン・スラッシュ!」
シャキン!
ユイたんさんの鋭い剣閃が、ホーンラビットの体をなぞる。
その流麗な動きに、思わず釘付けになってしまいました。
ユイたんさんは剣を胸に掲げると、ホーンラビットがぽん、と魔石に変わり、地面に落ちました。
「おおおおおおおおおおお!!!!」
これが……ユイたんさんのディバイン・スラッシュ!
ユニーク職『剣聖』にのみ許された剣技スキル!
ユイたんさんの象徴的なスキルであり、神聖の加護を受けた剣による運命の斬撃!
そして……神楽坂ダンジョン『飛天の試練』のクリア報酬、神聖の力を倍化させるユイたんさんの聖剣デュランダル!
このコンボはDライバー界でも屈指の強さを誇り、ユイたんさんを支え続けたと言っても過言ではな――(ここまで3秒)
"キタァ、ユイたんのディバイン・スラッシュ!"
"いつ見ても美しい"
"ユイたんと言えばコレだよな……!!"
"ユイたんの配信始まったって感じするわ"
"もはや芸術のレベル"
"ユイたんデビューの翌月から剣士職が20%増加したのは伝説"
"コレみたら全員が憧れるね"
チャットは賞賛の嵐。
多くのリスナーを虜にしたその美技は伊達ではありません!
「さ、最高です、ユイたんさん! まさか生のディバイン・スラッシュを観れる日が来るなんて……!」
あたしは涙を流しながら拍手をする。
「ふふ、ありがとう! それじゃ次は……コトネちゃんのカッコいいところ、見せてもらおうかな〜」
「ふえ?」
「だって今日はコトネちゃんの魅力をたっぷり伝えるための配信だもん♪」
そうでした……!
そもそも、この配信はあたし自身を知ってもらうために計画された物。
如何にあたし、田中コトネがDライバーに向いてないか(ユイたんさんは違うみたいですが)、しっかりアピールせねばなりません。
とは言いつつも……これあたし必要ないのでは?
ご覧の通り、ユイたんさんはDライバー界の憧れ。
皆を魅了し、時に狂わせる。
神にも等しいゴッド・オブ・レジェンドな存在。
そんな貴女様の配信ともなれば、何よりもまず、ユイたんさんの素晴らしさが全面に出るべきだと思うのですよ。
リスナーの皆さんだって、ユイたんさんが多く配信に映るのがよいはず。
それに……あたしは、この距離でもっとユイたんさんの活躍が見たい。
この目に焼き付け、脳内フォルダにいつでも引き出せるようにね!
そうと決まれば……あたしの部分はパパッと終わらせて、ユイたんさんの姿を多く配信に残せるように尽力しましょう……!
「かしこまりました、ご期待に添えられるよう頑張らせていただきます」
"めっちゃ悪い顔してないか?"
"よからぬこと企んでそう"
"ゲス顔が過ぎる"
"女子高生のする顔じゃないんよ"
"明らかに敵側なんだよなぁ"
ユイたんさん、貴女はこの世界の主人公なのです。
あたしは、それを引き立てるモブでしかないのですよ。
と、その時でした。
ピキィン!
あたしはとある気配を察知しました。
その方向を見やり、目を細める。
「どうしたの、コトネちゃん?」
「――来ます!」
地平線の彼方、それはやって来ました。
――ドドドドドドドド!!!!
忙しない足音と共に現れたのは、ホーンラビットの群れ。
ホーンラビットはダンジョン内の生息数が多く、群れでいることも珍しくありません。
草食の彼らは、近場の草原を食べ尽くすと、新たなエサを求めて大移動をするのです。
その進行方向に、あたしとユイたんさんがいるわけで。
"うわぁ、マジだ!?"
"コトネちゃん良く気付いたな……!"
"まだ全然見える距離じゃなかったのに"
"何で気付けたんだ?"
"てかユイたんたち不味くないか?"
"ホーンラビットは群れだとランクが上がるモンスターなんだよな"
"確か2ランクは上がるはず"
"しかもこれ、間違いなく気付かれるぞ!"
"今から隠れられないし"
"迎え撃つしかないのか……!"
最低ランクのホーンラビットといえ、モンスターはモンスター、現代の動物とは訳が違います。
ましてあの数、一斉に飛び掛かられたら厄介です。
ならば、近づかせないまで
あたしは足元の石ころを手に取る。
「――てぇい!」
ドシュッ!
ホーンラビットの群れに向かって、思い切り投げる。
放たれた石ころはグングンと加速。
それは次第に、真っ赤になるほど高熱を帯び、やがて……大地を抉るほどの巨大な衝撃波を纏いました。
そして、
――チュドオオオオオオオオンッッッ!!
群れに直撃し、ホーンラビットは爆散。
地面は丸焦げとなり、辺りに大量の魔石が散らばりました。
「さ、参りましょう、ユイたんさん」
"""何じゃそりゃあああああ!?!?!?"""
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