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第18話 ヲタク少女、タイマンを張る



 ※如月ユイ視点。


 一方その頃、如月ユイは『戦乙女(ワルキューレ)』本社ビルの休憩室にいた。


「コトネちゃん、自信持ってくれたかな?」


 先日、田中コトネをゲストに迎えた公式配信。

 同接はまさかの100万人を超え、ダンジョン界の歴史に刻まれるレベルとなった。

 しかし、それは自分1人で到達出来たわけはないことを理解していた。

 あれは間違いなく、田中コトネの力だと。

 ユイは、今回で獲得した最大同接DライバーTOP10入りの座を辞退している。

 巨大魔結晶発見の件は『戦乙女(ワルキューレ)』の上層部からの圧力があり、流石に断れなかったが。

 それ自体も、田中コトネがいなければなし得なかった。


 (コトネちゃん、自分には何の魅力がないって言ったけど)


 そんなことはない、それはきっとリスナーたちも分かってくれたはず。

 その結果が、同接100万人という形で表れた。

 もしコトネちゃんが配信を始めたら、あっという間にトップDライバーとして、その名を歴史に刻むだろう、というかもう刻んでる。

 

 でも、当の本人には全くそんな気がない。


「うーん、どうしよう……」


 頭を捻って考える。

 もちろん勧誘は続けてみるが、結局のところ、本人にやりたいと思ってもらわなければ意味がない。


「私自身、もっと活動を頑張ればいいんだ!」


 きっと努力が足りなかったんだ。

 今以上に輝いてる姿を見せれば、きっとDライバーをやりたい、そう思ってもらえるに違いない。

 そして……可能ならば『戦乙女(ワルキューレ)』に入ってもらいたい。

 『戦乙女(ワルキューレ)』はダンジョン配信事務所でも大手中の大手、所属Dライバーに寄り添った手厚いサポートを受けられる。


「よぅし……私、頑張る!」


 『戦乙女(ワルキューレ)の1番星』、如月ユイは頬を叩いて鼓舞する。

 

 すると、突然スマホが鳴った。

 ダンジョン配信専用サイト――ダンジョンチューブのオススメ生配信の通知だった。


 チャンネル主は『悪鬼羅刹(ディアボロス)』。

 そこに映っていたのは、鉄檻の中、武装した鬼龍院ナギサと、ガタガタと怯える田中コトネの姿だった。


「――コトネちゃん!?」


 思わず立ち上がる。

 今のダンジョン社会、Dライバーは国力そのもの。

 その貢献度によっては、多少の荒事なら目を瞑られる傾向があった。

 中でも鬼龍院ナギサはDライバーでも屈指の武闘派、魔石の納品量、ダンジョン内の未開拓領域の踏破数は上位に食い込む。

 そんな彼女の率いる『悪鬼羅刹(ディアボロス)』は、目的のためなら強行手段を取ることも厭わない。


「まさか……!」


 ユイは瞬時に理解した。

 鬼龍院ナギサは、コトネの実力に目を付け、無理矢理にでも事務所に入らせようとしているのだと。

 デュランダルを腰に携え、ユイは一目散に休憩室を飛び出す。


 『悪鬼羅刹(ディアボロス)』の事務所はここからそう遠くない……!

 

「待っててコトネちゃん……今行くから!」


 ◇


「おーこりゃすげぇ、もう同接20万だ、まだ始まって数分だぜ」


 鉄檻の中、ナギ姐様は投影された配信画面を眺める。

 

 あたし、田中コトネは震えることしかできません。


「これも田中コトネブーストってヤツか、いいねぇ燃えてきたよ、オレの鬼魔愚零(きまぐれ)もお前の血が欲しいってよ」


 ナギ姐様は釘バット―― 鬼魔愚零(きまぐれ)をグルンと振り回す。


 ひいいいいいい……!

 この 鬼魔愚零(きまぐれ)、ナギ姐様が喧嘩に必ず使ってた釘バットで、あまりに怨念が強すぎて聖遺物(アーティファクト)になったみたいです!


「あの、ほんと、すみませんでしたぁ! もうナギ姐様の機嫌を損ねるようなことは致しません、だから……命だけは!」


「心配すんな、命まで取るつもりはねーよ、だが、オレのありがたい提案に乗るつもりはねぇんだろ?」


「う……それは」


「だからよぉ、首でもブチ折ってやれば、オレの提案に頷きやすくもなるよなぁ」

 

「それ命取られてますぅぅぅぅ!! あたし天に召されてますぅぅぅぅ!!」


「ゴチャゴチャうるせぇな」


 ナギサ様は一歩踏み出し、鬼魔愚零(きまぐれ)を振り下ろす。


「もう黙れよ」


 ボゴオオオオオン!!

 鬼魔愚零(きまぐれ)がテーブルに直撃、無惨な残骸と化す。


「ひいいいいいいいいいい!?!?」


「出たぜ! アネゴの鬼魔愚零(きまぐれ)の一撃!」


「込められた魔力を質量に加算する、圧倒的な破壊力!」


 沸き立つ『悪鬼羅刹(ディアボロス)』メンバー。

 続けて、横に大振りの一撃が迫る。


 ドゴオオオオン!!

 背後の鉄檻にヒット、被弾したところに煙が上がる。


「ひいいいいいいいい!!」


「チョロチョロしやがって」


 ナギ姐様がニヤリと笑う。

 あれ、でも何だろ、この感じ……?


