第19話 ヲタク少女、女番長を分からせる
「何だ、ついにやる気になったのか?」
ナギ姐様が鬼魔愚零を肩に担ぐ。
その表情は、どことなく嬉しそうでした。
ですが、あいにくあたしの考えは変わってません。
「んじゃ行くぜえええ!!」
ナギ姐様の攻撃。
あたしはその軌道を読み、最小限の上半身の動きで避ける。
「やるな、だがコイツはどうだ!」
続けて2撃目、あたしは前を見ず、しゃがむことで回避。
「コイツ、動きがさっきと違う……!?」
「実はあたしは魔力ゼロでして、そのおかげで魔力を探知出来るのです」
「如月の配信で言ってたな、それがどうした……?」
「もっと言うと、体内に流れる魔力も細かく分かるのです、魔力の残量も、身体のどこに魔力強化がされてるかも、魔力が減れば直後にスキルや魔法を使うのだって分かります!」
「つまり、次に相手の繰り出す一手が分かるってことか……!?」
「そうなのです、未来予知なのです!」
ぱんぱかぱーん!
あたしは拳を突き上げる。
特に人の魔力操作は、技術として確立されてる分読みやすかったりします。
「んじゃ、これはどうだ!」
ナギ姐様の魔力消費を確認。
この量は……竜骨砕きが来ます!
あたしは釘バットを警戒、横薙ぎの紫電一閃は空を切り、難なく対処。
と見せかけて……。
「――本命はこっちですね!」
すかさず繰り出されたケンカキックを、若干のけ反ることで回避。
あたしの顔面と爪先、僅か1センチ。
「なっ!?」
ナギ姐様の顔に、汗がタラリと流れる。
右脚に込められた魔力、見逃すわけにはいきません。
"攻撃が見切られてる……"
"まだ田中コトネに一撃も当てられてないぞ"
"ナギ姐様押されてない?"
"完全無欠の鬼龍院ナギサが……敗北?"
"強さが取り柄の『悪鬼羅刹』が……!?"
動揺が隠せていないチャット欄。
今、この瞬間も生配信中、同接は50万人を超えています。
「いい、いいねぇ、ますます気に入ったぜ……田中コトネ!」
しかし、むしろナギ姐様はこの状況を楽しんでいるようでした。
あくなきまでの強さを追い求め、立ち向かうその姿……解釈一致過ぎます!
「ナギ姐様、先程も申し上げましたが、あたしは一切拳を振うことは致しません」
「は、これだけの能力見せといて、まだそんなこと言ってんのかよ」
ようやく本番、と言わんばかりにナギ姐様は駆け出す。
「コトネちゃん反撃して!」
ユイたんさん、それはどうしても出来ないのです。
Dライバーちゃんを愛する者として、超えられない一線。
あたし、田中コトネが出来ることは。
「――その身を癒すことのみ!」
ずびしっ!
すかさず懐に潜り込み、親指を突き立てる。
「んぅっ!」
ナギ姐様から僅かに声が漏れる。
あたしは跳躍し、間合いを取る。
「い、一体何しやがった……!?」
「この田中コトネ、誠に勝手ながら魔力のツボを押させて頂きました」
「魔力の……ツボだと?」
魔力のツボ、あたしの造語です。
魔力を持った人々の身体には、魔力が多く巡る中継地点が必ずあり、その場所、数は指紋のように人によって違います(もちろんあたしにしか見えません)
そこを刺激すれば、ツボ押しで血行が良くなるように、魔力の流れが良くなるのです。
「おおお、何だこりゃ……身体が軽い」
自らの身体を確認するナギ姐様。
「魔力の流れるスピードは体調によって左右されます。今日のナギ姐様の魔力の流れは、普段の配信で観るよりも0.2秒遅い」
とどのつまり。
鬼龍院ナギサ様、貴女は。
「――充分な休息が取れていませんっ!!」
「なっ!?」
あたしは指を刺すと、ナギ姐様はたじろぐ。
「確かにアネゴは昨日の深夜からダンジョンに潜ってた」
「帰りは朝方、そこから2時間だけ寝て田中コトネの学校に行ったからな……」
「普段から半日以上ダンジョンに潜ることも、そんな日が1週間続くのも珍しくないよな」
ヒソヒソと話す『悪鬼羅刹』メンバー。
あたしの読みは当たっていたようです。
「今のナギ姐様のコンディションは、どう考えても万全とは思えないのです!」
「で、出鱈目言うんじゃねぇ、何が0.2秒だ! そんなので調子まで分かるかよ!」
「分かります、だって」
ニタァァッ!
「――いつも観てますからぁ……!」
「ひっ!?」
ザッ……!
ナギ姐様はその場から一歩下がる。
「アネゴが退いた……!?」
「ジェネラルゴブリンの群れを前にしても、一歩も引かなかったあのアネゴが!?」
思わぬ光景に『悪鬼羅刹』メンバーが騒つく。
「ち、ちがう! これは!」
「ナギ姐様、貴女が少しでも安らげるように、この田中コトネ、尽力させていただきます!」
「ほざけええええええええ!!」
ずびし!
「んくぅっ!」
「先ずは肩甲骨!」
ずびし!
