第7話 ヲタク少女、ダンジョン配信をする
あたし、田中コトネ。
どこにでもいる平凡な女子高生。
そんなあたしですが、今すごいことになっています。
「こんユイ〜! 『戦乙女の1番星』、私、如月ユイは本日、秋葉原ダンジョンに来てま〜す!」
隣には、あの超人気Dライバーのユイたん。
「今日は、何と……特別ゲストに来ていただいてます! わーぱちぱち!」
そんな最推しのユイたんと……。
「ふふふ、一体誰だろうね〜?」
まさかの。
「今、話題のあの人って言えば分かるかな〜?」
ダンジョン配信……!
「それではご紹介します! 秋葉原を救った英雄であり、私の命の恩人、田中コトネちゃんです、どうぞ〜!!」
「――おぼろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろッッ!?!?」
「コトネちゃん!?」
い、いけない、あまりの重圧と緊張によるプレッシャーでつい……!
"何があったんだ!?"
"すごい音聞こえてきたぞ"
"地獄からの咆哮みたいな"
"多分近くにモンスターいるぞ!"
"警戒してユイたん!!!"
"マジで身の安全優先"
ホログラムに投影されたチャットが流れていく。
幸い、配信には映らなかったようです……。
ユイたんさんが瞬時にドローンの角度を変えてくれたお陰です。
開始直後だというのに、同接は20万人。
待機人数の時点で、既に15万人は超えてました。
初速がエグい……!!
ユイたんパワーも去ることながら、先日のスタンピード以来の配信……ということもあって、界隈を超えて注目されているのが分かります。
「大丈夫コトネちゃん、落ち着いた?」
「あうう、すみません、出だしからつまづいちゃって……」
背中をさするユイたんさんの優しさが辛い。
そりゃ吐いてしまいますよ。
だって想像出来ないレベルの不特定多数の人に観られるんですよ。
いつもはリスナー側でしたが、Dライバーの皆様は、こんな重圧の中で配信をして下さったのですね……。
すると、
ぎゅー!
突然、ユイたんさんはあたしを抱き締めました。
「ふええ!?!?」
「よしよし、大丈夫だよ、私が付いてるからね」
そのまま頭を撫でまわすと……。
「肩の力抜いて、そのままのコトネちゃんで良いんだよ」
最後には、頭をポンポンして下さいました。
「はい、おまじない♪」
ユ、ユイたんさん……!
こんな下々民のあたしを見捨てず、手を差し伸べて下さる。
やっぱり貴女は女神、その溢れ出る幸せを振り撒くため、この現世に下天された存在なのですね……。
はぁ……無理、しんどい。
「今日はコトネちゃんのこと、みんなにいっぱい知って貰おう♪」
「はい、田中コトネ、頑張ります!」
ユイたんさんはドローンを直し、再び配信を開始する。
「改めましてご紹介! 秋葉原の英雄、そして私の命の恩人、田中コトネちゃんです、どうぞ〜!!」
「ど、どうも、ご紹介に預かりました、田中コトネと申します!」
"あ、ユイたんのゲリラ配信の娘だ!!"
"例の茶髪ベレー帽!"
"ヲタ女子……!"
"もう既に繋がってたとは!!"
"ユイたん有能"
"マジで本人じゃん"
"この2ショット熱いな"
"早くもチャンネルに出演かよ!!"
あたしが映ると、途端にチャットが爆速で流れて行きました。
茶髪ベレー帽、ヲタ女子など、あたしに関するワードが飛び交っています。
「コトネちゃんはね、昨日の私の握手会に来てくれたんだ、その後2人で一緒にお茶して、いっぱいお話したんだよ、ね〜♪」
「は、はひ……!」
"俺たちのユイたんを救ってくれてありがとう"
"コトネちゃんマジで感謝"
"ガチの英雄だわ"
"ほんと見た目はただの女の子なんだな"
"ありがとう、ありがとう"
"ユイたんと2人でお茶とか最高かよ"
"ワイも混ぜて混ぜて〜"
"↑百合に割込むヤツは◯ね"
偶然とは言え、ユイたんさんを助けたことに対して、皆が褒め称えてくれました。
リアルタイムで届けられる賞賛というのは、何というか……むず痒くなってしまいます。
「それでね、今日はそんなコトネちゃんと一緒にダンジョン配信していこうと思います! よろしくね、コトネちゃん♪」
「は、はいいいいいいい!! どうかよろしくお願いしますうううう!!」
あたしは90度のお辞儀をする。
"めっちゃ緊張してるww"
"ぐうかわ"
"ユイたんと一緒にダンジョン配信とか、国救うレベルの徳積まないと無理だよな"
"てか本人救ってるしな"
"そりゃ徳カンストするわ"
"当然の結果"
"Dライバーヲタクって噂も本当そうだね"
"もしそうなら今のシチュヤバいな"
「お察しの通り、実はこのあたし田中コトネは筋金入りのDライバーヲタクでございまして、その中でもユイたんさんは最推しなのでございます!」
"ユイたん最推し勢きちゃあ!"