 その時、扉が勢いよく開けられる。


「――コトネちゃんっ!!」


 そして、息を切らしたユイたんが入ってきました。 

 まさか、あたしめを助けに……!?


「ユ、ユユ、ユイたんさん!?」


「ほ〜、誰かと思ったら如月じゃねぇか、コラボのオファーを出した覚えはねぇんだがな?」


「ナギサちゃん……」


 ユイたんさんとナギ姐様、お二人は事務所は違えどデビュー時期が近いこともあり、同期の間柄なのです。


「ナギサちゃん、こんな方法間違ってる……今すぐやめて!」


「はっ知るかよ、これがウチの方針、欲しいモンは力づくで手に入れる、そうやってのし上がってきたんだ」


「コトネちゃんを見てよ、強制したって誰も幸せにならない……ナギサちゃんだって、本当は分かってるよね」


「知るかよ、コイツもまだ高校生だ、目の前の幸せに気付いてないだけだろ」


「ナギサちゃ――!」


「――さっきからナギサちゃんって言うのやめろ! お前だけなんだよオレのことそう呼ぶの!!」


 ナギ姐様が余裕なく叫ぶ。


「あのアネゴをちゃん付けとは……」


「如月ユイ、相変わらずだな……」


「ふぅ〜まあいい、丁度いいから如月、テメェにも説明してやるよ」


 ナギ姐様は額の汗を拭う。


「オレの『悪鬼羅刹(ディアボロス)』が配信事務所の頂に立とうとしているのは周知の事実、オレらにとっちゃ『戦乙女(ワルキューレ)』は目の上のたんこぶ、特に如月ユイ……知名度、人気、Dライバーでも最前線にいるお前の存在は無視出来ねぇ、とはいえ生半可な策じゃ切り崩せない、機が来るまで泳がしとくことにした」


 そしたらだ、とナギ姐様は続ける。


「如月ユイ、お前の配信に出てきたコイツ――田中コトネだ、コイツの実力は間違いねぇ、力が全ての『悪鬼羅刹(ディアボロス)』に相応しい。他の事務所にはもったいねぇ逸材だ、コイツさえいれば…… 『悪鬼羅刹(ディアボロス)』は頂点に立てる!」 


「自分本位で全部を考えすぎだよ、過程が伴わないと、誰からも認められない!」


「はっ、流石No.1のDライバー様は余裕だな、上から見たオレはそんなに哀れか?」


「そ、そんなんじゃ……!」


「あーそうだ、ここ関係者以外立ち入り禁止だったわ」


 ユイたんさんに武装した『悪鬼羅刹(ディアボロス)』メンバーが迫る。


「部外者にはご退場願おうか」


「ユイたんさん!」


「くっ……!」


 ユイたんさんはデュランダルに手を掛けますが、抜刀までには至りません。

 大手の『戦乙女(ワルキューレ)』は品行方正が絶対。

 他事務所とのトラブルはもっての外、ナギ姐様も分かってやっているのです……!


「つーわけだ如月、お前は黙って見てるしかないんだよ」


 ナギ姐様の鬼魔愚零(きまぐれ)が紫に光り輝く。


「――新生『悪鬼羅刹(ディアボロス)』の旗揚げをなぁ!」

 

 ボゴオオオオオン!!

 放たれた渾身の一撃、あたしがいた床には、隕石が落ちたかのような大きなヒビが入りました。


「ひいいいいいいいいいいい!?!?」


「来たああ!! アネゴの『竜骨砕き』!」


「Dライバーでも1、2を争う破壊力!」


 この威力、人の身じゃ受けきれませんよ!


「……気に入らねぇな」


 ナギ姐様がポツリと呟きました。


「エンペラーデーモンにクリムゾンドラゴン、Sランクモンスターを簡単に捻り潰す力を持っておきながら、それを一向に使おうとしない、田中コトネ、お前オレのこと舐めてんのか?」


「ふええ、そういうわけじゃ」


「じゃあ何でやり返さねぇ、このままミンチになりたいわけじゃねぇよな?」


「あたし……Dライバーヲタクとして決めてることがあるんです」


 それは、


【如何なることがあっても、Dライバーちゃんを傷付けてはならない】


「気持ち的にも、物理的にも、傷付けてしまった時点でヲタク失格なのです。だから……あたしは絶対に攻撃しません!」


「それじゃずっとこの檻の中にいるってのか、オレを倒さないと出られないのによ」


「それは、嫌です」


「ならさっさと『悪鬼羅刹(ディアボロス)』に入れや」


「それも……嫌です」


「じゃあ腹括って戦えや、ウダウダ文句ばっかり言いやがって!」


 あたしは檻の隅で目を瞑りながら言いました。


「――嫌です!」


 ぶちっ!

 

「それでいいんだな、遺言は……!」

 

 ボゴオオオオオン!!

 無慈悲に繰り出されるナギ姐様の竜骨砕き。

 あたしは辛うじて横に飛んで避けました。


「コトネちゃん!!」


「まぁいいや、気絶させて拇印押させたらゆっくり躾けてやるよ」


 逃げ続ける最中、あたしは違和感(・・・)を感じていました。  

 

 それは他でもない、ナギ姐様のこと。


 この違和感の正体は……恐らく!


「間違いない……!」


 あたしはすくっと立ち上がり、ナギ姐様と相対しました。


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