第18話 ヲタク少女、タイマンを張る
◇
※如月ユイ視点。
一方その頃、如月ユイは『戦乙女』本社ビルの休憩室にいた。
「コトネちゃん、自信持ってくれたかな?」
先日、田中コトネをゲストに迎えた公式配信。
同接はまさかの100万人を超え、ダンジョン界の歴史に刻まれるレベルとなった。
しかし、それは自分1人で到達出来たわけはないことを理解していた。
あれは間違いなく、田中コトネの力だと。
ユイは、今回で獲得した最大同接DライバーTOP10入りの座を辞退している。
巨大魔結晶発見の件は『戦乙女』の上層部からの圧力があり、流石に断れなかったが。
それ自体も、田中コトネがいなければなし得なかった。
(コトネちゃん、自分には何の魅力がないって言ったけど)
そんなことはない、それはきっとリスナーたちも分かってくれたはず。
その結果が、同接100万人という形で表れた。
もしコトネちゃんが配信を始めたら、あっという間にトップDライバーとして、その名を歴史に刻むだろう、というかもう刻んでる。
でも、当の本人には全くそんな気がない。
「うーん、どうしよう……」
頭を捻って考える。
もちろん勧誘は続けてみるが、結局のところ、本人にやりたいと思ってもらわなければ意味がない。
「私自身、もっと活動を頑張ればいいんだ!」
きっと努力が足りなかったんだ。
今以上に輝いてる姿を見せれば、きっとDライバーをやりたい、そう思ってもらえるに違いない。
そして……可能ならば『戦乙女』に入ってもらいたい。
『戦乙女』はダンジョン配信事務所でも大手中の大手、所属Dライバーに寄り添った手厚いサポートを受けられる。
「よぅし……私、頑張る!」
『戦乙女の1番星』、如月ユイは頬を叩いて鼓舞する。
すると、突然スマホが鳴った。
ダンジョン配信専用サイト――ダンジョンチューブのオススメ生配信の通知だった。
チャンネル主は『悪鬼羅刹』。
そこに映っていたのは、鉄檻の中、武装した鬼龍院ナギサと、ガタガタと怯える田中コトネの姿だった。
「――コトネちゃん!?」
思わず立ち上がる。
今のダンジョン社会、Dライバーは国力そのもの。
その貢献度によっては、多少の荒事なら目を瞑られる傾向があった。
中でも鬼龍院ナギサはDライバーでも屈指の武闘派、魔石の納品量、ダンジョン内の未開拓領域の踏破数は上位に食い込む。
そんな彼女の率いる『悪鬼羅刹』は、目的のためなら強行手段を取ることも厭わない。
「まさか……!」
ユイは瞬時に理解した。
鬼龍院ナギサは、コトネの実力に目を付け、無理矢理にでも事務所に入らせようとしているのだと。
デュランダルを腰に携え、ユイは一目散に休憩室を飛び出す。
『悪鬼羅刹』の事務所はここからそう遠くない……!
「待っててコトネちゃん……今行くから!」
◇
「おーこりゃすげぇ、もう同接20万だ、まだ始まって数分だぜ」
鉄檻の中、ナギ姐様は投影された配信画面を眺める。
あたし、田中コトネは震えることしかできません。
「これも田中コトネブーストってヤツか、いいねぇ燃えてきたよ、オレの鬼魔愚零もお前の血が欲しいってよ」
ナギ姐様は釘バット―― 鬼魔愚零をグルンと振り回す。
ひいいいいいい……!
この 鬼魔愚零、ナギ姐様が喧嘩に必ず使ってた釘バットで、あまりに怨念が強すぎて聖遺物になったみたいです!
「あの、ほんと、すみませんでしたぁ! もうナギ姐様の機嫌を損ねるようなことは致しません、だから……命だけは!」
「心配すんな、命まで取るつもりはねーよ、だが、オレのありがたい提案に乗るつもりはねぇんだろ?」
「う……それは」
「だからよぉ、首でもブチ折ってやれば、オレの提案に頷きやすくもなるよなぁ」
「それ命取られてますぅぅぅぅ!! あたし天に召されてますぅぅぅぅ!!」
「ゴチャゴチャうるせぇな」
ナギサ様は一歩踏み出し、鬼魔愚零を振り下ろす。
「もう黙れよ」
ボゴオオオオオン!!
鬼魔愚零がテーブルに直撃、無惨な残骸と化す。
「ひいいいいいいいいいい!?!?」
「出たぜ! アネゴの鬼魔愚零の一撃!」
「込められた魔力を質量に加算する、圧倒的な破壊力!」
沸き立つ『悪鬼羅刹』メンバー。
続けて、横に大振りの一撃が迫る。
ドゴオオオオン!!
背後の鉄檻にヒット、被弾したところに煙が上がる。
「ひいいいいいいいい!!」
「チョロチョロしやがって」
ナギ姐様がニヤリと笑う。
あれ、でも何だろ、この感じ……?