「はうっ……!」
「続けて側腰部!」
すれ違い様、魔力のツボを押すあたし。
これは全てナギ姐様のため、推しの全力の姿が見たい一心なのですよ!
「お、お前……やめろ……!」
"なぁ、何かナギ姐様……"
"エロいよな"
"忘れてたけどナギ姐様も女なんだよな"
"堪えようとしてるのが逆に唆られる"
"分かる、抗ってる感がいい"
"ちょっと離席します"
「……!!!」
チャットを観て、プルプルと震えるナギ姐様。
「まだまだ参ります!」
ずびし! ずびし! ずびし!
「んんんんんんっ……!」
四方八方、あたしはツボを押し続ける。
ナギ姐様の魔力は活性化、見る見るうちに速くなっていきます!
「ふーっ……ふーっ……!」
口元を腕で押さえるナギ姐様。
脚はガクガクと震え、立っているのがやっとのようです。
「いい加減にしろよ……お前えええ!!」
ナギ姐様の突撃。
すると、巻いていたサラシが緩み……。
はらり……ぶるるんっっ!
「――おわあああああああああああ!?!?」
「――ぴゃあああああああああああ!?!?」
暴発するように、その隠れた凶器が姿を現しました……!
勝負が長引いたことにより、胸のサラシが限界を迎えたようです。
"キタアアアアアアア!!!!!!"
"うおおおおおおおお!!!!!!"
"ありがとう……ありがとう!!!!"
"永久保存確定"
"これ危険物取扱資格ないとダメだろ!!"
"ナギ姐様をこんな目で見たのは初めてです、うっ!"
"特に意味はありませんがチャンネル登録しました"
「見るな、見るなぁぁぁ!!!」
"見るなと言われましても"
"これ『悪鬼羅刹』の公式チャンネルですよ"
"ナギ姐様が始めた物語じゃないですか"
"他所見せず配信を刮目せよとは、ナギ姐様の教えであります!"
"リスナーとして見逃せません、決して他意はないですキリッ"
"自分まだいけます!"
「ク、クソッ! 配信止めろ、今すぐだ!!」
鉄檻の外の『悪鬼羅刹』メンバーは鼻血を出し、バタバタと倒れていました。
「え、えっちすぎです、アネゴ……」
「お前らぁぁぁ!!!!」
最後の1人が倒れ、ナギ姐様を除いて全滅しました。
「う、うぐうううう……!」
ナギ姐様は耳まで真っ赤になり、唇を噛み締め、必死に胸を隠します。
すごいです、抑える腕から溢れています。
普段はサラシでキツく巻き上げていたのですね。
まさか……ここまでの物をお持ちだったとは気付きませんでした。
「この田中コトネの眼を持ってしても!」
ナギ姐様は素早い手捌きでサラシを巻き直すと、
グシャッ!
取り出した檻のリモコンを踏み潰しました。
「田中コトネぇぇ……ここがオレとお前の死に場所だ!」
◇
※三人称視点
今までの面目が潰れるレベルの恥態を晒しつつも、鬼龍院ナギサは冷静だった。
これは、数々のモンスターとの戦闘経験により、あらゆる状況に対応してきた本人の努力の賜物だった。
(まだある、オレの勝機は!)
魔力のツボ、とかいうふざけたポイントを押されたことにより、不本意ながらもナギサは絶好調だった。
現在のコンディションは、1週間分の休暇明けと同等。
今の自分は、最強と言っても過言ではない。
とはいえ、魔力を使った攻撃はことごとく読まれてしまう。
(そんなら、これだ!)
鬼龍院は鬼魔愚零での攻撃を敢行。
「よっ、はっ!」
田中コトネはステップワークで簡単に避ける。
魔力を介している限りは、この繰り返しだろう。
ならば、魔力を使わないなら?
鬼龍院は途中で鬼魔愚零から手を離す。
「!?」
コトネの視線が鬼魔愚零に向く。
その隙に、鬼龍院は腕の魔力をゼロにし、コトネの両腕を掴む。
「ふえ!?」
そのままガッチリと固定、面食らった顔を見るに、予想外の動きだったようだ。
「これが欲しかった」
魔力を読めたとしても逃げられない。
この一瞬が……!
鬼龍院は全魔力を額に集中させる。
女番長時代、トドメに必ず使っていた必殺技があった。
それは『頭突き』、これを食らって立っていられたヤツは、モンスターを含めて誰もいない。
「――喰らいやがれぇぇ!!」
ごおぉぉぉぉぉぉぉん!!
鬼龍院ナギサ、田中コトネ、両者の頭がぶつかり、寺の鐘のような音が響き渡る。
数秒間の沈黙。
1人の額から、お餅のようにたんこぶが膨らむ。
そして、ずるりと身体が崩れ……。
どさっ!
『悪鬼羅刹』所属Dライバー、鬼龍院ナギサは白目を剥きながら仰向けに倒れた。
勝者、田中コトネ。
鬼龍院の全魔力を注いだ頭突きも、ヲタクの石頭には敵わなかった。
そんなコトネはと言うと。
「うへへ、ガチ恋距離超えてガチ喰い距離……最高ですぅ!」
立ったまま、トランス状態になっていた。




