第13話 ヲタク少女、ボスと出会う
あたしとユイたんさんは、モンスターを撃破しながら遺跡の森を進んでいく。
ガオオオオンッ!!
大口を開け、鋭い牙で噛み砕かんとするダンジョンタイガー。
「せいっ!」
ドゴッ!!
あたしは身をかがめ、ガラ空きの土手っ腹に拳をお見舞いする。
ダンジョンタイガーは仰向けに倒れると、魔石に変わる。
すると、新たな魔力の反応。
これは……真後ろ。
ガシッ!
あたしは振り向かず、その魔力源の頭を掴む。
ゴガッ!?
タイラントオーガ、筋骨隆々とした人型のモンスター。人の数倍の膂力に、武器を使える知性がある、と言えばその危険度が分かるでしょうか?
「でぇいっ!」
あたしは掴んだ頭を捻り上げ、叩き付ける。
ドゴオオオオオンッッ!!
タイラントオーガの頭は地面にめり込み、動かなくなる。
遅れて、魔石へと変化。
「ユイたんさんは……!」
アオオオォン!
複数の狼型モンスター、ハザードウルフの波状攻撃、その間を縫うように、ユイたんさんの剣技が光り輝く。
「ディバイン・スラッシュ!」
ザシュッ!
ザシュッ!
ザシュッ!
流れるような聖剣デュランダルの剣閃、斬られたハザードウルフたちは空中に舞い、次々に魔石へと変わっていく。
流石はユイたんさん……!
やっぱりDライバーちゃんの戦闘は華があります。
力に身を任せるあたしとは大違いです!
その時、ユイたんさんの死角からモンスターが襲い掛かる。
キシャアアアアア!!
リザードソルジャー、竜人型のモンスターですが顔はカメレオンに近く、周囲の風景に擬態するのが特徴。
とにかく狡猾な性格で、ここぞとばかりに攻撃を仕掛けてきたようです。
あたしは一目散に走り、勢いのまま踏み切る。
「――日本の宝に何さらしとんじゃワレエエエエッ!!」
ドゴオオオオオン!!
そのまま、あたしは渾身のドロップキックを炸裂させる。
長い舌を出して動かなくなったリザードソルジャーは魔石へと変化。
「ユイたんさんは……あたしがお守りします!」
「ありがとう、コトネちゃん……!」
背中合わせで、再びモンスターと対峙。
そんなこんなで、あたしたちは遺跡の森の奥までやってきました。
名前の通り、古代遺跡のような建造物がありりました。
足を踏み入れると、内部は天井がありますが、すごく高い位置です……!
「この先、とてつもない魔力の流れがあります!」
間違いありません。
件の魔結晶は、すぐそこです!
ユイたんさんは汗を拭いました。
「いよいよだねコトネちゃん、2人で魔結晶を何とかしようね!」
「はい!」
あたしはパチンと頬を叩き、気合いを入れる。
遺跡の森に入ってから、ここまでの道のりで遭遇したモンスターはどれもAからBランク。
比較的、低ランクのモンスターしかいない秋葉原ダンジョンでこれは異常なこと。
「あれ、魔結晶だよコトネちゃん!」
ユイたんさんが指を刺す。
遺跡の中心。
そこには、紫の巨大な結晶が聳えたっていました。
で、デカい……!
建物3階分の高さはあります。
数多のDライバーちゃんの配信を観てきたこのあたしでも、ここまでの魔結晶は見たことがありません!
「す、すごい……こんなの初めて見たよ」
ユイたんさんも呆気に取られていました。
"デカすぎんだろ……"
"魔結晶って大きいヤツでも2メートルくらいって聞いてたんだが……"
"今調べた、ダンジョン連合のデータで3.7メートルが最大"
"じゃあこれ公式記録塗り替えたな"
"神回確定"
"伝説に立ち会えた"
やっぱり規格外みたいですね……。
つまりこの瞬間、ユイたんさんは世界最大の魔結晶を発見したDライバーちゃんとなりました。
この配信はダンジョン連合で貴重な資料として記録され、永遠に語り継がれるでしょう!
今すぐに祝杯を上げたいところ……ですが、まだやることはあります。
「コトネちゃん、近くにモンスターはいそう?」
「いえ、魔力の反応はこの魔結晶の物しかありません。今が破壊するチャンス――」
その時、
突如として、魔結晶の魔力が膨れ上がりました。
ズオオオオオオオ……!
魔結晶から放たれた魔力によって空間が歪み、それは一点に集まることで肉体を構築し、とあるモンスターが具現化しました。
燃えるような紅の竜鱗、雄雄しき翼、背後の巨大魔結晶に負けないその巨躯。
クリムゾンドラゴン。
真紅に染まった、炎のドラゴン種のモンスター。
ダンジョン連合で最高のSランクに指定された、正真正銘、最強モンスターの一角!
「クリムゾン……ドラゴン!?」
バオオオオオオオオオ!!!!
クリムゾンドラゴンは咆哮を上げる。
「ユイたんさん!」
あたしは咄嗟にユイたんを庇い立つ。
爆炎を思わせるその覇気に、遺跡中がビリビリと揺れ動く。
「大丈夫ですか、ユイたんさん!」
「うん、ありがとうコトネちゃん……あっ!」
浮遊していたドローンが、今の咆哮で墜落していました。
"何だ、何があった!?"
"急に画面が暗くなったぞ"
"これドローンがやられたんじゃないか……!
"一瞬、赤いドラゴンみたいなのが見えたような……"
"まさかクリムゾンドラゴンか!?"
"魔結晶から出てきたのか!?"
"ユイたんコトねる大丈夫か!?"
チャットは流れていますが、こちらの映像と音声は届いてないみたいです。
咆哮だけでこの威力……今までのモンスターとはレベルがまるで違います。
ん、待てよ。
配信に映ってないってことは……あたしの活躍がリスナーの方々に観られて、やれDライバー始めろだの、期待の新星だの、言われることもない。
そしてこの場で起きることは、あたし田中コトネとユイたんさん、2人だけの特別な思い出となる。
て、ことは。
好き勝手、暴れられる……!
「――失礼します!」
「コ、コトネちゃん? ひゃ!?」
あたしはユイたんさんを抱き抱え、安全な壁側に移動。
そして、ユイたんさんを下ろすと、あたしはクリムゾンドラゴンに向かってゆっくりと歩く。
「コトネちゃん、まさか1人で戦うつもり、ダメだよ、私も戦う!」
「ユイたんさんはそこで見ていてください」
手前勝手ではありますが……この勝負。
にちゃぁぁぁ!
「――貴女に捧げます……!」
おっほおおおおおおおっ!!
クリムゾンドラゴンの魔石なんて、さぞ大きくて美しいことでしょう!
これほど素晴らしいお布施もありませんよ!
きっと、ユイたんさんも喜んでくれるに違いありません……!
それじゃあ。
「ドラゴン狩りと参りましょうか……!」
バオオオオオ!!
あたしが拳を構えるのを見て、クリムゾンドラゴンは再び咆哮を上げるのだった。