その時、扉が勢いよく開けられる。
「――コトネちゃんっ!!」
そして、息を切らしたユイたんが入ってきました。
まさか、あたしめを助けに……!?
「ユ、ユユ、ユイたんさん!?」
「ほ〜、誰かと思ったら如月じゃねぇか、コラボのオファーを出した覚えはねぇんだがな?」
「ナギサちゃん……」
ユイたんさんとナギ姐様、お二人は事務所は違えどデビュー時期が近いこともあり、同期の間柄なのです。
「ナギサちゃん、こんな方法間違ってる……今すぐやめて!」
「はっ知るかよ、これがウチの方針、欲しいモンは力づくで手に入れる、そうやってのし上がってきたんだ」
「コトネちゃんを見てよ、強制したって誰も幸せにならない……ナギサちゃんだって、本当は分かってるよね」
「知るかよ、コイツもまだ高校生だ、目の前の幸せに気付いてないだけだろ」
「ナギサちゃ――!」
「――さっきからナギサちゃんって言うのやめろ! お前だけなんだよオレのことそう呼ぶの!!」
ナギ姐様が余裕なく叫ぶ。
「あのアネゴをちゃん付けとは……」
「如月ユイ、相変わらずだな……」
「ふぅ〜まあいい、丁度いいから如月、テメェにも説明してやるよ」
ナギ姐様は額の汗を拭う。
「オレの『悪鬼羅刹』が配信事務所の頂に立とうとしているのは周知の事実、オレらにとっちゃ『戦乙女』は目の上のたんこぶ、特に如月ユイ……知名度、人気、Dライバーでも最前線にいるお前の存在は無視出来ねぇ、とはいえ生半可な策じゃ切り崩せない、機が来るまで泳がしとくことにした」
そしたらだ、とナギ姐様は続ける。
「如月ユイ、お前の配信に出てきたコイツ――田中コトネだ、コイツの実力は間違いねぇ、力が全ての『悪鬼羅刹』に相応しい。他の事務所にはもったいねぇ逸材だ、コイツさえいれば…… 『悪鬼羅刹』は頂点に立てる!」
「自分本位で全部を考えすぎだよ、過程が伴わないと、誰からも認められない!」
「はっ、流石No.1のDライバー様は余裕だな、上から見たオレはそんなに哀れか?」
「そ、そんなんじゃ……!」
「あーそうだ、ここ関係者以外立ち入り禁止だったわ」
ユイたんさんに武装した『悪鬼羅刹』メンバーが迫る。
「部外者にはご退場願おうか」
「ユイたんさん!」
「くっ……!」
ユイたんさんはデュランダルに手を掛けますが、抜刀までには至りません。
大手の『戦乙女』は品行方正が絶対。
他事務所とのトラブルはもっての外、ナギ姐様も分かってやっているのです……!
「つーわけだ如月、お前は黙って見てるしかないんだよ」
ナギ姐様の鬼魔愚零が紫に光り輝く。
「――新生『悪鬼羅刹』の旗揚げをなぁ!」
ボゴオオオオオン!!
放たれた渾身の一撃、あたしがいた床には、隕石が落ちたかのような大きなヒビが入りました。
「ひいいいいいいいいいいい!?!?」
「来たああ!! アネゴの『竜骨砕き』!」
「Dライバーでも1、2を争う破壊力!」
この威力、人の身じゃ受けきれませんよ!
「……気に入らねぇな」
ナギ姐様がポツリと呟きました。
「エンペラーデーモンにクリムゾンドラゴン、Sランクモンスターを簡単に捻り潰す力を持っておきながら、それを一向に使おうとしない、田中コトネ、お前オレのこと舐めてんのか?」
「ふええ、そういうわけじゃ」
「じゃあ何でやり返さねぇ、このままミンチになりたいわけじゃねぇよな?」
「あたし……Dライバーヲタクとして決めてることがあるんです」
それは、
【如何なることがあっても、Dライバーちゃんを傷付けてはならない】
「気持ち的にも、物理的にも、傷付けてしまった時点でヲタク失格なのです。だから……あたしは絶対に攻撃しません!」
「それじゃずっとこの檻の中にいるってのか、オレを倒さないと出られないのによ」
「それは、嫌です」
「ならさっさと『悪鬼羅刹』に入れや」
「それも……嫌です」
「じゃあ腹括って戦えや、ウダウダ文句ばっかり言いやがって!」
あたしは檻の隅で目を瞑りながら言いました。
「――嫌です!」
ぶちっ!
「それでいいんだな、遺言は……!」
ボゴオオオオオン!!
無慈悲に繰り出されるナギ姐様の竜骨砕き。
あたしは辛うじて横に飛んで避けました。
「コトネちゃん!!」
「まぁいいや、気絶させて拇印押させたらゆっくり躾けてやるよ」
逃げ続ける最中、あたしは違和感を感じていました。
それは他でもない、ナギ姐様のこと。
この違和感の正体は……恐らく!
「間違いない……!」
あたしはすくっと立ち上がり、ナギ姐様と相対しました。