"そりゃ緊張するわな……!"
"生ユイたんの火力ヤバいだろうな"
"頑張れ、スマホ越しに応援してるぞ!"
"ワイなら尊みで消し飛ばされる"
"俺たちは脆く儚い存在"
「コトネちゃんはすごいんだよ、Dライバーへの愛に溢れてるって言うか……想いを聞いてると嬉しくなるんだ! 私、Dライバーやってて良かった、コトネちゃんみたいなファンに出会えたんだもん」
「も、もったいなきお言葉です……!」
「そんなコトネちゃんのことを、みんなにも知ってもらいたくて、今日は特別ゲストとして来てもらったんだ♪」
ユイたんさんは目配せする。
「巷では、あたしについて色々な噂が飛び交っているようです。先日のイレギュラーを防いだ件で、実はDライバーなのではないか、もしくはDライバー志望の子なのか……」
「うんうん♪」
「どちらにでもないにしろ、将来は絶対にDライバーになるべき、それが1番だという口コミも見受けられました」
「その通り!」
「――が、しかぁし……!!」
「!?」
「それは皆さんが創り出した幻想なのです!」
"びっくりした"
"どうした?"
"何だ何だ!?"
"流れ変わったな"
あたしはドローンに向かって力説する。
「いいですか……Dライバーちゃんは、ほんの一握りの選ばれし者のみがなれる、尊みと愛くるしさに溢れたスーパーアイドル! もはや人間国宝と呼んでも差し支えがありません!」
"まぁ分かる"
"最先端のアイドルって言えばDライバーだもんな"
"ここ10年連続、子供のなりたい職業の1位"
"なりたくてもなれないヤツが大半"
"誰しもが1度は夢みるよな"
"それがどうかしたん?"
「そんな神に連なる存在のDライバーちゃんに……あたしのような一介のヲタクがなるなど言語道断! 誇りある立場には、それに値する人間がなるべきなのです!」
"自分にはその資格がないと??"
"でもSランクモンスターぶっ飛ばしてたじゃん"
"しかもワンパンで"
"あんなこと出来るDライバー他にいないぞ?"
"普通に天職だと思うんだが"
"絶対Dライバー始めた方がいい"
「あたしは一般人以下の平凡ド庶民、容姿に関しては平均以下、Dライバーちゃんの美貌に比べれば月とすっぽん、優雅に舞う天使と日陰に潜むゴ◯ブリ……生物としてのレベルが違うのは言うまでもありません」
"ひ、卑屈すぎる……!"
"何でここまで自分を下げられるんだよ"
"20万人以上が観てるんだぞ"
"てか普通に可愛いぞ"
"ぐう分かる"
"間違いなく売れる"
「なるほど……これは重症ですね」
あちゃー、と額に手を充てる。
ここまで酷いとは思いませんでした。
あたしのことを可愛いなどと言ってのける始末。
どうやら視力にも影響が出ているようです。
「そんな皆さんの目を覚ますべく、今日、あたしは参りました」
あたしは屈託のない笑顔を見せる。
「このあたし――田中コトネが、如何にDライバーに向いてないか、多くの方々に見てもらうべく、今日このユイたんさんの配信にお邪魔させていただきました! 全力で頑張らせていただきますので、どうかよろしくお願いします!」
そう、知っていただくのです。
あたしがDライバーに相応しくない存在だと言うことを。
ユイたんさんの配信を通して、世界中の皆に失望してもらうのです……!
「ちょ、ちょっとコトネちゃん、そっちの方向で頑張っていくの!?」
「皆さん、絶望の準備はいいですか?」
「全然目が合わない……!?」
あたしをゆっさゆっさ揺らすユイたんさん。
申し訳ありません、ですがこうするしかないのです。
もちろん、ユイたんさんにも諦めてもらいます。
ヲタクのあたしがDライバーになるなど、解釈不一致で頭がおかしくなるのですよ。
「むむむ、なら私は……コトネちゃんの魅力を全力でアピールしてみせるよ! リスナーの皆も応援よろしくね!」
「ふっふっふ……そう上手くいきますかねぇ」
"なんかすごいことになってきたな"
"もちろんワイらはユイたんの味方"
"頑張れユイたん!!"
"まさかの対決"
"ユイたんVS田中コトネ"
"何の勝負だこれ……?"
今日を境に、あたしがDライバーに向いているなんて世迷言を言う人は二度と現れないでしょう。
この時までは……そう思ってました。
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